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大事なのは「どのカートを選ぶか」ではなく「どんな事業設計をするか」
2023年から現在までのEC需要について「率直にいえば減少傾向にあり、数字としてもECサイト単体で見れば苦戦しているケースが多い」と語る河野氏。読者も、自身の生活を振り返ると「リモートワークから出社するようになった」「店舗に買い物に行くようになった」といったように、街中に出る機会やリアルな場での体験を求める割合が増えた人が大半ではないだろうか。
「『ECサイトから売上を生み出すのが難しい』となると、当然ながら新規でブランドを立ち上げたり、ECサイトを構築したりといった動きは鈍化します。D2Cブームの頃は、スタートアップや中小企業のチャレンジが目立っていましたが、今は大手企業が機能強化をしたり、リニューアルをしたりといった動きが主だっている状況です。ECカートベンダーも、エンタープライズ向けの支援や機能強化に目が向いているように感じます」
EC黎明期は、市場環境やテクノロジー自体が発展途上なこともあり、年商規模や求める機能に応じてカートを乗り換えるのが一般的だったが、Shopifyが日本市場に浸透する中でその「常識」も変わりつつある。事業成長に対応できるかどうか、つまり「拡張性の有無」が問われるようになる中で、河野氏は事業者が重要視すべき項目として「事業設計」を挙げた。
「EC化率などの数字に目を向けると、まだまだな部分もありますが、一定水準以上の『購入いただく環境』はもはやどのカートでも実現されています。『どのカートを使えば売れる』という話ではなく、『自分たちがお客様にどのようなコミュニケーションをしたくて、どんな価値提供を目指すのか』がカート選定の基準となり、判断を誤ると数年で乗り換えなければならなくなる、というのが実情でしょう」
ここで指す「事業設計」とは、事業開始やECサイト構築前から「完璧な要件定義や売り場作りをしなければならない」ということではない。発売する商品やサービス、それらを顧客に届ける方法の中で「『何を実現したいのか』『どう貢献したいのか』といったビジネスの根幹に関わるビジョンを言語化できているかどうかが、最終的な勝ち負けの分かれ目にもなっている」と河野氏は強調する。
「たとえば、ベンダーや支援事業者がECサイト構築や新たなツール導入の相談を受けた際、自身の経験やノウハウを踏まえて最大限のアドバイスはしますが、事業者側に『最終的にどうしたいか』『このリニューアルや導入で何を達成したいのか』が見えていなければ、最適解は導き出せません。当事者が判断軸や目指すゴールを自覚していなければ、実施後の成功・失敗の判断もなんとなくで終わってしまいます。そのまま、次のステップに進んでも当然ながらうまくいくことはないので『カートを変えたり、ツールを入れたりしてなんとかしよう』と考えず、足元を固めるところから始めるように勧めたいです」