日本の老舗企業が生き残る道は海外進出
神奈川県小田原市に直営店舗を構える老舗梅専門店「ちん里う本店」。1871年に小田原城で最後の料理長として仕えていた小峯門弥氏が創業した。1代目は料亭を経営していたが、2代目から梅干し専門店となり、現在は梅干しを中心に漬物や菓子類を販売。直営店のほかにも、モール・公式オンラインストアといったECサイトを運営し、三越伊勢丹や高島屋などの百貨店にも商品を卸している。
同社は2012年に海外事業部を設立し、越境ECサイト「NIHON ICHIBAN」を立ち上げた。自社商品とともに、小田原で仕入れた日本の商品をドイツ、アメリカ、オーストラリアなど100ヵ国以上に出荷している。
2023年4月時点で、NIHON ICHIBANの取扱商品数は8,224品、仕入れ先数は158社、メルマガ購読者数は1万人。ちん里う本店の全体売上のうち、63%を海外事業が占める。

海外展開の立役者が、5代目・小峯孝子氏の夫でドイツ出身の株式会社ちん里う本店 常務取締役 ゾェルゲル・ニコラ氏だ。「これまで成長企業しか経験したことがない」と話すニコラ氏は、大学卒業後の1994年にソニー ドイツ社へ就職。1998年には、ダイソン ドイツ社へ二人目の社員として入社した。
「ソニー時代は財務担当でしたが、ダイソン時代は社員数がまだ少なかったため、何もかも自分の手でやらなければならない状況でした。コールセンターや経理の部署の設置、物流も担当しましたし、カスタマーサポートでは自ら商品の修理もしました」

ニコラ氏が日本に渡ったのは2001年。ドイツの製薬会社の日本支社へ転職したときだ。2002年にはドイツテレコムグループであったT-Systemsジャパン株式会社の副社長兼CFOに就任し、IT事業部を生み出した。しかし、妻が5代目を継ぐと「老舗企業は家族」との想いから、外資系企業を退社。ちん里う本店の事業へ専念することにした。
新規事業の立ち上げを数回経験したニコラ氏が、ちん里う本店の海外事業を設立したのは、将来的な日本市場の縮小を懸念したからだ。
「当社の商品は『ご飯のお供』となる食品がほとんどですが、現在はパンやピザが好まれ、日本人の食生活は年々変化しています。人口も減り続けており、10年後、20年後を考えると、特に食品を扱う老舗企業は海外へ進出しなければ売上が立ちません」
百貨店の催事で他の老舗企業の担当者と話した際、「海外向けに販売したいが方法がわからない」と聞いたニコラ氏。「自分は梅干しを作る職人にはなれないが、海外展開では役に立てると思った」という。
「外国人の90%は、梅干しが好きではないでしょう。一方、残りの10%は梅干しが大好きな人々です。世界人口の10%は大きな市場といえます。『小田原城の料理長が創業した』点も、外国人にとっては魅力的なストーリーに感じられます。当社のような小さい会社でも、海外に目を向けると可能性は無限大です」
この記事の続きは……
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