売上成長が停滞する理由はバックオフィスの整備不足
社内のデータ管理は、EC運営にとっても欠かせない要素だ。それにもかかわらず、商品や在庫のデータが点在しており、受発注の管理が煩雑化している事業者は少なくない。20年以上にわたってERP畑を歩んできた海老原氏は、こうした事業者の課題として「売上成長の見通しの不足」を挙げる。
「20年前と比べて、今はモールや低価格で運用できるSaaS型のECプラットフォームが普及し、EC事業を始めるハードルは下がりました。しかし、スタート地点で将来の展望を描けておらず、売上成長にともなってリソース不足に陥る事業者は多いです。どの程度の売上規模になったら、何人体制でどう運営していくのか。ここまで見通せていないと、せっかく売上が伸びても、欠品や請求ミスなどが多発してしまいます」(海老原氏)
ここで渋谷氏は、「顧客の事業者への期待値という観点において、成長企業も大企業も同等」であると述べ、売上の伸びを前提とした計画の重要性を強調する。商品を購入する顧客からすれば、ブランドを運営する事業者の社内体制とサービスの質は、直接的な関係がない。「成長企業のためリソースが不足しているかもしれず、したがってサービスの質が低下しても仕方がない」とは思わないだろう。
「EC売上が上がれば、誰しもが事業規模を拡大したいと考えるはずです。その際に、バックオフィスの事前の整備、準備不足が致命傷となり、顧客満足度を下げてしまう可能性があります。月30件の注文数が、次の月に60件に増えても、急にEC担当者を増やせませんよね。来たるべき需要拡大・事業規模の成長を予測し、運営体制の仕組みを整えておくべきです」(渋谷氏)
最初から運営体制の仕組みやルールが存在していれば、売上成長や多店舗展開に合わせて細かく変更していける。だが、そもそもこうした「ものさし」を設けていない場合、リソース不足に陥ってから方向性を決めなければならず、迅速性が欠け機会損失を余儀なくされることもある。また、致命傷となる事態に遭遇してから即座に手を打つのは容易ではなく、顧客満足度の低下やブランド毀損の懸念にもつながる。
海老原氏が様々な事業者から相談を受ける中では、特に在庫管理に課題をもつケースが多いという。単独の実店舗のみであれば、バックヤードや店内に並んでいる商品数を目で確かめられる。一方、実店舗とECサイトの両方で販売している、ECサイトを多店舗展開しているなど、販売チャネルが増えるほど、正確な在庫の把握は困難になる。
「ECサイトで商品を購入した顧客は、すぐに届けてほしい人もいれば、誕生日プレゼントとして指定した日に必ず届けてほしい人もいます。現在残っているように見える在庫は、実は既に予約が入っている商品かもしれません。複雑化する在庫管理への対応に必要なのが、ERPなのです」(海老原氏)
この記事の続きは……
- 仕組みで解決できる「職人的勘」を社内共有する方法
- 自社ビジネスに詳しい人が使いこなすと成果を発揮できるOracle NetSuite
- 売上150%増、年間800時間の作業工数削減 雑貨ブランド、卸売事例を紹介
※この続きはECzinePress(PDF)に掲載しています。ECzinePressは会員の方のみダウンロードしていただけます。