「LTV」の本来の意味を理解しているか
「LTV」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。株式会社WACUL 代表取締役 垣内勇威氏は、自身のTwitterアカウントで「LTVの意味」を聞くアンケートを実施した。その結果、回答者の66%がLTVの意味として「企業が1人の顧客から得られる生涯価値」を選択。「顧客が1つの会社から得られる生涯価値」を選択したのは11%にとどまった。つまり、多くの人がLTVを企業目線で捉えているのだ。
このアンケート結果は、『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(垣内勇威 著、日経BP)の冒頭で紹介される。垣内氏は本書内で、「LTVは企業視点と顧客視点の両面を同時に満たすことで持続的に高められる(P.2)」、「LTV向上を狙った施策の多くは顧客視点の欠如により失敗する(P.19)」と説明している。
垣内氏は本書において、いくつかの失敗事例を挙げ、LTVのボトルネックを発見するためのフレームワークを提案。具体的な改善策へ、読者を導く。
高単価商材は「ライトな接点」を作るべし
垣内氏によると、LTVのボトルネックは「Meet(出会う)」「Attract(引き付ける)」「Sense(検知する)」「Trade(商売する)」の大きく4つにわけられる。垣内氏はこれらの頭文字をとって「MAST」としている。ここでは、1つ目のMeetに焦点を当てよう。
Meetがボトルネックになりやすいケースとして「単価の高い商材」「知らずに買われる商材」「所有されても認識されない商材」の3つがあるという。たとえば、住宅や自動車など単価の高い商材の場合は、購入機会が少ないために顧客のニーズの奪い合いになってしまう。
それに対して垣内氏は、ホテル業界の顧客インタビューを行った際に出会ったある被験者「ザ・リッツ・カールトンに定期的に泊まる普通の会社員」の体験からヒントを提示する。
この被験者は、友人の結婚式でザ・リッツ・カールトンと出会い、その雰囲気やスタッフの振る舞いなどに魅力を感じた。そして、宿泊料が高く普段は泊まれないものの、ザ・リッツ・カールトンのラウンジでお茶ができることに気づいた。20代~30代のうちは、そのラウンジで友人とのお茶を楽しみ、40代になって金銭的な余裕ができてから、初めて宿泊。その後も、定期的に宿泊するようになった。
この被験者の体験から学ぶべきことは、高単価商材を体験できる「ライトな接点」を用意することで、長期視点でのアップセルが可能だということです。「宿泊」一本やりでは敷居が高過ぎます。「結婚式の招待客」「お茶」というライトな商材を提供することでMeetのボトルネックを解消し、その後も継続接触を図ることがLTV向上に有効なのです。(P.118-119)
頻繁に購入されない高単価な商材だとしても、こうした工夫によって継続的に顧客と接点を持つことはできる。小さなきっかけが入り口となり、大きな消費につながるのだ。
その他、本書ではAttract・Sense・Tradeについても、ハマりやすいボトルネックと改善に向けて参考となる事例が具体的に示されている。商材のジャンルを問わず、LTV向上に悩む読者にぜひお薦めしたい。