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次なる顧客体験へ 大手企業の目線

タイ・バンコクから日本の生味噌を世界へ マルコメの量り売り専門店「蔵乃屋」が見た市場の魅力とは


 味噌を中心に扱う大手食品メーカー、マルコメ。その子会社で、味噌の専門店を展開する蔵乃屋が2022年12月、タイ・バンコクに初の海外店舗をオープンした。日本全国から仕入れた味噌の量り売りを通じて、日本の食文化に「深く触れる」機会を提供している。なぜ海外でこのような取り組みを進めているのか。現地法人マルコメ・タイランド 代表取締役社長 山本佳寛氏に、出店の狙いや海外展開への思いを聞いた。

約10倍の価格でも中間層には手が届く贅沢

 マルコメは1980年代からタイで味噌を販売してきた。長年、タイのディストリビューター経由で商品を販売していたが、消費の拡大や日本食の認知度向上などをきっかけに、2013年に現地法人を設立。それ以降、現地法人がスーパーや飲食店に商品を直接販売し、周辺国を含む地域の販売拠点となっている。

 加えて、2019年2月には発酵食品などを販売するアンテナショップや甘酒を提供するカフェを出店。現地の人々と直接関わり、情報の収集・発信を行う活動も展開している。

 一方、蔵乃屋は、日本全国各地の味噌を仕入れ、来店客とコミュニケーションを取りながら量り売りする形態の店舗だ。国内では東京都の豊洲市場と、三重県多気町の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」の2ヵ所に店舗を構える。2021年にはオンラインショップも立ち上げた。

 その蔵乃屋が今回、初の海外店舗として、バンコクの商業施設内に新店舗を開いた。山本氏は「現地法人設立から10年が経ち、味噌の消費拡大に加え、日本食レストランの種類や数も増えている。より専門的に味噌を扱いたいという要望も多く、満を持して、日本で展開している蔵乃屋の事業を現地で始めた」と説明する。

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現地法人マルコメ・タイランド 代表取締役社長 山本佳寛氏

 日本の蔵乃屋の店舗では、海外からの来店客も多く、特に豊洲市場ではレストランの運営者などがよく訪れるという。タイへの出店で現地の人たちと直接の接点を持つことにより、インバウンドの活性化につなげる狙いもある。

 バンコクの新店舗では、6種類の味噌の量り売りを実施。日本の店舗では約30種類を販売しているが、バンコクではまず、日本の味噌の特長がわかりやすい商品を取り揃えた。

 価格は全品100グラムあたり100バーツ(389円程度、2023年2月22日レート換算)。現地のスーパーで販売されている日本産味噌と比べて約10倍と高いが、現地の中間所得層に対してはそれほど高い設定ではないようだ。

「バンコク都で働く中間所得層は、ランチを屋台で50バーツ、コーヒーを50バーツ程度で購入します。スターバックスでコーヒーを購入した場合は100バーツ以上しますが、何回かに1回はそうした店舗で購入する傾向があります。100バーツという価格設定が、『高そうで安い、手に届く贅沢』なのです」

 店舗には、マルコメがタイで展開するアンテナショップやカフェで働いていた現地スタッフを配置。スタッフたちは現地の事情に精通している上に、マルコメや味噌に関する知識もある。来店客とコミュニケーションを取りながら販売する蔵乃屋の業務に適任とのこと。山本氏は「蔵乃屋では『味噌のアドバイザー』を大事にしており、タイでも同じように運営していきたい」と話す。

蔵乃屋タイランド店で働くスタッフ
蔵乃屋タイランド店で働くスタッフ

 実際に、店舗へは「味噌のことをもっと知りたい」と訪れる人が多い。具体的には、よく料理をする人や日本の食文化に興味がある人、新しい食材を探しているレストラン運営者などだ。

「蔵乃屋で扱っているのは自社の味噌ではありません。それぞれの商品の特長や作り手の信念を、販売スタッフが代わりにお話しすることになります。間違って伝えることがないようにしなければいけません」

 日本の蔵乃屋と同じように、販売員が伝道師やアドバイザーとなり、丁寧に来店客と向き合っていく考えだ。

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この記事の著者

加納由希絵(カノウ ユキエ)

 フリーランスのライター、校正者。地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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