物流大手の値上げ発表 2024年問題に備える
2023年を迎え、兼ねてから指摘されていた「2024年問題」が懸念される2024年4月までおおよそ1年となった。2024年問題が与える衝撃は、かつての宅配クライシスを上回るのではないかと伊藤さんは言う。
まず宅配クライシスから振り返ろう。2017年頃起きたそれは、Amazonが日本でも台頭し、ネット通販の利用者増で宅配取扱個数が急増、物流の現場が混乱した。残業代未払いで注目されたヤマト運輸は、当時5年ぶりとなる運賃値上げを行ったのだった。それから2年後、コロナ禍によってECの利用が増え再び物流の混乱が危ぶまれたが、なんとか耐え凌いだ。そしてまた2024年問題で、新たな問題へと直面することになる。
2024年問題とは、働き方改革関連法により、2024年4月1日以降、自動車運転業務の時間外労働が年960時間に罰則付きで規制されることで発生するさまざまな問題の総称である。ECの物流を担う配送業者も含まれるため、EC事業者にとっても影響は大きい。
周知のとおり、働き方改革関連法は2019年4月1日から順次施行されている。配送業者が含まれる「自動車運転の業務」は、適用猶予が設けられている形だ。
「通常360時間、特別な事情があっても上限は720時間です。加えて自動車運転業の960時間には休日労働時間を含まれておらず、ほかの業界と比較するとかなりゆとりある規制だと言えます。その背景には、トラックドライバーの仕事が長時間残業を前提として成り立っていることがあります」
公益社団法人全日本トラック協会では、2022年8月に「2021年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」を取りまとめている。同調査によれば、令和3年 5、6、7月にきまって支給された、特別積合せ貨物運送事業者(特積)と一般貨物自動車運送事業者(一般)をあわせた男性運転者全体のひとりあたりの1ヵ月平均賃金は 34万6,200円となった。
賃金のうち歩合給(運行手当等)や時間外手当(早出、残業、深夜、休日出勤手当等)などの変動給の占める比率は一般の運転者が比較的高く、男性運転者の中で変動給の占める割合がとくに高いのは特積の大型運転者で55.2%となった。
「働き方改革関連法により時間外労働時間が規制されることで収入が減り、ただでさえ人材不足であるにもかかわらず、トラックドライバーのなり手が減るのではないかと懸念されています」
同調査によれば、トラック運送事業従業員の平均年齢は男性運転者が 47.6歳(前年48.0歳)となっており、今後はさらなる高齢化が見込まれている。
「4月1日から、佐川急便、ヤマト運輸とも運賃値上げを発表しています。佐川急便は値上げの理由のひとつに『物流の2024年問題への対応』が明記されていました。荷物のサイズや配送先によりますが、平均すると8~10%の値上げとなります。EC事業者には負担が増える形となりますがほかの物価高騰もあり、やむを得ないというところでしょうか」