始まりは「10代・20代に刺さるお菓子がないと感じた」こと
ミルクノミウシやカカオマングースといった、「食べられる未確認生物」としてチョコレートを販売しているQrazy Chocolate。2021年にECサイトを開設したが、認知されるきっかけはサイトの開設前からYouTubeやTikTokに投稿している動画だ。動画には、実在しないオリジナルの生物が食材として登場し、投稿を見た人から「生物たちの図鑑を作ってほしい」とメッセージが届くこともあるという。
個性的なアイディアや動画を生み出している「中の人」が、平安山昌史さんだ。大手お菓子メーカーに新卒で入社し商品開発を担当していたものの、2年半で退職。Qrazy Chocolateを立ち上げた。
「前職では、知名度が高く何十年も定番化されているお菓子ブランドの商品開発に携わっていました。すでに人気商品を抱えているお菓子メーカーの場合、新しいブランドを立ち上げて商品を売り出すことは、あまりありません。一からコンセプトを練って新商品を生み出そうとする社員も中にはいましたが、既存のブランドに結び付けたほうが販売しやすいのです。
一方で、働きながら感じていたのは『自分自身が面白いと感じる商品が少ない』ということです。スーパーで購入できる流通菓子が昔から好きだったこともあり、今の10代・20代に刺さる商品があるのかという点にも疑問がありました。その疑問が、Qrazy Chocolateにつながっています」
「口にする人が楽しめる商品を作りたい」という想いから独立を決めたが、ブランドを知ってもらえなければ購入にはつながらない。そこで始めたのが、動画を使ったQrazy Chocolateの世界観の発信だった。
Qrazy Chocolateが動画を投稿し始めた2021年といえば、「YouTube Shorts」が日本で利用できるようになり、すでに日本に上陸していたTikTokも利用者数を拡大していた時期だ。現在では、Qrazy ChocolateのYouTubeの登録者数は25.1万人、TikTokのフォロワー数10万人超、Instagramもフォロワー数2.9万人の規模に成長した。YouTubeに投稿されたショート動画は、直近のものから数えて87万回再生、344万回再生、221万回再生と高い再生回数を維持している(フォロワー数・登録者数・再生回数は2023年1月時点のもの)。
「情報がない状態で、Qrazy ChocolateのECサイトに自力でたどり着くことは難しいはずです。SNSからECサイトに飛べる仕組みとしていますが、それが商品を知ってもらうきっかけになっていると感じます。
動画では、Qrazy Chocolateの世界観を視覚的に伝えることができます。実際に、各SNSに動画を投稿したタイミングで注文数が増え、ターゲットである10代・20代がSNSの投稿を通して購入してくれるというケースが多いです」
購入への入り口となっているSNSだが、投稿する動画の方向性が固まるまでには試行錯誤を繰り返したという。
「VRや4DXなどが一般的に受け入れられていることから、コンテンツにはインパクトの強さと視聴者が入り込める『体感』が求められていると思いました。そのため、視聴者が参加できるようクイズ形式にするなど『バズる』ことを意識して動画を投稿していた時期もあります。ただ、再生回数が増えても自分がやりたいコンセプトと異なっていたため、なかなか続きませんでした。何度も動画の投稿を繰り返しながら、目に入ったときのインパクトも強く、なによりも『継続的な投稿ができる』と思ったのが現在の形です」
Qrazy Chocolateは、SNSのコメント欄で世界観に入り込んだ会話を楽しむファンがいることが特徴だ。たとえばTikTokでは、カカオマングースの動画に対して「飼育は可能でしょうか」や「好物は何ですか」といったコメントが寄せられている。
「Qrazy Chocolateの生物たちは細かく設定が決まっているのですが、時間が限られているショート動画ですべての情報を発信することはできません。幸い、動画を見た人がコメント欄で質問をして設定を引き出してくれるため、いただいたコメントに返信しながら自然と世界観を作りこむことができています」
SNSを活用した情報発信のメリットは、Qrazy Chocolateのコメント欄のように顧客と直接つながることができる点にある。Qrazy Chocolateはまさに、ファンによって世界観が広がったブランドなのだ。