日本のEC店舗数は自動販売機の数とほぼ同規模に データの重要性と組織を見直そう
オプトのECチャネル戦略部を率いて、日々さまざまな企業・ブランドを支援する山岡さん。メーカーがEC展開を進める上で抱えている悩みや課題について話を聞いたところ、このような答えが返ってきた。
「まず、メーカーのご担当者様から寄せられる課題や達成したい目標と、本来目指したい先が異なる点にひとつ大きな壁があると私は感じています。
ご担当者様は『いち企業・ブランドの担当者』という視点から、『売上拡大』『新規顧客へのアプローチ』『集客』を課題や目標として掲げることが多いですが、戦略の策定や強化なしにこれらは実現できません。最終到達地点としては同じになるのですが、『では、売上を拡大するためにどのような戦略を立てましょうか?』『市場における御社の強みをアピールしていきませんか?』と尋ねると、答えることが難しい……と悩まれてしまうメーカーのご担当者様も少なくありません。成果を出すには、やはり競合もいる中での自社の立ち位置や今後進みたい方向性をしっかりと固めていかなくてはなりません」
オプトの独自調査によれば、日本国内に拠点を置いて展開するEC店舗は約260万店舗あるとのこと。数字の大きさだけで実感が湧かないという方には、日本国内に設置されている物販を行う自動販売機の総数が約270万台(2021年12月末現在、一般社団法人 日本自動販売システム機械工業会調べ)であると伝えると、マーケットの大きさやその中で埋もれないための施策の重要性が伝わるだろうか。山岡さんは「新型コロナウイルスの感染拡大により外出がしにくくなっていることや、人々の生活におけるデジタル浸透などの背景から、EC市場の伸びしろに注目してプレイヤーも増えている。そのため、すでにEC展開をしている場合は施策の強化が、新たにECを立ち上げる場合は初期段階からの戦略策定なくして戦うことが困難な状況となっている」と続ける。
「自動販売機もより多くの人に利用してもらうために、人通りの多い場所に設置する、ルーレットでランダムにもう1本当たるおまけをつける、人気の商品を並べるようにするなど工夫しているケースが見受けられます。自動販売機の場合は設置場所も関係しますが、ECの場合は全国どこからでもアクセスができるため、偶発的にたどり着いた新規顧客が魅力を感じるEC店舗作りはもちろん、『どこのマーケットで』『何を強みにして』『どう戦うか』をきちんと定める必要があると言えるでしょう。
こうした戦略策定をする上でメーカーのご担当者様に留意していただきたい考えかたは、クロスチャネルの発想です。これは、メーカーご担当者様の問題というよりは、組織構成に起因しています。多くのメーカーは、リアルチャネル向けの営業組織をスーパーや小売店、コンビニエンスストアの系列ごとに構成しており、ECチャネルもこれを継承しているケースがほとんどです。規模の大きな企業・ブランドの場合は、自社EC担当とモール担当で組織が分かれているだけではなく、Amazon、楽天市場……といったように、モールごとに別部署が設けられているケースも存在します」
販売チャネルごとの部署構成は、ミクロな視点で見れば役割分担の明確化、業務の最適化につながるだろう。しかし、それが世の中の実態や消費者の動きに即したものかと考えると疑問符がつく。スマートフォンが普及し、多くの消費者がオンラインで情報を得るようになった今、もはや「情報を得る場所」と「買う場所」は連動しない。つまり、場所軸ではなく顧客軸で購入までの道筋をたどり、適切な打ち手を検討する必要があるということだ。
「たとえば『自社ECの売上向上』をミッションとするご担当者様の視点から考えると、『検索広告を出稿して、自社ECへの流入を増やしてそのまま購入してもらう』という道筋を描きがちですが、消費者視点で考えると買う場所は選ばせてほしいですよね。検索広告で企業・ブランドや商品の存在を知っても、すぐに手に入れたい場合は少し手間がかかっても近所の店舗まで出向いて購入するかもしれませんし、ポイントが貯まっていたらモールで購入したいと考えるかもしれません。
こうしてチャネルをまたいでしまうことは、『自社ECの売上向上』というご担当者様のミッションは達成できなくなってしまうため嫌がられるケースも見受けられますが、企業・ブランド全体で見れば売上はアップしています。この矛盾を解消するには、組織や業務のクロスチャネル化が欠かせないのですが、ご担当者様個人の働きかけでは困難なことも当社は重々承知しています。そのため、組織改革がすぐに難しいのであれば『せめて部署をまたいでデータを共有するところから始めて、情報交換や連携をしていきましょう』とご提案しています」