EC体験をサポートするためのKARTE活用 導入当初にぶつかった大きな壁とは
プレイドが提供するKARTEは、ウェブサイト上の顧客の行動データを可視化し、顧客に合わせた体験の提供が可能になるCXプラットフォームだ。2022年4月1日時点で導入社数は約550社にのぼり、BtoB・BtoC双方のビジネスで活用が広がっている。
「KARTEでは、ウェブサイト・アプリ上におけるユーザーの行動に関するデータを収集し、ユーザー軸でリアルタイムに解析・可視化します。そのデータを基に、パーソナライズしたポップアップ表示やアンケート、コンテンツの出し分けが可能です」(プレイド 福澤氏)
KARTEには、ユーザーの時系列に沿った行動の可視化、状態変化の理解・把握ができる「ユーザーストーリー」という機能がある。また、顧客の行動を動画で再現し、確認することができる「KARTE Live」では、数字だけではわからない滞在中の迷いや検討などの滞留や、スクロールの速さなどを見ることが可能だ。福澤氏は「ユーザーのアクションから特定の施策の課題やウェブサイトのエラー・改善点を発見し、次の打ち手につなげることができる」と説明する。
なお、KARTEでは「KARTE Datahub」を用いることで、社内外に存在する多種多様なデータの統合も実現できる。顧客データや行動データ、オフラインで収集したデータなど、従来は分断されていた各種データをKARTEでひとまとめにすれば、各チャネルでの顧客体験に一貫性を生み出し、顧客目線でさらに快適な体験を提供することも可能である。
今回事例として紹介するアダストリアは、2020年秋よりドットエスティにおけるCX向上の目的でKARTEを導入している。同社は「GLOBAL WORK」「LOWRYS FARM」「niko and …」などのカジュアル衣料ブランドを中心に、雑貨、家具、カフェなど30以上のブランドを展開。ドットエスティは、会員数1,400万人(2022年5月時点)、アプリダウンロード数650万(2022年3月時点)、売上規模約300億円を記録し、着実に成果を出している。
アダストリアの上田氏は、2015年に同社で学生アルバイトを始め、4年間店舗スタッフとして勤務した後、2019年に新卒社員として入社。WEB事業部に配属され、配信/ウェブ接客担当として2020年秋よりKARTEの活用を開始したものの、最初に大きな壁に直面したと言う。
「はじめてKARTEに触れた際の印象を正直にお伝えすると、『機能がすごすぎて何から使えば良いかわからない』でした。『お客様にパーソナライズした接客ができる』と聞いても難しくとらえてしまい、『機能を使いこなすこと』自体が目的となってしまった結果、導入から2ヵ月で実施できた施策はわずか3つ。このままでは宝の持ち腐れになってしまうと危機感を覚え、『KARTEで実現したい世界がどのようなものか』という視点に立ち返ることにしました」(アダストリア 上田氏)
そこで上田氏は、店舗におけるスタッフの存在価値を「お客様の買い物を手助けするため」と定義づけ、接客はあくまでサポート手段のひとつだという考えに行き着く。そして、最終的に自社EC上でのKARTEの活用法については、こう結論づけた。
「自社ECでも店舗と同様の体験を提供するには、KARTEを使ってお客様のEC体験をサポートする必要があります。テクノロジーを使って店舗と同じことをする。目的と手段を混同せずに進めることが非常に重要だと気がつきました」(アダストリア 上田氏)
快適な体験を重ねれば購買にもつながる ドットエスティ流・KARTE活用術
「顧客のEC体験をサポートする」と目的を明確にしたアダストリアでは、KARTE運用にさまざまな工夫を取り入れている。
「運営体制については、WEB事業部内のパーソナライズチームがKARTEを活用しています。顧客1人ひとりに適切なメッセージ配信を行い、より良い体験を享受していただくことがチームの役割です。営業経験を持つメンバーが多いため、データの取り込みやシステム整備などのIT分野については、DX戦略部がサポートに入っています」(アダストリア 上田氏)
ここで、福澤氏が社内メンバーの巻き込みかたで工夫しているポイントについて上田氏に質問を投げかけた。上田氏は「成果につながったウェブ接客のスクリーンショットを数字とともにLINEやSlackで共有している」と語った上で、このように続ける。
「目に見える形で共有すると、『私にもこのような使いかたができますか?』といった質問がメンバーから出てきます。すると、『結果を踏まえて一緒に新しい取り組みにトライしよう』と巻き込むことができるので、良い循環が生まれています」(アダストリア 上田氏)
なお、ドットエスティではKARTEの用途を大きく次のふたつに絞っている。
- ドットエスティ上で顧客のサポートをする
- データを活用してセグメントを作る
「1. について、ドットエスティ上での顧客サポートは、大きくふたつに分岐します。ひとつめは『購買を直接促進すること』、つまり自社EC内でのイベントやクーポン、ポイント訴求です。新たにインセンティブを用意したりイベントを行ったりするのではなく、あくまで既存のアセットを顧客にお知らせして購買につなげています。
そしてふたつめは、『機能・サービスの認知・活用をうながすこと』です。これは直接売上につながるものではありませんが、ドットエスティでは『お気に入り機能』『STAFF BOARD(店舗スタッフによるスタイリング投稿)』『ライブショッピング』など顧客に役立つさまざまな機能・サービスを提供しています。これらを紹介し、活用しながら快適な体験を重ねていただければ、結果的に売上にもつながると考えています」(アダストリア 上田氏)
2. については、「クーポン・ポイント訴求を行う上でのセグメントと配信リストの作成を行っている」と上田氏。運用の負荷を考え、「シナリオ・セグメント数はそこまで増やさずに効果が出るものを選りすぐって稼働させている」と語った。
ウェブ接客の3つの掟を紹介 明文化と振り返りも欠かさずに
アダストリアでは、KARTE活用の目的がメンバー間でずれないように「ウェブ接客の掟」を策定していると言う。上田氏は、各項目を次のように説明した。
1. ルールを作る
「接客の作成に4時間以上かけない」といった作業時間・工程における決まりごとを制定し、「接客を作る」「KARTEを使いこなす」ことが目的にならないようにする。
2. メンバーに聞く
接客のアイディアが偏らないよう、メンバー間できちんと共有する。
3. 顧客に聞く
顧客アンケートの結果を接客に反映し、改善する。
このような掟を踏まえ、具体的にはどのような手順で接客を作成しているのだろうか。上田氏は4つのステップを紹介した。
- STEP1:どんな部類に属する接客かを確認する
- STEP2:施策に対する目的を必ず明確化する
- STEP3:実装する
- STEP4:振り返り・改善をする(STEP1に戻りPDCAサイクルを回す)
「『目的』『課題』『取り組み内容』を都度言語化し、顧客体験とビジネスにどのような変化をもたらすか、必ず明文化した上で実装。振り返りも欠かさずに行っています。『作成に4時間以上かけない』と決め、手の込んだ実装は避けるようにしていますが、3時間程度で作成した接客施策のお気に入り登録数が1週間で2倍になるなど、きちんと成果につながっています」(アダストリア 上田氏)
前年比140%のキャンペーンも 顧客の動きを可視化するKARTE Liveの魅力とは
上田氏は、アダストリアでも用いているユーザーストーリー機能についてこう語る。
「同機能は、顧客の行動を日時やデバイスをまたいで時系列に沿って見ることができるため、非常にシンプルでわかりやすいと言えます。しかし単に行動を線にして見ても、『なぜその商品を買おうと思ったのか』『どんな点に惹かれて購入を決めたのか』といった理由までは把握できません。そこでKARTE Liveを活用し、顧客の行動を動画で可視化しています」(アダストリア 上田氏)
KARTE Liveについて、「顧客の行動を観察することで、店頭接客と非常に似た顧客理解ができる」と続ける上田氏。アダストリアでは、同機能を用いて得た発見を言語化し、具体的な施策にも落とし込んでいる。
「ドットエスティで新規購入した顧客を分析したところ、多くの方がレビューを熟読してからカートボタンを押しているとわかりました。自社ECの運用チームにそれを伝えたところ、『レビューを多く集めたら購買につながるかもしれないので、レビュー投稿施策をしてみよう』というアイディアが生まれ、レビュー投稿キャンペーンの実施につながりました。その結果、レビュー投稿数が前年比140%となり、内容の充実だけでなく売上も向上したのです」(アダストリア 上田氏)
SQLへの理解は触れながら深めれば良い 大事なのは顧客を見ること
続いて上田氏は、各チャネルのデータをつなぐKARTE Datahubの活用について触れた。
「KARTE Datahubを使う前は、顧客を細かくセグメントすることなく一律でポップアップを表示している状態でした。しかし、導入後は店舗での購買情報や顧客の基礎情報などとの統合が可能になり、パーソナライズした体験を提供できています」(アダストリア 上田氏)
現在のドットエスティでは、主にセグメント作成のためにKARTE Datahubを活用し、顧客の保有ポイントや配信情報に応じたポップアップの出し分けを実施している。
「KARTE DatahubはSQLを必要とするため、一見すると難易度が高いと思われるかもしれません。しかし、テンプレートを活用すればSQLがわからない担当者でも分析を実行することができます」(アダストリア 上田氏)
ここで福澤氏が上田氏にKARTE Datahubの活用を始めたきっかけと背景にあった課題について質問を投げかけた。
「ECだけの情報では施策展開に限りがあると感じていました。そこで最初に取り組んだのは、クーポン保有者への訴求です。やりながらSQLについて理解を深め、よりセグメントされた接客ができる可能性を感じました」(アダストリア 上田氏)
上田氏はさまざまな試行錯誤を重ねた結果、見えてきた成功・失敗のパターンについても次のように言及した。
「やはり、成功するのはクーポン保有者に向けたポップアップ表示など、顧客のニーズをしっかりと読み取った接客です。これまで顧客から『クーポン発行に気がつかなかった』といった声が多数寄せられていたことを受け、KARTEでの解決を目指して施策を実施しました。その結果、クーポン利用者は前年比140%を記録し、顧客満足度の向上と売上の最大化に成功しました。
反対に失敗した施策は、行動データに基づいた配信の最適化です。顧客により良い情報を届けるため、『もっとも訪問回数が多いチャネルだけに配信する』という設定を行ったところ、収益・流入が大きく減少してしまいました。理由としては、『LINEを見てからアプリを開く』『メルマガを見てからアプリを開く』といったように顧客は複数チャネルを並行して見ているためです。顧客の行動を理解しないままセグメント化を行うのは危険だという学びを得ました」(アダストリア 上田氏)
上田氏はドットエスティが目指すのは「ウェブ上で十人十色の体験ができる世界」とした上で、このように今後の展望を語った。
「当社には、実際に顧客の反応を見ながら1人ひとりに最適な接客を提供する店舗スタッフという財産が存在します。彼らの接客術を徹底的に分析し、リアルの接客をウェブ上でも表現できるようにしていきます」(アダストリア 上田氏)
ここで福澤氏が「KARTE運用におけるマイルール」を聞いたところ、上田氏は次の3点を挙げた。
- 設定に4時間以上かかる接客は作らない
- 社内で決めたKARTE用途以外には手をつけない
- 大通りから攻める
1. について、上田氏はポップアップの見栄えやセグメント設定に時間をかけていた導入当初を振り返りながら、こう続ける。
「時間をかけて作った接客を稼働してもリフトした数値が105%であるなど、費用対効果が見合わないことが多く、時間と成果は必ずしも比例しないことを実感しました。そこで、まずはできることから始めようと考えを切り替え、簡単なポップアップから始めることにしたのです。もし成果が出ればより改良を加える、もし思うような成果につながらないのであればそのシナリオをやめて別のシナリオに切り替える。こうした考えを持ち、今は『4時間以内に必ず作り終える』と決めています」(アダストリア 上田氏)
2. については、KARTEの機能が充実しているがゆえに、「自社の目的に合ったウェブ接客を実施しなければ『顧客をサポートする』という本来の目的からそれてしまうから」と述べた上田氏。3. に関しては「運用過程で策定したルール」とした上で、こう説明した。
「3. は、最初に大きなセグメントでの施策にトライし、細分化を進めるやりかたです。たとえばクーポンを保有する顧客に対して接客を展開する際に『どのクーポンを保有しているか』までは絞り込まず、『クーポンを保有している顧客全員』に対して展開してみる。こうすることで、接客そのものの有効性を検証できました。今は成果が出た施策に対して細分化を行い、効果をさらに高めていく形で進めています」(アダストリア 上田氏)
上田氏は、最後にウェブ接客実施に向けた考えかたのヒントを次のように提示し、セッションを締めくくった。
「良い接客を生み出すには、『どんな接客を実装しよう』から考えるのではなく、『そもそも何のためにウェブ接客を導入したのか』『どんな世界を作りたいか』から振り返ることが重要です。顧客目線で施策を考え、より良い接客体験の創出につなげましょう」(アダストリア 上田氏)
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