EC売上5%からスタート 実店舗の顧客エンゲージメントが武器に
アパレルブランド「GALLARDAGALANTE」「CIAOPANIC」やバッグブランド「russet」、雑貨を扱う「3COINS」など、50以上のブランドを展開する株式会社パル。全国に900以上ある実店舗を中心にビジネスを成長させてきた同社だが、2016年よりECに本格的に着手した。同社のグループ企業を含めた2015年のEC売上高は約55億円、EC売上比率は約5%だったが、2020年にはEC売上高が約237億円、アパレル事業におけるEC売上比率は約30%にまで伸長した。こうした経緯について、WEB事業推進室長として同社のEC部門を統括する堀田氏は次のように話す。
堀田(パル) 2016年、市場全体にはすでにEC化の流れが訪れていましたが、当社のEC売上比率は約5%と同業他社と比較しても低い状況でした。そんな中、私がまず目標としたのはEC売上比率を10%にすることです。決して高いとは言えませんが、それが当時の現実的な数字でした。
EC売上増加施策の開始直後、まず必要だったのは社内のコンセンサスだったと堀田氏は言う。実店舗の売上が全体の90%以上を占める状況下では、ECに注力する必要性について懐疑的な声も多い。また、同社社員の95%以上が実店舗関連の業務を担当していることもあり、EC売上が増加することで実店舗の売上が減少するのではないかという懸念もあった。こうした社内の不安を払拭すべく堀田氏は、「オムニチャネルの推進によりEC・実店舗のどちらも伸ばしていく」ことをミッションに掲げ、社員へのメッセージとした。
このミッションを達成するために、同施策では自社EC「PAL CLOSET」における販売に注力するが、当時のEC売上の約80%はZOZOTOWNを含むECモール経由となっており、自社ECはほとんど1から構築していく必要があった。
堀田(パル) ZOZOTOWNなどのECモールでの売上を伸ばすことも重要な目的のひとつではありましたが、ECモールで培ったノウハウや改善すべき点などを社内に還元し、それらを活かして自社ECを発展させることもマストと考えていました。ECモールでの出店はいわゆる外部委託となるため、商品を納めさえすれば、画像などの出品に必要なものはすべてECモール側で用意してくれます。しかしこの方法だけでは、他社ブランドとの差別化や、商品に対する思いなどの付加価値を与えることが難しいと感じていました。画面上で商品の魅力を伝えるには、自分たちで商品の撮影やテキストの記載を行い、お客様にメッセージを届けることが重要です。これを実現するプラットフォームとして自社ECが最適だと考えました。
「顧客にメッセージを届ける」ことは、リアルなコミュニケーションをともなう実店舗の得意分野だ。とくに同社では、50以上あるブランドの1つひとつで顧客との親密なコミュニティーを形成しており、各ブランドの販売員が主体的にInstagramで情報を発信するなど、顧客とのつながりを作る動きが2016年当時から活発に行われていた。こうした実店舗の顧客エンゲージメントを活かし、EC・実店舗のクロスユースを実現すること、それこそが「PAL CLOSET」が目指す姿だ。
堀田(パル) 当社は900以上の実店舗を展開していますが、10店舗未満で運営しているブランドもめずらしくありません。ひとつのブランドで100店舗以上を展開する同業他社も多い中、比較的小規模なブランドの集合体であるからこそ、個々のブランドとお客様の距離が近いことが強みです。こうした強みを活かし、EC・実店舗で相互送客できる環境を構築し、両者のシナジー効果で企業全体を成長に導く自社ECを目指しました。
実店舗も発展させるというビジョンのもと、EC売上増加施策を推進してきた堀田氏。販売員によるInstagramの活用を人事評価制度に組み込み、情報発信の活性化を図ることで自社ECへのアクセス数を増やすなど、EC・実店舗の両者にとってメリットがある取り組みを実施してきた。こうした中で「自社ECで売れないブランドは実店舗も売れない」ことが社内の共通認識となっていった。
堀田(パル) 自社ECの販売実績は、同サイトの情報が充実しており、商品やブランドの思いをお客様にしっかりと届けることができた証となります。情報の起点をウェブに持つ人が増える中、実店舗に足を運んでいただくためにも、自社ECのUI/UX改善やコンテンツ拡充が重要だと考えています。
EC・実店舗双方の発展に取り組む中で求めた検索パフォーマンス
堀田氏の牽引で徐々に売上を伸ばしてきた「PAL CLOSET」だが、ブランド展開や同サイトを利用する顧客が増えたことで、検索パフォーマンスに関する課題が生じてきたと言う。50以上のブランドをまとめて扱う同サイトでは、ブランド別の自社ECに比べて必然的に商品点数が多くなるため、サイト内の検索精度・速度がとくに重要となる。こうした背景の中、顧客の求める検索結果が表示されないことで購買につながらないケースが増加していた。
堀田(パル) ブランドとお客様の“つながり”が強いという特徴から「PAL CLOSET」では、好きなブランドの商品を同サイトの隅々までチェックしてくださるお客様が多くいらっしゃいます。そのため、サイト内検索に関する改善要望などをいただくことが少なかったのですが、EC市場の拡大や当社のブランド数が増えたことにより同サイトをご利用いただくお客様が増加。購買後のアンケートで「適切な検索結果が表示されない」という回答が目立つようになりました。
鈴木(パル) サイト内検索の精度が低いと顧客満足度を低下させるほか、実際に取り扱いのある商品を表示できないことによる機会損失にもつながります。また、この場合お客様は「検索パフォーマンスが悪い」ではなく、「このサイトには求めているものがなかった」という印象を抱きます。これが継続的に続くようであれば、自然と「PAL CLOSET」から離れていってしまうのではないかと考えました。
こうした課題を解決するために、同社は2021年7月にEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」を導入。従来はECパッケージに付随する検索エンジンを利用していたが、現状の検索パフォーマンスに限界を感じていたと言う。
堀田(パル) ECパッケージを提供する企業は、当然ながら検索エンジン専業ではありません。そのため、検索パフォーマンスの改善を行うにもある一定の限界が存在します。当社で把握できた不具合に関してはそのつど改善を行ってくれていたのですが、それ以上のサービスを求めることは難しく、不具合についても当社で把握できる範囲には限りがあるため、検索エンジンを専門とする企業に依頼するべきだと考えました。
検索エンジンの導入を検討するにあたり、とくに重視したことは大きくふたつあります。ひとつは当社が求めるレベルの検索ノウハウを持っていること。もうひとつは、時代の変化に合わせて進化していく成長性を持っていることです。この2点を兼ね備えた検索エンジンが「ZETA SEARCH」でした。実際に導入したのは2021年7月ですが、実は数年前から検討を進めており、その間にZETA様にいただいたお話を踏まえて「ZETA SEARCH」が当社の要望を満たす検索エンジンだと判断しました。
「ZETA SEARCH」が持つ検索パフォーマンスの高さや、その成長性に魅力を感じていたパル。同ツール導入前に行われたZETAとのミーティングで堀田氏は、アパレル企業への導入実績やそれにともなう同業界への知見の深さを確認。安心感を覚えたとしつつ、ただサイト内検索を改善するだけではなく、その先の展開が見えたことで導入への決意を確たるものとした。
堀田(パル) 当社に合わせたさまざまなご提案をいただく中で、「ZETA SEARCH」導入後の「PAL CLOSET」で実現できることは何か、将来的なビジョンを明確に描くことができたのも導入の決め手となりました。当社はIT企業ではないため、テクノロジーを介して最適な顧客体験を提供するためには、専門性の高さと提案力を併せ持つツールベンダーと協力し、パートナーシップを構築することが必須だと考えています。
市川(ZETA) パル様から最初にいただいたのは、「進化する検索」にしたいというご要望です。このキーワードから、パル様にとって最適な検索エンジンの姿を紐解いていきました。「進化する」とは言い換えれば「限界がない」ことです。現状抱えている課題の解決をした上で、その先の将来構想に広がりをもたらす検索エンジンこそ、パル様が求めるものだと考え、「ZETA SEARCH」で実現できることを模索し複数のご提案を行いました。
具体的には、検索精度・速度の改善を行いつつ、「ZETA SEARCH」を活用した外部検索のSEO対策や、検索クエリより抽出したデータから顧客インサイトを読み解くことで、マーケティングに活用するなどのお話をいたしました。「ZETA SEARCH」では検索結果の分析・チューニングを行うことで常に機能面のブラッシュアップがされていますが、検索パフォーマンスを改善していくだけでは「限界がない」とは言い切れません。検索エンジンの枠を越え、新たな視点や価値の提供を続けて初めて「進化する検索」と言えるのではないかと考えています。
サイト内検索性能を最大化 業界知見からCX向上を実現
「進化する検索」をキーワードに、二人三脚で歩み始めたパルとZETA。「導入して終わり」ではなく、その先も伴走してこそパートナーだ。実際に「ZETA SEARCH」を実装するフェーズでは、両社のコミュニケーションはより綿密さを増していく。その際、堀田氏がとくに評価したのはZETAの「レスポンスの速さ」だ。
堀田(パル) ZETA様は、当社の相談に対して非常に迅速な対応をしてくださいます。何かに迷った時、回答が早ければその分を次のアクションに充てることができるため、パートナーに求めるものとして、レスポンスの速さはたいへん重要な要素だと考えています。また、ただ検索パフォーマンスの改善を行うだけではなく、「なぜ改善できるのか」という理由を提示してくださることもたいへんありがたいです。同改善は両社の共同作業となるため、相互理解なくして良い結果は訪れないでしょう。こうした対応から、真に当社をパートナーとして考えてくださっていると感じています。
出張(ZETA) 当社では顧客企業様のご相談にいかに真摯に対応できるか、をとても大切にしています。そのため、即時対応を欠かさないよう常に心がけていますが、大前提として掲げているのは「正確な情報を提供する」ことです。たとえばあるご要望に対し当社のツールで実現できるかどうか可否をお伝えする場合、安易に「できます」と回答するのではなく、実現した先の展開まで考えた上で、それを可能とする理由とともにご説明を行っています。また、顧客企業様にとってご要望とは異なる最適解が存在すると判断した際には、その代替提案をいかに適切に行うかも重要となります。
たとえば先日、パル様から当社が提供しているレコメンドエンジン「ZETA RECOMMEND」の追加導入も検討しているというお話をいただいたのですが、深くうかがうと「ZETA SEARCH」の機能を転用することでカバー可能な領域だったため、その旨をお伝えした上で別の提案を行っています。当初のご要望とは異なりますが、まずは既存ツールの機能を最大限に活用していただくことが、パル様にとっても当社にとっても最適な選択だと判断しました。
「ZETA SEARCH」導入から約3ヵ月となる「PAL CLOSET」では、短い期間でありながらも検索パフォーマンスに関する複数の改善が行われている。検索精度を高めるには、活用するデータ量を増加させる必要があるため、検索エンジンへの負荷が増大。速度低下が生じてしまう場合もある。しかし、「ZETA SEARCH」は検索精度・速度の両面で歴然と効果を発揮していると堀田氏は語る。
堀田(パル) 「ZETA SEARCH」では、検索精度・速度ともにパフォーマンスの高さが担保されているため、検索エンジンへの負荷を気にせず大量のデータをアウトプットすることができています。そしてそのデータを最適な形に変換し、検索結果に表示するという一連の処理をお任せできるため、リソースの最大化を行う意味でも大きなメリットがありました。
出張(ZETA) 検索エンジンを提供する企業ではデータの形式を指定するケースも多いのですが、データの整形は顧客企業様にとって大きな負担となります。「ZETA SEARCH」では、顧客企業様が管理している商品マスタなどの検索に関連するデータをそのまま引き取り、いただいたデータを一度分解して検索パフォーマンスを最大化する形式へと再構築します。検索に関連する作業負担をできるだけ減らし、その後の戦略策定などに時間をかけていただくことで、事業成長のさらなる加速化に貢献できると考えています。
検索パフォーマンスの向上に重要なチューニングは、ZETAが収集した検索キーワードをもとに行われるが、パルからの要望にも柔軟に対応している。「ZETA SEARCH」導入前の「PAL CLOSET」では、検索ボックスで「色」の指定を行った際、該当する色以外の商品が複数表示されてしまっていたと言う。鈴木氏は従来の検索エンジンでも改善を試みたが、商品詳細ページに表記している「カラーバリエーション」の部分が検索結果にヒットしてしまうなどの課題が残っていたため、「ZETA SEARCH」導入時に改善要望としてZETAに伝えた。
鈴木(パル) 以前の検索エンジンでは、たとえば「ワンピース ブラック」というキーワードで検索を行った場合、ワンピース以外の商品やほかの色の商品が表示されるという状態にありました。ZETA様にその旨をお伝えしたところ迅速に対処してくださり、現在では適切な結果が表示されるようになりました。
また、以前の検索エンジンにはなかった「サジェスト」「もしかして」の表示機能についても、高精度のパフォーマンスを発揮してくれています。アパレルブランドではとくに「ブランド名が長い」「英語表記が多い」などの要因により、検索ボックスでの入力ミスが生じやすいかと思います。ここで適切なサポートを行うことは、顧客満足度向上や離脱防止に欠かせないと考えています。
荏原(ZETA) どのようなキーワードで検索されているか、その後何件の商品を表示したかは当社ですべて把握することができるため、こちらからも随時改善提案をさせていただいています。たとえば0件ヒットキーワードのレポートでは、検索結果が0件となってしまう原因と改善方法を調査し毎月共有しており、上位表示する商品を変更するなどパル様のご要望をうかがった上で適切に対応します。
こうしたチューニングを正確に行うには、業界ごとの独特なキーワードやロジックを把握しておく必要があります。当社はアパレル業界への知見が深いという強みを持っているため、こうした点でもパル様のお役に立てているのではないかと感じています。稀に、まったく新しいキーワードが浮上してくることもありますが、これは流行し始めた商品など、お客様の新たなニーズを発見するヒントになることも多いです。
顧客インサイトを読み解き、ブランドを跨ぐ包括的な“つながり”を
検索パフォーマンスの改善を進め、「PAL CLOSET」を進化させていくパルは今後、各ブランドが構築してきた顧客エンゲージメントを、パル全体のものに昇華。ブランドを跨いだ包括的な“つながり”を形成し、新たな顧客体験を提供することを目指している。堀田氏は「PAL CLOSET」のあるべき姿として、「令和の商店街」というイメージを持っていると話し、次のように続けた。
堀田(パル) コロナ禍を経て、お客様がデジタルに触れる機会が増えました。実店舗に来訪する前に、ウェブで事前情報を仕入れる方も多いでしょう。お客様が「PAL CLOSET」を訪れた際、パル全体のイメージを左右するプラットフォームとして最適なパフォーマンスを発揮し、実店舗を訪れるきっかけを提供することも同サイトが担う大きな役割のひとつです。
こうした役割を果たすために、検索パフォーマンスをはじめとしたUI/UX改善を急いでいますが、一定のクオリティが担保されるようになってきた現在、改めて顧客エンゲージメントにフォーカスしました。お客様が求めているものを把握するために、「ZETA SEARCH」導入前にご提案いただいていた、検索を起点とした顧客インサイトの読み解きに着手するフェーズに入っています。
「ZETA SEARCH」導入前に抱いていた将来構想が現実味を帯びてきたパルでは、次なる一手として顧客インサイトをもとにした商品企画やMD設計を強化していく。堀田氏はその施策の一環として、「ZETA SEARCH」のオプション機能である「ZETA Tag」の導入も検討していると言う。サイト内での顧客の行動データを取得し、ビッグデータで解析。検索パフォーマンスのさらなる改善および、顧客インサイトの獲得に貢献する同機能を活用することで、より深い顧客理解が可能となる。これもまた、堀田氏が描く「PAL CLOSET」を「令和の商店街」にするという構想につながっていく。
堀田(パル) リアルの商店街をイメージしていただくとわかりやすいのですが、商店街にはさまざまな商店が立ち並び、ふらっと訪れた方も気軽にそれぞれの商店を周遊。購買を楽しむことができるコミュニティーが形成されています。50以上のブランドを扱う「PAL CLOSET」では、各ブランドが個性ある“商店”でありながら、ひとつのコミュニティーとしてまとまっており、そこを目指して自然と人が集まってくるという構図が理想の姿です。まさに「令和の商店街」として、「立ち寄るとおもしろいものがある」という高揚感を提供しつつ、身近な存在としていつでも来訪していただけるような場所にしていきたいです。
出張(ZETA) EC・実店舗のクロスユースが一般化しつつある中、自社ECを介してさまざまなブランドを知ることは、結果として実店舗の客数増加にもつながります。実店舗には物理的な距離がありますが、自社EC上には距離がない。堀田氏が目指す「令和の商店街」構想は、オンラインとオフラインをつなぐ役割としても大きな意味を持つでしょう。
リアルの商店街で「隣の店にはこんなものが売っている」という発見があるように、自社ECでもいかにスムーズに別の商品を見せることができるかが重要となりますが、ここに貢献するのが検索エンジンだと言えます。顧客インサイトに適した検索結果を表示することができれば、自社ECで見つけた商品を実店舗で確認。新たなお気に入りブランドができ、また自社ECで購買をするというサイクルが出来上がるはずです。このサイクルを実現するために「ZETA SEARCH」の機能を最大限に活用し、今後も新たな提案をし続けていきたいと考えています。
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CX シリーズ」の資料は資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。