中国では、すでに人々の生活に浸透しているライブコマース。日本でもコロナ禍を契機にライブコマースを開始する企業・ブランドが増え、重要な顧客接点として機能し始めている状況だ。商品・サービスを提供する当事者が「コマーサー」となり情報発信をする意義や、インフルエンサー・YouTuber・ライバーとの違い、施策を強化する上で留意すべき指標の持ちかたについて、株式会社アイレップ インタラクティブデザインUnit クリエイティブプロデューサー/ライブ系ソリューション推進チーム「TAKE ZERO」プロジェクトマネージャーを務める恩地紗代子さんに、話を聞いた。
もの軸で交流を図るコマーサーに必要なスキル
店舗とECの関係に大きな変化をもたらしたコロナ禍。日本でも店舗スタッフが営業自粛期間中にライブコマースを行うなど、この数年で土壌が整いつつあるが、継続的な配信や顧客が求めるコンテンツ作り、視聴者数・売上増に課題を持つ企業・ブランドが多いのも実情だ。こうした各社の課題に対し、アイレップは動画視聴やワークショップを通してライブコマースにおけるスキル習得やコミュニケーション力の向上に貢献する「インハウスコマーサー育成パッケージ」を提供している。
「当社では、ライブコマースに特化した配信者のことを『コマーサー』と定義づけています。すでに肩書きとして定着しているインフルエンサーやYouTuber、ライバーとの違いは『双方向性』と『もの(商品・サービス)軸でコミュニケーションを取る』点にあると言えるでしょう」
恩地さんは「インフルエンサーは自らのセンスや審美眼を、YouTuberは企画を通して一方向的に情報を届ける存在」と説明。また、ライバーはコミュニケーションが双方向になる点を特徴としている。
「この中では、ライバーがもっともコマーサーと近しい存在と言えます。ただし、ライバーはあくまで配信者自身が主役であり、視聴者が課金などのアクションを起こすのもその人を支持する気持ちによるものです。
対するコマーサーは、あくまで『もの』が主役となります。すでに知名度や多くの支持を獲得している場合も、商品やサービスに愛を持ち、ものを通して顧客とコミュニケーションする新たなスキルを身につける必要があります。一方的に商品を紹介するだけでなく、寄せられた質問に答えるなど、どこまでコミュニケーションに双方向性を持たせるかが鍵となり、このようなアプローチを実現するには顧客理解が欠かせません」
コマーサーに必要なスキルを存分に発揮する「プロコマーサー」の代表格として、同社が協業する株式会社321のファウンダー 菅本裕子(ゆうこす)さんを挙げる恩地さん。
「ゆうこすさんはタレントとして知名度・影響力があるだけではありません。キャラクターやコミュニケーション力を活かしてライブコマースを行っています。こうお伝えすると、『知名度がなければコマーサーになれないのか』と考える方もいるかもしれませんが、コマーサーにもっとも求められるのは親しみやすさや商品への愛です」
加えて恩地さんは、プロコマーサーの対比軸として「インハウスコマーサー」という言葉を提示する。
「オンライン上で交流を重ねて売上を生むには、ライブコマースを定期的に行える環境作りが必須です。プロコマーサーは外部からアサインする以上コストがかかってしまうため、継続的な配信を実現するには、自社の社員をコマーサーとして採用するのが現実的です。企業・ブランドの担当者自身が直に顧客の声に耳を傾け、自分の言葉で考えや想いを語り、トライアンドエラーを繰り返しながら知見を蓄積する。こうした取り組みをコロナ禍初期から実践していた企業・ブランドは、すでに多くの学びを得ています。これから取り組む場合は、まずは多くのライブコマースを視聴してみてほしいです。
ライブコマースで双方向のコミュニケーションをするためのスキルを一部ご紹介しましょう。たとえばスマートフォンでライブコマースを実施する際、慣れていないとつい自分の姿やコメントが見える画面に視線を向けがちですが、カメラのレンズに向かって話すことにより、『自分に向かって話してくれている』と視聴者に思ってもらうことができます。細かいスキルではありますが、こうした小さな気遣いが親しみを感じるライブコマースにつながります。
なお、ライブコマースでは、視聴者のコメントを通して商品の魅力を発信していくため、発言しやすい雰囲気作りが非常に重要です。良い配信では、多くの視聴者がコメントを行い、さらにコメント欄で視聴者同士がやり取りし始めるなど、コミュニティ化にも成功しています。こうした細かなテクニックや気遣いで、より効果的なライブコマースが実現できます」