矢野経済研究所は、国内のEC決済サービス市場を調査し、現況、参入企業の動向、および将来展望を明らかにした。
市場概況
EC市場拡大を背景に、EC決済サービス市場も拡大を続けている。また、コロナ禍を機にEC事業に進出する事業者やD2Cに取組む事業者が増えており、そのような事業者においてもEC決済サービスの導入も進んでいる。一方で決済代行業者では、決済手数料率の引き下げ競争が激化している。そのため、加盟店のサイト集客支援や販促支援、送金サービスなどにより、決済手段以外の付加価値を提供することで差別化を図っている。
また、決済手段においてはさまざまな決済サービスが登場するなか、大手決済代行業者などでオンライン取引でのQRコード決済を拡充する動きが出ている。この取り組みは、多様化する決済手段に対応することで、より広い層の消費者を取り込もうとする加盟店に対して、EC決済サービスの利用促進を図る意味合いがある。現在EC決済の取扱高では、オンライン取引でのQRコード決済金額が占める割合は小さいものの、利用は急増している。
大手決済代行業者を中心に取扱高は順調に増加しており、さらにコロナ禍がEC市場の拡大を後押ししていること、BtoB領域での決済サービス提供が進むことなどから、EC決済サービス市場は拡大している。また、EC決済サービス提供事業者は、対面(リアル)取引やオムニチャネルに関する決済サービスの提供にも注力していくと考える。こうした要因などを背景に、2019年度のEC決済サービス市場(EC決済サービス提供事業者の取扱高ベース)を16兆4,325億円(前年度比116.0%)と推計し、2020年度は19兆1,562億円(同116.6%)の見込みである。
注目トピック
EC決済サービス市場・後払い決済サービス市場の動向
EC決済サービス市場における新型コロナウイルスの影響
オンライン決済では、外出自粛により決済単価の大きい旅行やホテル・宿泊、イベントなどのチケット販売の利用が減少したものの、巣ごもり消費にともなって物販系ECや動画・ゲーム・電子書籍などのデジタルコンテンツの取扱高が増加した。
さらに、コロナ禍を機にEC事業に進出する事業者による決済代行サービスの利用が増えている。代表的な業種としては、物販系ECに加えて、飲食デリバリーやオンライン診療などが挙げられる。
マンスリークリア型が台頭する後払い決済サービス市場
BtoC領域のECにおける後払い決済サービス市場(後払い決済サービス事業者の取扱高ベース)は堅調に拡大しており、2019年度は6,870億円と推計する。
これまで自社で後払い決済を展開していた大手企業において、自社のリソース削減を目的に後払い決済サービスの導入が進んでいる。サービスを利用しているユーザーとしては、若年層や主婦層、シニア層などのクレジットカードを利用しない層を中心に利用が広がっている。なお、クレジットカードを所有しているユーザーにおいても、普段使用しないECサイトの利用や電車内で移動しながら購買する場面などで後払い決済サービスの利用がみられる。
コロナ禍などを背景に購買行動が、リアル店舗をはじめとするオフラインからECなどのオンラインへシフトし、EC市場が活発化するなかで宅配業者と対面する決済を避けるため、代引きから後払い決済への移行が進むなどして、後払い決済の利用が拡大している。
また、一定期間内の購入に対して月一回にまとめて決済する、マンスリークリア型の後払い決済サービスが注目されている。トランザクションの発生は月一回に集約されるため、利用者ではサービスの利便性が高く、事業者においては請求書の発行などにかかるコストが軽減できるというメリットが生じると考える。
今後、後払い決済サービスの送客効果に対する期待や、高精度な即時与信機能の実装によるEC事業者の導入拡大などを背景として、2024年度の後払い決済サービス市場は1.8兆円を超えると予測する。
将来展望
EC決済サービス市場は、今後も堅調に拡大していくと予測。
コロナ禍などを背景に幅広い業種でEC化が進んでおり、BtoC領域のEC市場の拡大にともなってEC決済サービス市場も拡大していく見込みである。EC化が進展するにつれて、購買行動ではオンラインとオフラインのボーダレス化が進み、オムニチャネルや対面(リアル)領域の決済サービス提供も強化される。さらに、今後、EC決済サービス提供事業者は、BtoB領域の企業間取引の決済サービス提供にも一層注力していくとみる。
調査概要
- 調査期間:2021年1月~3月
- 調査対象:ECサイト向けの決済サービス提供事業者、および関連事業者
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談、ならびに文献調査併用