矢野経済研究所は、2019年度の国内の「オタク」市場を調査し、主要分野における各分野別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
同調査における「オタク」市場とは、一定数のコアユーザーを有するとみられ、「オタクの聖地」である秋葉原などで扱われることが比較的多いコンテンツや物販、サービスなどを指す。同調査では、「アニメ」「漫画(電子コミック含む)」「ライトノベル」「同人誌」「プラモデル」「フィギュア」「ドール」「鉄道模型(ジオラマなど周辺商材含む)」「アイドル」「プロレス」「コスプレ衣装」「メイド・コスプレ関連サービス」「オンライン(モバイル機器向け)ゲーム」「ボーカロイド(関連商品含む)」「トイガン」「サバイバルゲーム」を対象とし、市場規模を算出。なお、ここでは主要13分野の市場規模を公表する。
市場概況
同調査における「オタク」市場は分野により好不調はあるものの、主要分野であるアニメ市場とアイドル市場は2019年度までは堅調に推移した。
2019年度のアニメ市場規模はアニメーション制作事業者売上高ベースで、前年度比3.4%増の3,000億円と推計。年度末にあたる2020年2月から3月に新型コロナウイルス感染拡大による一部の劇場版アニメの公開延期などの影響はあったものの、テレビアニメ「鬼滅の刃」、劇場版アニメ「天気の子」「名探偵コナン 紺青の拳」などのヒットによる映像制作部門が好調であったことに加え、国内外における映像配信事業が好調に推移した。
2019年度のアイドル市場規模はユーザー消費金額ベースで、前年度比8.8%増の2,610億円と推計。アイドル市場と同様、新型コロナウイルス感染拡大の影響により年度末にあたる2020年3月のライブ活動が中止および延期となったものの、年間を通しては「ジャニーズ」「AKB48」グループを中心としたライブ動員数の増加、さらにほかのアイドルグループの台頭も継続しており、引き続き市場は拡大した。
注目トピック
ホビー関連市場はコロナ禍の巣ごもり需要により市場拡大を予測
新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛などにより在宅時間が増えたため、プラモデル、フィギュア、トイガンなどのホビー関連商材は需要が拡大している。特にプラモデルは既存ユーザーの消費拡大や休眠層の掘り起こしに加え、親子での参加も増えるなど幅広い層でユーザーが拡大している。
多くのホビー関連メーカーは、海外の生産工場の稼働停止や物流制限による商品の納期遅れや、新製品発表の場となっている定番イベントの中止などの影響を受けたものの、巣ごもり需要の拡大を受けてインターネット広告に注力するなど積極的な販促活動に取り組んだ結果、好調に推移。
これまでもホビー商材は愛好家に下支えされていることから景気に左右されない分野といわれてきたが、依然として新型コロナウイルスの影響は不透明な状況であり、さらに感染拡大が進めば経済活動への打撃も大きくなるため、今後はホビー商材においても消費行動への影響が出ることも懸念される。
将来展望
オタク市場の主要分野であるアニメ市場とアイドル市場の2020年度市場規模は新型コロナウイルス感染拡⼤の影響を受け、大幅に縮小すると予測する。
2020年度のアニメ市場規模はアニメーション制作事業者売上高ベースで、前年度比13.3%減の2,600億円を予測。各社制作部門やイベント部門、物販部門などでは新型コロナウイルス感染拡大の深刻な影響が顕在化している。
テレビアニメは、感染防止対策のため制作会社やテレビ局が新作アニメ映像の納品スケジュールよりもテレワークや分散出勤を推奨する状況となったため、特に4月から6月の期間は新作アニメ放送の延期や中止、放送本数が減少する事態となった。加えて放映に連動して展開されるゲームや玩具などの販売にも影響を与えた。7月以降は従来のスケジュールに戻りつつあるが、感染状況によっては放送スケジュールや周辺ビジネスへの影響も未知数であるものとみる。
劇場版アニメにおいては、映画館への休業要請によって上半期に公開予定だった多くのアニメ映画が公開延期となっている。なかには2021年以降に延期となる作品もあり、2020年度の業績に大きな影響を及ぼすことが予想される。
一方、映像配信事業においては在宅時間の増加によってサービス利用が加速度的に伸びており、引き続き国内外において拡大することが見込まれる。
2020年度のアイドル市場規模は、ユーザー消費金額ベースで、前年度比42.5%減の1,500億円を予測。イベント活動の自粛要請によって3月以降のライブ活動が中止および延期となっている。ライブ活動ができないことによって、グループメンバーの卒業ライブや解散ライブが行えず、保留となっているグループも多い。一部、無観客によるネット配信のみで活動再開しているグループもみられるが、コロナ禍が長期化するなかで、ライブ活動の大幅減少はファンの消費低迷にもつながっている。
調査概要
- 調査期間: 2020年7月〜9月
- 調査対象:「オタク」に関わるコンテンツや物販、サービス事業者および業界団体など
- 調査方法:同社専門研究員による直接面接取材、電話によるヒアリング、インターネットアンケート調査、ならびに文献調査併用