日本電気(以下、NEC)は、独自AI技術を活用した予測精度マネジメントによる収益拡大に向けた戦略立案の高度化の実証実験をアサヒ飲料と2023年6月から10月までの5ヵ月間実施した。その結果、以下の成果が確認できた。
- 需要予測専門家であるデマンドプランナー(市場動向や過去の販売データ、商品のライフサイクルなどの情報を分析。将来的に発生する需要量を予測し、各部門の行動指針を示すポジション)の知見や暗黙知で行っていた新商品の需要予測の類似性判断で7割程度を再現
- 判断材料やノウハウなど、属人的でデータ化できていない要素の可視化
- 売上機会損失、棚卸資産、在庫保管費、物流費削減など机上評価で年間3億円の削減見込み
NECは、同実証をもとに2023年12月からアサヒ飲料と連携を強化すると同時に、これまで人手が担っていた業務をAIにより効率化を図り、さらなる需要を生み出し、収益拡大に向けた高付加価値業務に注力。商品の欠品や余剰在庫を防ぎ、消費者に安心して商品を届けられるプロセスを目指す。
近年、食品ロスは世界で年間約13億トン、国内では年間約612万トンにおよぶ。食品ロスの原因のひとつが、需要と供給のミスマッチである。食品や飲料メーカーの在庫と生産の最適化や業務効率化の実現により、過剰な生産や期限切れによる返品、売れ残りといった様々な課題解決が期待される。
現在、食品や飲料メーカーにおける商品の需要予測の多くは、デマンドプランナーの属人的な知見やノウハウに基づいておこなわれている。しかし、既存品に比べると新商品の需要予測は誤差率が高く、欠品や過剰在庫の発生可能性が高くなる傾向がある。また、需要予測結果に対する根拠の透明性、再現性の低さ、さらには発売前にトレンドの変化や季節性を考慮した中長期的な需要予測を行うことの難度の高さが課題となっていた。
同実証実験では、NECの独自AI技術と需要予測のプロフェッショナル知見を組み合わせ、アサヒ飲料の新商品発売前の時点において、需要予測のカギとなる「類似性判断(ベンチマーク商品の選定)」「類似品との差異分析による需要予測」、さらに「需要予測オペレーション管理のためのしくみ構想」を実施した。
類似性判断(ベンチマーク商品の選定)
過去に発売された新商品とベンチマーク商品の組み合わせについて、商品マスタや過去実績、マーケティング施策情報などを用いて分析。その結果、類似度ランキングトップ10では過去、人によって選択された商品の7割程度を再現すると同時に、デマンドプランナーが考慮しているもののデータ化できていない要素を明確化できた。データ収集や整理の負荷なく、業務知見の少ないデマンドプランナーでも一定レベルの類似ベンチマーク商品の選択が可能となる。
類似品との差異分析による需要予測
過去発売品の実績、マーケティング施策、天候情報などを用いて、新商品ごとに需要の因果関係を推定し、AIが販売開始から一定期間の需要を予測。その結果を、現行オペレーションでの予測精度と比較したところ、条件を見極めることで同等精度を実現した。商品別では、発売5週間前時点で3~4割、発売翌日時点では4割の商品で、AI予測が現行オペレーションの予測精度を上回った。
今後も分析と推測を継続することで、現行の同等以上の予測精度と、新商品需要予測業務のスピード向上や組織パフォーマンスの再現性向上が期待される。需要の因果関係を可視化することで、さらなる需要創出に向けた戦略立案の高度化や各種ステークホルダーとのコミュニケーションの円滑化を促すとしている。
需要予測オペレーション管理のためのしくみ構想
高度な需要予測の標準化に向けた管理指標の定義や業務プロセスの設計をおこなった。具体的には、アサヒ飲料の現行の予測精度管理指標とNECの知見を融合し、未来の業務プロセスを整理し、ダッシュボードイメージを構築。出荷量、購買データなどを基に作成する需要変動アラートのシミュレーションを行い、アサヒ飲料のデマンドプランナーによる評価を実施した。需要変動をアジャイルに捉えるアラートの仕組みを設計することにより、早期に市場の変化を捉えて需要予測を修正。必要に応じて需要予測ロジックを見直すことで、売上管理や在庫・生産管理、調達・物流計画などへ反映することが可能となる。
同実証実験を通じ、NECはアサヒ飲料における需要変動の可能性の想定や早期の察知により、SCMやファイナンス部門における事前のリスクヘッジ策の検討と、営業やマーケティング部門における納得感のある因果関係情報を基にした需要拡大アクションの検討を実現し、売上と利益のさらなる拡大を支援する。