大日本印刷は2023年2月、フィリピンにて、物流の最終拠点からエンドユーザーの手元までの「ラストワンマイル」における実証事業を実施。低温度帯配送であるコールドチェーンを対象に、同社の「デジタル配送管理システム」と「DNP多機能断熱ボックス」を掛け合わせた物流サービスの実現性、市場受容性を検証した。
なお、本実証事業は、国土交通省の「デジタル技術を活用した物流最適化に資するソリューションの海外展開支援に係る調査検討業務」として実施されたもの。
近年、フィリピンでは新型コロナウイルスの影響などから、オンラインショッピングの利用が増加し、宅配の需要が高まっている。それにともない顕在化した物流問題の解決に向け、今回の実証事業では次の3つの課題が設定された。
- 配送事業者の多くが配送指示を紙や電話などで管理しているため、リアルタイムでのドライバーの配送状況把握が難しく、荷主の問い合わせに即時に対処できない
- 冷蔵・冷凍車による配送が高価なため、一部のスーパーやコンビニエンスストアなどを除いて、コールドチェーンが普及していない。
- 巣ごもり消費などで配送需要が高まり、モノの配送ドライバーが不足する一方、屋外の人流が減ったことでトライシクル(タクシー)ドライバーの仕事が減少。収入機会が失われている。
これらの課題に対してDNPは、実証事業において次のことを行った。
デジタル配送管理システムによる配送状況の可視化
DNPがユニアデックス、Global Mobility Serviceと2022年に設立した合弁会社3Q Dash Technolox, Inc.が運用する、DNPのデジタル配送管理システムを、ラストワンマイル配送に活用。従来アナログで管理していた配送指示をウェブ上で管理する。
配送ドライバーや荷主とのコミュニケーションは、SMSや電話などに替えて専用のスマートフォンアプリで行う。ドライバーは業務進捗状況の更新をアプリで実施し、管理者はウェブ上のダッシュボード画面でドライバーの位置情報と業務進捗を確認、リアルタイムに配送状況を把握する。これにより、配送ミスの削減および配送時間の短縮を図る。
DNP多機能断熱ボックスを活用したコールドチェーン構築
DNP多機能断熱ボックスは高断熱性能を有しており、電源を使うことなく内部の温度を長時間、一定範囲に保つことができる。生鮮食品や医薬品など温度管理が必要な荷物の配送を視野に入れ、今回は冷凍食品の配送を行った。冷蔵・冷凍車のチャーターと比較し、より低コストでの温度管理が可能なため、これまで費用面が課題となって常温商品しか扱えなかった、小規模な小売店などへの冷蔵・冷凍食品の配送が可能となる。
トライシクルドライバーなどのリスキリングによる雇用創出
デジタル配送管理システムを活用し、配送業務を簡易化する。従来、ヒトを輸送していたトライシクルドライバーへのリスキリング(学び直し)を行い、モノの配送ドライバーとしての業務を可能とすることで、雇用および労働機会の創出を目指す。
実証事業の概要
- 実施時期:2023年2月10日(金)~24日(金)
- 実施場所:フィリピン、マニラ首都圏および近郊
協力パートナーと担当内容
- 株式会社YCP Solidiance:市場調査
- 3Q Dash Technolox, Inc.:ケーススタディ現地調査、マネジメント
- Global Mobility Service Philippines:配送ドライバー・車両手配など
DNPは今回の実証事業について、配送管理の効率化、任意の温度帯を長時間保った配送、配送業務の経験がないドライバーの業務への適応といった、一定の成果が得られたとしている。今回得られた結果をもとに、今後は市場適応性などを検討しながら、ベトナムやインドネシアなど、東南アジア地域への水平展開を目指すとのこと。