日本人デザイナーを支持する中国人の複雑な心境とは
中国人のファッションは、急速に進化してきました。1990年代頃までには、中国でのビジネスマナーを紹介した書物などに「中国人は服装をあまり気にしない」などと書かれる傾向がありましたが、今や正反対で、「TPOをわきまえた服装でないと見下される」といった状況です。そこで、中国人のファッション感覚と、そのような感覚を持つに至った発想などを探っていきましょう。
昨今、多くの中国人が日本のファッション事情に関心を持っています。その関心の持ちかたには、ふたつの系統があるようです。まず、国際舞台で活躍する日本人の一流デザイナーに対する関心と敬意です。なぜ、日本人デザイナーに関心や敬意を持つのか。もちろん、同じアジア人として世界的に成功した人を称賛する気持ちもありますが、さらに複雑な心情もあります。
中国人には、「わが国には長い歴史に育まれた文化があり、人口も多い。さまざまな分野で、中国人が世界の第一線に立って当たり前」という気持ちがあると見られます。経済が飛躍的に成長した現在、こういった気持ちはさらに強まっている可能性が高いでしょう。
しかしながら、特殊な才能を必要とする分野で、世界のトップクラスに躍り出ることは容易ではありません。中国人から見ると、世界的な地位を築き上げた日本人は「日本人にできたことなら中国人もできるはず」と、希望を掻き立てられる側面があるのです。
これはファッション関連だけでなく、たとえばスポーツ選手についても同様の現象が発生しています。代表的な例のひとつに、水泳の北島康介選手が挙げられるかと思います。北京五輪で大活躍する北島選手を熱狂的に応援する中国人は、けっして珍しくありませんでした。ほかにも卓球の福原愛選手やフィギュアスケートの羽生結弦選手など、多くの中国人を熱狂させてきた日本人選手は珍しくありません。
話をファッションに戻せば、日本人デザイナーの作品は東洋人の皮膚の色などに比較的合うかもしれない、という感覚が働いていると考えられます。ファッションに限らず化粧品や医薬品などでも、欧米の商品について「アジア人に合うのかどうか」を気にする中国人は、かなり多く存在しています。
日本人デザイナーとして、中国のファッションファンにもよく知られている人物としては、たとえば山本耀司さん、三宅一生さん、森英恵さん、川久保玲さんらがいます。インターネットが発達した現在、「日本 ファッションデザイン」に相当する中国語の「日本 服装設計」で検索すれば、日本人デザイナーに関する情報は立ちどころに手に入ります。生活や流行などについての中国内外の情報格差は、かなり小さいと考えてください。
次ページでは、中国人が関心を持つもうひとつの日本のファッション事情についてご紹介しましょう。いわゆる「かわいい系」や「原宿系」と呼ばれるファッションです。この分野は、ファッションだけでなく日本のアニメやゲーム、さらにコスプレなどの、いわゆるサブカルチャーに密接に結びついている特徴があります。