日本製品に対する需要が拡大し続ける中国EC市場
2020年から続くコロナ禍で、多くの業種において国内市場は縮小傾向にある。とくにインバウンド主体のビジネスは深刻で、2019年4月には4.8兆円の規模にまで成長した市場が、事実上ほぼ消滅してしまった。まさに危機的状況と言えるが、だからこそ「事業のトランスフォーメーションに取り組む好機ととらえるべき」と、松浦氏は呼びかけた。
「市場全体が冷え込む中でも、巣ごもり需要によるオンラインショッピングの利用は増えています。2020年4月のヤフーにおけるeコマース取扱高も、前年比1.4倍に増加しました。世界最大規模の市場である中国に目を向けると、より顕著にその傾向を見て取ることができます」(松浦氏)
中国における業種別の平均売上増減率は、外食、小売がマイナスであるのに対して、ECは大幅なプラス、ECが市場全体を牽引しているような状況だ。また、中国の代表的なショッピングフェスティバルとして知られる「618(6月18日)」と「独身の日(11月11日)」の売上高は、2020年にそれぞれ約10.8兆円、約12.2兆円を記録。いずれも過去最高となっている。
「ニューリテール」で進化を続ける中国のOMO事情
続いて松浦氏は、中国EC市場の最新動向について説明。ポストコロナのビジネストレンドとして「OMO(Online Merges with Offline)」と「越境EC」のふたつを挙げた。
なお、中国ではアリババグループが提唱する「ニューリテール」というキーワードが、OMO以上に広く浸透している。テクノロジーの活用でオンラインとオフラインが融合した「新たな小売」をつくるという構想・概念であり、基本的にはOMOとほぼ同じ意味合いだ。
「ニューリテールの代表例とも言われているのが、アリババが展開するスーパーマーケット『フーマー(盒馬鮮生)』です。非接触で生鮮食品を購入できるスーパーとして、コロナ禍でいっそう注目を集めています」(松浦氏)
フーマーでは、すべての商品に二次元コードで認証できるE-Tagがついており、商品の価格や情報を見ることができるだけでなく、そのままオンラインで注文・購入も可能となっている。たとえば重いものを購入したり大量購入をしたりする場合は、実店舗で実物を見て選び、オンラインで注文を済ませて手ぶらで帰宅すれば良い。また、実店舗にわざわざ足を運ぶことなく、自宅からアプリで注文することも可能だ。フーマーのスタッフは、担当エリアから注文が入ると、陳列棚から商品をピックアップしてベルトコンべアに積み上げ、配達担当に引き渡す。そして、注文から30分以内に商品は顧客のもとに届く仕組みとなっている。
「フーマーで『いつ、何を購入した』という購買履歴は、すべてアリババのデータベースに蓄積されます。このデータを活用して、嗜好や購買傾向を分析し、顧客それぞれに合わせたレコメンド情報なども配信しています」(松浦)
ほかにも、中国で行われているニューリテールのサービス例としては、「車の自動販売機」や「イメージサーチ(画像検索)」などがある。前者は、アリババの決済システムやビッグデータ、顔認証、信用スコアなどの技術を組み合わせて実現される、自動車の試乗および販売サービス。後者は、雑誌や実店舗で気に入った商品を専用アプリで撮影すると、同じ商品や類似商品が検索結果に提示され、そのままECサイトから購入できるというものだ。
「中国でアリババが提供しているこれらのテクノロジーを活用して、日本でも同様の取り組みができると考えています。ご興味いただけましたら、ぜひ当社にお声がけください」(松浦氏)
越境ECモールへの出店から開始するインバウンド対策
ソフトバンクでは、越境ECの展開例として大きくふたつのパターンを想定し、それぞれに対応したソリューションを用意している。ひとつは、越境ECモールを活用するパターン。もうひとつは、自社のECサイトを越境化するパターンだ。
ひとつめの越境ECモールとは、アリババが運営する中国最大のECモール「天猫(Tmall)」の越境版である「天猫国際(Tmall Global)」を指す。天猫国際のモール内にアリババの直営店舗として「海外直送品サイト」を用意し、その中に日本館、アメリカ館、ヨーロッパ館、韓国館などを設け、各国の商品を販売している。
「徐々に売れ筋商品も明らかになってきました。中国のお客様には、とくに美容、化粧品、健康、雑貨などの日本関連商品が人気です」(松浦氏)
ソフトバンクが提供する越境EC支援サービスのファーストステップとなるのが、同サイトへの出品だ。既存店舗に間借りし、自社の商品が中国で受け入れられるのか、テストマーケティングを実施することができる。
「出品希望の事業者には、見込み顧客集客用のプロモーションから出店手続き、ページ制作や商品登録、カスタマーサポート、配送まで含め、ワンストップでサポートします」(松浦氏)
とくにプロモーションに関しては、アリババグループのさまざまなメディアを活用できる点が大きな強みだ。そのひとつの例が、ライブコマースの活用である。中国では全ネット利用者の半分に相当する約4億人以上がライブコマースを利用していると言われ、その影響力は非常に大きい。ルワンダの「ゴリラズコーヒー」をライブコマースで紹介・販売した際は、わずか1秒で1.5トンのコーヒーが完売したという驚きの結果も出ている。
「海外直送品サイトへの出品で良い反応を得ることができ、多くの顧客を獲得した暁には、次のフェーズとしてモール内への自社EC店舗開設、さらには現地法人を設立した中国国内ECや実店舗展開なども夢ではありません。各フェーズに合わせたプランをご用意しています」(松浦氏)
また、中国で成功したビジネスをアジアの他国へ展開することも可能だ。Lazadaでは、東南アジア地域をカバーするECプラットフォームを構えているほか、韓国やインドにおいても関連会社や協業サイトを通じてさまざまなサポートを提供している。
1秒の遅延が7%の顧客ロスに 中国EC進出時に注意したい通信遅延
自社ECサイトを越境化するには、中国語への対応(多言語化)や決済手段への対応など、さまざまな対策が必要となる。中でも注意すべきポイントとして松浦氏が挙げたのが、日中間での通信速度だ。
ある企業が行った調査によれば、中国から日本のウェブサイトへアクセスする際の表示時間は2~3秒を要する地域が多く、中には5秒以上かかるケースもあると言う。サイト表示スピードの遅延は、次の図の通りコンバージョン率の低下やユーザーの離脱といった機会損失につながるため、早急な課題解決が必要となる。
なお、この課題を解決するソリューションを提供しているのが、ソフトバンクとアリババグループの合
弁会社であるSBクラウドだ。同社では、中国最大のパブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」を日本の企業向けに提供。自社ECサイトをこのAlibaba Cloud上に移行した上で越境化することにより、中国のほとんどの地域でサイト表示スピードを高めることができる。
「基盤となるクラウドはもちろん、決済、物流、カスタマーサポートなど、越境EC化に必要なソリューションを『自社越境ECパッケージ』として、ソフトバンクからまとめてご提供します」(松浦氏)
プロモーションについても、認知から情報収集、体験、意思決定、共有まで、すべてのフェーズをカバーする「越境ECプロモーションプログラム」を用意し、天猫国際出店時と同様に手厚い支援を行っている。
松浦氏は、最後にこのように語りセッションを締めくくった。
「コロナ禍の渡航制限が購買ニーズ拡大に作用したこともあり、中国向け越境ECビジネスは今、非常に盛り上がっています。既存のインバウンド需要に頼ることができない今こそ、自社のビジネスを変革し、越境ECで新たな市場を切り拓く好機でもあります。『自社商品と中国マーケットとの相性が知りたい』などの疑問にもお応えできますので、まずはお気軽にお問い合わせいただければと思います」(松浦氏)