「マーケター」は育てない 逸見流・自立したデジタル組織の作りかた
2020年9月8日に行われた同セミナーは、トップマーケターを招いて各企業のデジタルトランスフォーメーションの取り組みについて話し尽くすカンファレンスとして、デジタルマーケティングのシンクロと、マーケティング人材育成サービス「コラーニング」主催で開催されたもの。イベントは3部構成で、第1部では「マーケターの育成方法」、第2部では「育成に重要な『スキル定着』と『実務に活かす』方法とは?」をテーマにプレゼンテーションとトークセッションが開催され、第3部ではQ&Aセッションが行われた。
まず第1部の先陣を切ったのは、「カメラのキタムラ」のオムニチャネル化を成功に導いた株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎さん。マーケターの育成方法について、「マーケティングのフレームワークを学ばせるよりも、さまざまな職種の人々が自身の業務内に存在するマーケティング要素を見つけることが重要」だと語る。
「『マーケター』という人材を育てるのではなく、皆さんの既存業務の中に存在するマーケティング要素を見つけ出し、打ち手を自ら考えられるようになることが大切です。たとえば実店舗の店長であれば、売上(客単価×客数)のデータをID POSデータで見てみましょう。新規顧客と既存顧客を分解すると『ロイヤル顧客がこれだけいたのか』と発見を得られるはずです。次にロイヤル顧客が定期的に購入するカテゴリや商品を見ていけば、品揃えとのギャップを発見することができます。こうした発見を仕入れや実店舗の展開に活かしていく。このように身近なところから自然とマーケティング思考を根付かせることが必要です」(逸見さん)
デジタル化が進み、人々の行動を可視化できるようになった今、得たデータを売上や粗利、経費や営業利益といった数字と結びつけて報告することも重要だ。事業の規模が大きくなるほど、効率性を求めて業務も細分化してしまいがちだが、「マーケティングは専門部隊だけが行うものではなく、商売の一環として誰しもが取り組むべきこと」だと逸見さんは続ける。また、現場にこうしたマーケティング思考を定着させるためにも「ものを売る思考を商品勘定から顧客勘定へと変化させてほしい」と語った。
たとえば、年間300億円の売上目標を「シューズ15万足で250億円、アパレル2万着で25億円……」といったように商品数で算出するのではなく、「年間30万円購入してくださる顧客2.2万人、10万円購入してくださる顧客4.8万人……」といったように、顧客軸で算出する。すると、新規顧客をどれだけ獲得すべきか、新規顧客をどれだけ継続顧客に引き上げるべきか、アプローチすべき顧客層が見えてくると言う。
逸見さんは、こうしたスキルを半年から1年かけて伝授することで、自立して組織が回るようになってほしいと考えているとのこと。「デジタルに苦手意識を持つ人材も、売上が伸びる話と現場の作業が減る話をセットで伝えれば、便利さや大切さを理解してくれるはず」と語った上で、こう続けた。
「実店舗を持つ企業でも、商品別の売上高は見ているが客単価と客数の関係性を見ることはできていないケースがいまだに多く存在します。しかしそういった企業も、現場を見ると常連のお客様をお名前で呼び、大切にするといった接客ができているところがほとんど。それでも売上の中心が誰なのかは見えていないのです。そういった企業で実際に数字を分解して見せると、『こんなにリピーターがいたんだ』と驚かれます。数字を見せれば、従来の施策が見当外れだったことも目に見えてわかりますし、経営側から大きく動きが変わります」(逸見さん)