2018年1月に開催されたNRFにて、セールスフォースが掲げたテーマはユニファイド(統合された)コマースだった。
セールスフォースといえば、CRMとクラウドに強みを持つ企業であり、コマース関連のソリューションが即座に思い浮かばない読者もいるかもしれない。2016年6月に、クラウドコマースソリューション「Demandware」を提供するデマンドウェア社の買収を発表するまでは、小売事業者が同社のマーケティング関連のソリューションを利用することはあっても、同社のソリューションでECサイトを構築することはできなかった。
デマンドウェアの買収によりコマースソリューションを得た同社は、同年9月から「Salesforce Commerce Cloud」として提供を始めている。日本では、2017年9月にスポーツブランドのミズノが、グローバルECサイトの構築に採用を発表。米国で発表された直近(2017年12月)の導入事例では、ロクシタン、アシュレイ・ファニチャー・ホームストアなど、著名なブランドが並んでいる。
Salesforce Commerce Cloudの特徴は、ユニファイド(統合された)コマースの名のとおり、「Marketing Cloud」「Service Cloud」とつながることで、認知から優良顧客化まで、一環してセールスフォースのソリューションで行える未来を目指していること。それはマーケティングのステップごとに別のソリューションを利用せずに済む、利便性が高まるという意味にとどまらない。
昨今の消費者のニーズとして、もっと自分を理解し、適切なサービスを施してほしいというものがある。また、「モバイルオンリー」と表現されるほどスマートフォンでのEC利用が進んでいるが、限られたスペースに、いかに最適な情報を表示できるかがキモだ。どちらにも共通しているのが、パーソナライゼーションという課題である。逆に言えば、この課題を解決すること、つまりEC上でパーソナライゼーションを実行することで、セールスフォースのユーザーは売上を向上させている。
パーソナライゼーションをすべてのユーザーに対して実現するためには、AIの力に頼らざるを得ない。その点、セールスフォースでは「Salesforce Einstein(以下、アインシュタイン)」というAIを持っており、Commerce Cloudにおいては、サイト内検索のキーワードサジェストと、商品詳細ページ等の下部に表示されるレコメンドアイテムのパーソナライズに活用され、デフォルトの機能として実装されている。
データの重要性は、マーケティングにおいて言わずもがなだが、AIを活用するにあたっては、ビッグデータレベルの蓄積が必要になる。自社でマーケティングに活用しやすいビッグデータを持つには、マーケティング、コマース、サービスといった顧客接点になる製品が、ひとつのプラットフォーム上にソリューションとして1社で提供され、すべてつながっている状況が適しているというのがセールスフォースの考えだ。
ここで改めて、Commerce Cloudとの連携が進められている各ソリューションについて、機能や特徴を確認していこう。
まずは、Marketing Cloudに含まれるが、存在感の大きさから個別に「Salesforce DMP」を紹介したい。その名のとおりデータ管理プラットフォーム(DMP)だが、セカンド/サードパーティデータを活用し、新規顧客獲得を目的とした広告配信への活用に限らず、自社の顧客データを活用したメール配信などCRM施策にも活かしていくのが特徴である。これにより、認知から優良顧客化までの流れをスムーズに行うことができるというもの。小売事業者にとって、新規顧客と既存顧客、どちらのコミュニケーションも同等に重要だが、Salesforce DMPを活用することで、いずれの施策にも有効なデータを管理することができる。
続いては、One to One カスタマージャーニープラットフォームの別名を持つMarketing Cloudについて。リアルタイムな顧客データを活用し、マルチチャネル・デバイスで最適なコミュニケーションを実現するというもの。カスタマージャーニーは、顧客視点でのマーケティングの重要性を訴える、セールスフォースがもっとも重視するキーワードである。Marketing Cloudの「プラットフォーム」でカスタマージャーニーを設計することができる。
Marketing Cloudで実際にコミュニケーションを行えるチャネルとしては、メール、モバイル、ソーシャルメディア、ソーシャル広告、パーソナライズを前提としたウェブである。機能としてそれぞれ「Studio」という管理画面を持ち、コンテンツの作成、セグメント、分析までPDCAを回しやすいようになっている。ジャーニーマップを描いたものの、いずれかのチャネルが活用できないといった事態が起きないよう、日本ではLINEとの連携など、常にアップデートが行われている。
そしてService Cloudは、カスタマーサービスを支援するソリューションである。アメリカでは「顧客を360度理解する」と表現するが、データを統合し、顧客を待たせることなく迅速に、そして顧客が求めるチャネルでコミュニケーションを行うことを目指している。
最後にCommerce Cloudそのものだが、デマンドウェアの時代から、モバイル、タブレットを意識したレスポンシブデザインを採用。管理画面も充実し、ドラッグアンドドロップで商品を並び替えたり、商品を検索して価格を調整したりといったことが迅速に、わかりやすく行える。言語や通貨の表示の切り替えなど、グローバルで展開したい企業のニーズにも対応している。
ここ数年で、Eメールやサイト分析、広告効果測だけでなく、ソーシャルメディアとの連携、ID決済、ウェブ接客、LINE、マーケティングオートメーション、オムニチャネルと、新たなマーケティングテクノロジーや概念が次々に登場してきた。それらは、そのジャンルに特化したベンダーが各々開発してきたから、ECサイトは登場するたび、継ぎ接ぎするように連携せざるを得なかったが、そろそろ次のリプレイスのタイミングではすべての管理画面がひとつだったら楽だろうなというのが、EC担当者の本音ではないだろうか。
Commerce Cloudを中心とした、セールスフォースが掲げるユニファイドコマースは、こうした昨今のEC/小売事業者のニーズに答えるソリューションのひとつだと言えよう。取り組みたい施策がソリューションの機能開発が追いつかず実現できないという声も、先進的なEC/小売事業者から聞かれていた。成長企業として注目されるセールスフォースのCommerce Cloudが、今後どのような進化を遂げていくのか、注目したい。