過去4回の連載で、日本にいながら利用できる便利なサービスや海外のマーケットプレイス、海外物流の基礎、ネット広告を活用した海外でのプロモーションについて書いてきましたが、今回が最終回です。そこで今回は、ノウハウ的なことではなく、私なりの越境ECの近未来、そしてさらに加速させていくために必要なことを考えていきたいと思います。
越境EC加速のカギ1:「脱カタログ」を適える人材育成を
東京オリンピックに向けて、インバウンドの海外旅行者が急激に増えていることもあり、どこに行っても、海外からの旅行者への対応策について聞かれます。それだけ海外から日本への注目度や興味・関心が高まっていることは確かで、言い換えれば越境ECのチャンスも大きくなっていると言えます。 もちろん円安の影響もあります。
現在の越境ECを支えているのは、家電・カメラなどの量産品を中心とした、グローバルなジャパンブランドの指名買いです。 ECサイトそのものが日本語の場合でも、海外の消費者は欲しい商品の型番も知っているので、物流さえ整備されていれば、消費者は検索から購入までのプロセスを簡単に踏むことができます。
この分野以外の商品をどれだけ海外に認知させ、流通させていけるかが今後の課題になるわけですが、現在、国を上げてさまざまな取り組みがなされています。 代表的な取り組みは「クールジャパン」です。
クールジャパンは、「日本の魅力を世界に発信する」をコンセプトに、コンテンツやデザイン、ファッションなどを流通させていこうというコンセプトの基に推進されているのですが、個人的には、多くの課題を抱えているのではないかと感じています。
というのも、良い商品をどれだけ発掘しても、それを「カタログ」として発信するだけではムーブメントは起きないのではと思います。 クールジャパンに必要なものはもちろん「世界に通用する商品」なのですが、いくらこういったクオリティの高い商品を集めても、「売りかた」が確立されていなければ、なかなか海外消費者の興味を喚起することはできないからです。
「売りかた」のメカニズムを構築するためには、下記の要素が必要なのではないかと思います。
- ストーリーテラー
- プロデューサー
- コンセプトが明確化されたマーケットプレイス
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ストーリーテラー:「伝える力」でコンテンツとして発信していく
「ストーリーテラー」とは、しっかりとブランドの魅力や商品の良さを伝えられる人のことです。いわゆるライターやキュレーターといった専門家が持っている「伝える力」により、コンテンツとして発信していくことが求められているように思います。
日本と海外では、商品やブランドの伝えるべきポイントは変わるかもしれないし、実際に商品を手に取る環境がない海外において、商品スペックだけをカタログ的に紹介しても訴求力の面で弱くなってしまいます。
プロデューサー:付加価値を見出してプレゼンする
「プロデューサー」とは、商品に新たなアイデアを注入して、消費者にプレゼンテーションできる人のことを指します。
以前、ある伝統工芸品の海外流通戦略のワークショップに参加したことがあるのですが、海外メディアの在日外国人記者を招待して、さまざまな伝統工芸品を手にとってもらい、意見をもらうというものでした。美濃焼のすり鉢でバジルなどの香草をすり潰すと風味が立ち、洋食にもいろいろ使えるのではないかといった意見や、日本酒とチーズのマリアージュなど、作り手が気づかなかったような意見がどんどん出てきて、新鮮でした。
製造の現場に入り込んで、こういった付加価値を見い出したうえで、海外消費者に対してプレゼンテーションできるスペシャリストの育成にも予算を投下すべきだと思います。
マーケットプレイス:日本商材の大きな売り場が必要
「マーケットプレイス」とは、クールジャパン商品を包括して、ストーリーテラーとプロデューサーで構成された、コンテンツと商品販売を一体化したオンラインモールのイメージでしょうか。
AmazonやeBayのようなカタログ販売型のものではなく、コンテンツマーケティングを軸にした日本商材の大きな売り場を構築することが必要です。 国を上げて取り組んでいるプロジェクトだからこそ、こういった環境の整備が早期に実現されることを期待したいところですね。