SHEIN(シーイン)とは?
SHEINは、Z世代を含む若者を中心に、今や世界中で人気を博しているファッションブランドだ。冒頭でも触れたように、豊富な品揃えで安くてカワイイアイテムが販売されている点がその理由だと考えられている。まずは、そんなビジネスをしているSHEINがどのような会社なのか見ていこう。
低価格ファストファッションの通販事業
SHEINはファッションブランド名でもあり、アパレルの通販事業者としての会社名でもある。中国発の越境ECで、150ヵ国、1億4,000万人以上の顧客にサービスを提供している国際的な企業だ。
取り扱うアイテムは幅広く、レディースやメンズ、キッズはもちろんのこと、マタニティやプラスサイズ(大きめサイズ)にも対応している。小物も、バッグやシューズをはじめとして、アクセサリー、メイク、マタニティ、キッチン、スポーツ、アウトドア、DIY、家電、カー用品、オフィス用品、ペット用品と豊富だ。
特徴的なのはその価格。多くのアイテムが1,000~2,000円で買えるという安さで、小物であれば100円ほどで買えるものも少なくない。ジャケットやコートといった、一般的には値が張るアウターでも数千円のものが多く、5,000円台で高いと感じるようなラインアップとなっている。1万円超の商品が超高級品のように見える世界だ。
デザインは人によって好みが分かれるところだが、カワイイというイメージのものからキレイ、カッコいいというイメージやストリート、エレガント、個性的なものまで、実にさまざまなジャンルが取り揃えられている。流行に敏感で変化を楽しみたい若者に、この価格帯で豊富なアイテムが提供されるなら、人気が出るのも当然だろう。
実績から見るSHEIN
ここでは、SHEINのアプリダウンロード数を見ていこう。SHEINは、アプリのダウンロード数でも、好調さがうかがえる。2023年、世界のショッピングアプリのダウンロード数で1位 を獲得。SHEINと同じく破格の安さを売りにするTemu(「テム」または「ティームー」)(2位)、アマゾン(3位)を押さえてのことだ。累計ダウンロード数も8.3億に達しているという。
2023年、もっとも利用されたアプリでも、世界ランキングで12位となっている。ブラジルではもっともよく利用されたアプリに輝き、アメリカが2位、メキシコが3位と、北米南米ともに高い人気を誇っているといえるだろう。
安定成長を続ける国際的な企業
ここでは、SHEINという会社の概要を実績を通して見ていこう。SHEINは、シンガポールに本社を置く未上場のグローバルカンパニーだ。創業は2012年、中国人のChris Xu(許仰天)氏を含む4名の起業家によって中国で立ち上げられた企業だ。
アメリカのロサンゼルスやワシントン、ブラジルのサンパウロ、アイルランドのダブリン、フランスのパリ、イギリスのロンドンなど、世界に20の拠点を持つ。従業員数は1万6,000名。日本語でのサービスが開始されたのは2020年からだ。
2023年の売上高は365億米ドル (約5.4兆円)、純利益は20億米ドル (約2,820億円)という規模となっており、これは同じくファストファッションで知られるH&MやZARAを超えるものだ。日本のファストファッションの代表格ともいえるユニクロは、2024年8月に発表した決算で3兆700億円の売上を発表している。SHEINは、創業から10年あまりで5兆円超にまで売り上げを伸ばしてきたことになる。
今やファストファッション界の巨人とも呼ばれるSHEINは、現在ではグローバルカンパニーといえるが、もともとはChris Xu氏ほか2名が2008年に始めたネット販売の会社からスタートしている。そこから2012年に立ち上げたウェディング向けブランド「SheInside」が現在のSHEINの前身だ。
ただし、CEOであるChris Xu氏の露出が少ないことや、本社を南京からシンガポールへ移転させるなど、中国というイメージが色濃く出ないよう、世界を意識したブランディングがされているのも特徴だといえる。
SHEINのビジネスモデル
創業から約10年と、比較的短い期間で5兆円企業にまで成長したSHEINのビジネスの秘訣とはなんだろうか。ここでは、同社が大きな成功を収めたビジネスモデルについて触れておこう。
自社独自のサプライチェーン
SHIENは、広州に大きな自社工場を有している。その工場を中心にメーカーやサプライヤーといったパートナー企業が動き、低価格のファストファッションを実現している。自社工場の操業を含めたパートナー企業とのやりとりではデジタルが存分に活用されており、リアルタイムに近いデータの共有などが行われている。
従来のアパレル産業は、次年度の流行を加味したデザインが生み出され、製造され、販売店に並んではじめて買い手(顧客)の手元に届くという作り手主導の流れになっている。そこには、作り手と買い手との間に乖離があり、顧客に選ばれなかった商品が売れ残り(在庫)という形で販売店の大きな負担になっている。
セールでも売れ残ったものは最終的に廃棄処分となるが、廃棄するにも費用がかかる。それに加えて、処分するための焼却や埋め立てといった環境への負荷もあるのが現実だ。その課題を解決するために考え出されたのが、デジタルによる顧客ニーズの変化の把握やAIの活用といった、データに基づきスピーディな対応ができるサプライチェーンだ。
デジタルを基盤とする事業運営
SHEINは商品を販売する店舗を持たない。その代わりを担っているのが、ユーザーが持つスマホにダウンロードされたアプリや同社のWebサイトだ。デジタルデバイスを通しての販売は、個人が特定されないよう匿名化された上でデータ収集が可能となる。
どのような商品がどのような属性のユーザーに好まれているのかを、データから分析できるのが大きな強みだ。国や地域、性別、年代、職業といった属性でデータを整理、分析し、販売予測に役立てられる。
ユーザーの商品選びにはAIが活用され、閲覧履歴やお気に入りなどからユーザーの好みやニーズを分析、予測。おすすめとしてユーザーに提示し、さらなる購入につなげる販促とする。SHEINの事業運営におけるデジタル活用で特徴的なのは、オンデマンド生産によって売れそうな商品をトライアンドエラーで迅速に探り出していくという方法だ。
迅速なオンデマンド生産
SHEINの強みであるオンデマンド生産とは、小ロットのテスト生産でユーザーの反応を都度確認する生産方法である。SHEINで「Test and Reorder」と呼んでいるその方法は、新しいデザインのアイテムを100~200という少量でテスト販売し、売れ行きの様子を見るというやり方だ。
テスト生産された商品に対するユーザーの反応を注意深く見ながら、売れ筋になると判断できるものだけを増産する。テスト生産を繰り返し、売れそうなものだけに絞って売るという手法だ。
しかも、SHEINは、デジタルデバイスの向こうにいるユーザーのアクセス分析をスピーディに実施していることから、ユーザーのリアルな反応を逃すことなく商品化につなげているといえる。この点も、SHEINならではの特徴だ。
際立つ速さのファストファッション
同じファストファッションという分類には、前述したH&MやZARA、日本ではユニクロやGUが該当する。しかし、その中でもSHEINは際立つ速さを備えているファッションブランドだ。アプリやWebサイトに「通常4~9日間でお届け」とされていることから、配送期間を考慮すると実に数十時間から数日間で商品を発送しているという計算になる。
商品を生産し配送するまでの速さもさることながら、デジタルを駆使した効率的なビジネスモデルで低価格を維持する事業運営や、テスト生産で廃棄されるアイテムをできる限り出さないようにする工夫なども、SHEINの安さを支える要素といえるだろう。
SHEINは北米のZ世代から人気に火が付いたといわれているが、10年余りで5兆円企業にまで成長したのにはこのような理由がある。デジタル活用や独自のビジネスモデルの構築だけではなく、手頃な価格、配送の速さ、若者が好むデザインなど、アパレル通販事業者としての総合力で選ばれているといっていいだろう。
SHEINが人気を集める理由
ここからは、数多くのファッションブランドの中でSHEINが人気を集める理由を取り上げる。Z世代をはじめとする若者が、SHEINのどのような点に魅力を感じているのか探っていこう。
圧倒的な安さ
まず触れておきたいのは、ファストファッション界の中でも群を抜く安さだ。レディースでは1,000円以下から数千円で多くのものが買える。新作でも、小物などは数百円、シューズも1,000円台と安価で、トップスやボトムスも平均的に1,000~2,000円という価格帯で、飽きたり流行が変わったりしても、次のものを買い求めやすい価格設定になっている。
セール品は1,000円台かそれ以下だ。試しにAmazonと比較してみたところ、SHEINではワイヤレスイヤホンがセールで36%引きとなり、570円まで値下がりしているものがあった。一方、Amazonでは最安値で999円。平均的には2,000~3,000円台かそれ以上という商品ラインナップで、SHEINと比較すると安さを求めたいユーザーには割高感が拭えないだろう。
中国国内で生産された商品の安さをそのまま海外ユーザーに届けるという、Temuにも通じるコンセプトが、安さを求めるユーザーに歓迎されているということだ。
取り扱うアイテムの幅広さと新作の多さ
安いだけではなく、幅広いアイテムを取り揃えていることもSHEINが人気を集める理由のひとつだ。一説にはSHEINの総アイテム数は60万種類ともいわれている。
実際にアプリやWebサイトを見てみると、基本的なファッションアイテムはもちろんのこと、ファッション性のある小物類が非常に多いとわかる。ホーム布製品のカテゴリの中には、キッチンマットや布団セット、カーテンなども含まれている。
また、自社ブランドに加えて、バッグや財布、アクセサリーなど、有名ブランドの商品も販売しているため、値段は張るが良質なものを選ぶことも可能だ。ファストファッションを基軸としながらも、ラインナップの広がりや若者に人気の有名ブランドも取り入れて品揃えに工夫を凝らしている。
また、アイテムの幅広さに加えて、新作の多さも特徴のひとつだ。SHEINは、新商品を1日に6,000点も供給しているともいわれる。
最低購入金額の低さと配送日数
商品価格の安さに加えて、送料無料の最低購入金額の設定も低い。これもファッションに使える資金が少なめな若者にとってはありがたい話だ。最低購入金額は2,000円で、それ以上ならば送料は無料となる。
そもそも商品単価の低いアイテムが多いため、購入金額が2,000円に満たない場合は、日本への送料として500円を支払うことになる。それでも中国から発送されることを考慮すると、高いとはいえない金額だ。なお、新規ユーザーによる初回注文の場合は、送料が無料となる。
配送日数も通常4~9日間と短い。日本のように海外からの注文の場合は、注文を処理するのに1~3日かかるとしている。一般的に注文の処理とは、ピッキングや検品、梱包などの発送準備を指す。そうすると、出荷から数日で日本国内の自宅に届く計算になる。
なお、新規ユーザーには、送料無料だけではなく購入金額に応じて割引を受けられる特典もある。
返品期間と返金処理の速さ
SHEINは、40日以内であれば返品は無料となっている。ただし、初回のみという条件があるので注意しよう。同じ注文で2回以上返品をすると、2回目以降、送料として1,200円が返金額から差し引かれるため、返品したい商品の合計が1,200円を下回ってしまうと実質的な送料がかかる。なお、以下のものは返品不可のため注意しよう。
- 着用済みや洗濯済み、破損、商品タグを外してしまっている商品
- 肌に直接触れるもの(ボディスーツやランジェリー、アクセサリー、美容下着、ファッション小物(スカーフ、バッグ、マーメイドブランケット以外))
- イベントやパーティー用品、DIY用品、ペット用品
- 返品不可と表示されている商品および無料ギフト
- オーダーメイド商品
返品ポリシーを満たす場合、返送先に商品が届いてから5営業日以内に返金処理が行われる。返金方法は2種類で、SHEINウォレットまたは注文時の支払方法。コンビニ払いの場合は、現金で返金されるのではなくSHEINウォレットに返金される。SHEINウォレットとは、SHEINでのショッピングにのみ使える資金を保管しておく仮想の財布のことだ。
なお、返品の仕方については、公式サイトで公開されている返品ムービーでアプリの操作方法を含め具体的な説明がされている。こちらを見てみると良いだろう。
選べる支払い方法
買い物のしやすさは、価格だけではない。支払方法がどれだけ用意されているかも、オンライン通販では非常に重要だ。SHEINでは、以下の支払方法が用意されている。
- クレジットカードまたはデビットカード
- 電子マネー(PayPay、au Pay)
- PayPal
- Paidy
- コンビニ払い
クレジットカードをはじめとして、PayPalや電子マネーといったキャッシュレス決済サービス、クレジットカード不要で銀行振込や口座振替、コンビニ払いが可能なPaidyとコンビニ払いと、幅広い決済手段がラインアップされている。現金や即時決済、後払いまで対応し、支払方法の選択の幅が広い点も特徴だ。
優待があるVIP会員制度
SHEINには、VIP会員制度がある。会員になると、会員限定の特典やクーポン、イベント、ポップアップへの招待、ニュース配信といったサービスを受けられる。ポップアップとは、期間限定でテナントビル内やショッピングモールの一角で開かれるイベントのことだ。
会員ランクは全部で4つ。S0、S1、S2、S3となっている。SHEINにアカウント登録をすると、自動的にSHEIN VIP会員のS0ランクとなる仕組みだ。S1会員についても、1回購入するとS0からランクアップする。顧客にとって魅力的な特典が得られるようになるのは、S2からとなっている。
S2会員は、直近約1年間に3回または1万5,000円以上の購入が必要となっており、条件を満たすと会員限定クーポンやポップアップへの招待が受けられる。S3ランクでは、S2ランクの特典に加えて、カスタマーサービスでの優遇やイベントでの無料ギフト、限定キャンペーンなどが追加される。
積極的なデザイナー支援
ファッションブランドとして、SHEINは新進気鋭のデザイナーやアーティストを支援する活動に取り組んでいる。2021年に始まった「SHEIN X」と呼ばれる若手デザイナーによるブランド立ち上げプロジェクトだ。SHEINは、まだあまり知られていないデザイナーやアーティストに対して、世界中のユーザーに自分の作品を発表できる機会を提供している。
3,400万人 のフォロワーがいるSHEINのインスタグラムで、SHEIN Xプロジェクトの成果として作品が投稿されれば、かなり多くの人の目に留まることは間違いない。このプロジェクトでは、これまでに4,000名以上ものデザイナーやアーティストを世に送り出し、4万ものオリジナルアイテムを創出してきたという。2028年までに1億500万米ドル(約147億円)を投じる予定だとしている。
それだけではなく、審査を通過した優秀なデザイナーは「SHEIN X RUNWAY SHOW」というイベントに参加する機会も与えられる。2024年から始まったこのイベントは、ファッション業界ですでに活躍しているデザイナーの目に留まる可能性を秘めている。これからファッション業界で活躍したいと考えるデザイナーやアーティストにとっては、自分を知ってもらえる格好の機会だといえるだろう。
世界初の常設ショールーム「SHEIN TOKYO」
SHEINは、気候や文化、価値観の違いなどを考慮し、その土地に合わせた施策を打つため、国によってマーケティング戦略を変えている。
日本では、2022年11月に世界初の常設ショールーム「SHEIN TOKYO」を東京・原宿にオープン。ポップアップとは異なる常設型で展開し、季節のコーディネートや新作のコラボ商品が発売されるタイミングなどで展示は入れ替えられている。その場でアイテムを買うことはできないが、展示品は試着が可能で、希望する場合は商品タグのQRコードを読み込んでアプリまたはWebから購入ができる。
フォトスポットやイベント開催など、ショールームならではの買うだけではない楽しみもSHEIN TOKYOには用意されている。2024年の夏には、SHEIN初の古着回収キャンペーンが実施された。古着1着と新品1着を交換するというおもしろい試みで、寄付されたアイテムは被災地など支援を必要とする人々の元へ届けられたり、アップサイクルに使われたりする予定だという。
確認しておきたいSHEINの問題点
ここまでSHEINの魅力や特徴を紹介してきたが、その一方で同社には解決しなければならない重大な問題点や課題がある。健康被害や国際問題に発展しかねないものだ。ここでは、SHEINの問題点を見ておこう。
有害物質問題
SHEINは、子供用ジャケットから有害物質が検出されたというカナダからの報告(2021年12月)や、幼児向けの衣服からEU基準を超える有害物質が検出されたというドイツからの報告(2022年12月)のように、古くから度々有害物質問題を起こしている。
韓国のソウル市が実施した調査によると、韓国基準を超える有害物質がSHEINの製品から続々と検出されていることがわかる。特に2024年の夏に国内のニュースで取り上げられることが多かった。具体的には、以下のものだ。
- 女性用の下着から基準値の2.9倍にあたる発がん性物質
- 浮き輪から基準値の218.5倍の発がん性物質
- ビーチボールから基準値の148倍の発がん性物質
- サンダルから基準値の229倍の発がん性物質
- 帽子から基準値の1.6倍の発がん性物質
このほかにも、マニキュアや子ども用自転車のサドルなどからも有害物質が検出されたという報告が相次いだ。ソウル市の調査は毎週実施されており、SHEINを含むTemu、Ali Express(アリエクスプレス)と、中国を代表する越境EC3社の衣類や化粧品、食品容器、衛生用品などから、基準を超える有害物質が検出された報告もある。
また、2024年4月には、EUがSHEINを規制対象としたことも報じられており、違法商品対策や利用者保護を求めたのも事実だ。安いなりの品質をSHEINユーザーが受け入れているとしても、仮にそれが健康被害を引き起こす可能性があるとなれば話は変わってくる。
強制労働問題
有害物質問題ひとつだけでもかなり重大な課題だが、SHEINには強制労働問題もある。問題視されているのは、中国北西部の新疆ウイグル自治区にある一部のサプライヤーにおいて、ウイグル族が強制労働させられているという可能性だ。中国当局とウイグル族の間に人権問題があることは知られている。
強制労働が明るみに出たのは、SHEINがアメリカやイギリス・ロンドンでの新規上場(IPO)を狙い、準備を進めたことがきっかけになっている。上場を申請するほど堅調に成長している企業が、その傍らで経済力にものをいわせて強制労働をさせているのだとしたら、そのような企業は上場にふさわしくないと判断されるだろう。
実は、それだけではない。BBC (英国放送協会)によると、2024年8月に発表されたSHEINの持続可能性報告書の中で、同社のサプライチェーンの中に児童労働が2件あったことが明かされたとしている。SHEINは、問題のサプライヤーとの取引を児童労働に対する取り組みを強化するまで停止し、サプライヤーに対する規制を強化したと説明したとのことだ。
しかし、児童労働にしても強制労働にしても、SHEINに対する印象は一朝一夕には良くならない。米英どちらの市場でもSHEINの上場に対する見方は厳しい。ユーザーにとっても、安さを支えているのがそうした労働によるものだと認識した上で、それでもSHEINを利用し続けるかが問われているといえるだろう。
競合Temu社との紛争
SHEINとTemuは、破格の安さという共通項から同列に語られることも少なくない。同じ中国発の企業であることや創業の時期も近いこと、比較的短い期間に大きな成長を遂げていること、ショッピングアプリとして上位を争っていることなど、いくつもの面で競い合うライバル同士だ。
そんな両社は、互いが互いを訴え合っている。2024年8月、SHEINはTemuに対してアメリカの連邦裁判所に知的財産権の侵害で訴状を提出した。SHEINは2022年にもTemuを相手取り、著作権の侵害で同裁判所に提訴。2023年には、SHEINについて虚偽の発言をしたとTemuを訴えた。一方でTemuもSHEINに対し、2023年に独占禁止法違反の疑いで訴訟を起こすなどしている。
2023年10月には、両社が互いの訴えを取り下げたのだが、ここに来て再燃した格好だ。このような法廷での争いは、なにも両社間だけのものではない。SHEINも同じような訴えをほかの会社から受けているのだ。
2021年7月には、H&Mが著作権を侵害されたとして香港でSHEINを提訴 、日本ではユニクロが2024年1月にバッグのデザインを模倣されたとして東京地方裁判所に提訴している。このほかにも、ルイ・ヴィトンやラルフローレン、ステューシー、ドクターマーチンといった企業からも訴えられた。
訴訟には費用がかかる上、仮に判決で賠償金の支払いを命じられれば大きな負担を負うことが予想される。安さを武器にするファストファッションというビジネスで、そのような費用が価格に転化されないことを願うばかりだ。
SHEINが目指すファストファッション
ここまで見てきたように、SHEINには光と影がある。中国ではなく米英で新規上場を狙うほどの企業に成長しながらも、その一方で低価格を維持するための有害物質問題や強制労働問題を抱えているという現状がある。
それでも、従来のアパレルのビジネスモデルからくる廃棄アイテムの多さやそれにかかるコスト、環境への配慮などから確立したSHEINならではのITを駆使したビジネスモデルには、これから先、世界を相手にビジネスを行う企業としてロールモデルになりうる可能性を感じさせるものがあるといえるだろう。
当然ながら、ここまでに取り上げた問題点は解決されなければならない。しかし、その一方で、若者を中心とする世界中のユーザーが手ごろな価格で気兼ねなく楽しめるファストファッションを待っているのも事実だ。若手デザイナーの育成や古着の回収などの活動は、社会的意義を持つ。
ファッションの楽しさや美しさを誰もが楽しめるようにというSHEINの願いは素晴らしいものだといえる。5兆円企業にまで成長した今こそ、成長に伴って生じたほころびを修正し、名実ともにグローバルカンパニーになることを期待したいところだ。
翻って、SHEINでのショッピングを楽しみたいいちユーザーとしては、低価格で提供される多彩なファッションアイテムに感謝しながらも、それを実現するためにSHEINには大きな課題があることも知っておきたいところだ。安いからとつい飛びついてしまいがちだが、自分の中でSHEINとの関わり合い方を決めた上で、上手に利用するようにしよう。
※文中に出てくる数値は、2024年11月時点のもの