難しいことをするのは売れてからで良い まずは継続の癖付けから
──オオスミさん、1年以上にわたる「オンラインショップを伸ばす魔法の法則100選」の連載お疲れさまでした。まずは、連載を終えた率直な感想をお聞かせください。
オオスミ 「100選」といいつつ最終的に「120選」になりましたが、連載開始前から薄々そんな予感はしていたのが正直なところです。いつ読んでも違和感がないよう、トレンドすぎる内容はできるだけ削ぎ落として本質的なところを項目化したつもりですが、やはりEC担当者はやるべきこと、押さえるべき要素が多すぎるなと痛感しました。
森野 オンラインショップ運営者のやることは、年々増えていますよね。この連載を通じて、改めてそれを感じました。
──森野さんは、2024年夏まで他媒体で執筆されていた「ネットショップ担当者が知っておくべきニュースのまとめ」でよく本連載を取り上げてくれていたのが印象的でした。何か目を留めるようなポイントがあったのでしょうか?
森野 小さいオンラインショップはお客さんもいない、商品も知られていないところから売り始めなければなりませんが、そのスタート地点から解説しているノウハウ記事は意外とこの世にないんだよなと思っていたんです。
こうしたショップは、一人もしくは少人数で商品開発から売り場作り、販促まですべて行わなければならないにも関わらず、どこから始めたら良いのか教えてくれるぴったりな教科書がほぼなく、右往左往してしまうケースが多いんですよね。私が書籍『「未経験・低予算・独学」でホームページリニューアルから始める小さい会社のウェブマーケティング必勝法』を執筆したのもそういう課題感からだったのですが、この連載はそういった原点から触れられている点が印象的でした。
オオスミ 相談に乗っていると、皆さんいきなり知らない人に売ろうとするんですよね。「それは無理だよ」とお伝えするんですが。
森野 わかります。「知名度もなく、誰が売っているのかもわからない商品をあなたはオンラインでいきなり買いますか?」と聞くと「買わないですね」と理解していただけるのですが、なぜか「知り合いに使ってもらう・買ってもらう」「SNSを頑張って知ってもらう」みたいなステップを飛ばしてしまうんですよね。そういった意味で、この連載は第1回で知ってもらう、見つけてもらうための工夫に言及されていたので、自分の考えにズレがないこともわかり安心しました。
──ちなみに、オンラインショップ立ち上げ初期フェーズの方々は、オオスミさんや森野さんのもとにどのような相談を寄せることが多いのでしょうか?
オオスミ これからオンラインショップを立ち上げる方、立ち上げたけれどうまくいかない方など、様々なケースがありますが「これぐらい頑張ったら成功すると思っていたのですが……」といって挙げてもらったアクションが、私たちから見れば「それはスタート地点に立ったところだよ」「準備運動の段階だよ」といったことは往々にしてあります。
オンラインショップの運営は「続けること」が大事なので、スポーツと同じで基本の型を覚え、それを身体に馴染ませる「習慣化」が必要です。そこをすっ飛ばして、いきなり技を覚えようとするから疲れたり挫折したりするのだろうなと感じています。なので、最近はマインドセットから教えるように心がけています。
森野 型がわからないままサイト構築を行ったせいで、不必要な機能まで搭載してお金がかかる仕組みになっているケースもよく目にします。「オンラインショップをオープンする」がゴールになってしまっているパターンですね。「それでどうやって続けるんですか?」と問題提起することも多々あります。
オオスミ 難しいことをするのは、売れてからでも良いんですよね。私もよく「まずは成功体験を作りましょう」と伝えています。
──ここでいう「難しいこと」とは、どのようなことを指すのでしょうか?
森野 たとえば「憧れのブランドやインフルエンサーとコラボして盛り上げたい」とか……。
オオスミ ありますね! あとは「今は30代女性向けのブランドだけど、オンラインではZ世代にも売りたい」とか。第4回で「新しい顧客はマーケットに隠れていない。『既存客の隣』にいるもの」とお伝えしているのですが、むやみな顧客層拡大は既存顧客の離反にもつながります。打ち出すメッセージが全然違うので、当然ですよね。こうした理想と現実の差を埋める作業も、運用初期や迷いのフェーズではあるあるだなと思います。