配送に不安を感じた顧客の45%が離脱 見落としがちな購入後のコミュニケーション
2012年にアメリカで創業したNarvarは、商品の受け取りや返品・交換などといった、顧客の「購入後体験(ポストパーチェス)」に特化したECソリューションを提供している。2021年に、Narvar Japanとして日本進出を果たした。白石氏は「購入後体験の最適化は、ロイヤリティ向上に欠かせない」と強調し、同社のソリューションの特徴についてこう説明する。
「当社は、主に『お届け予定日』『配送追跡・通知』『返品・交換』の3機能を提供しています。これらにより、顧客とのコミュニケーションに活用できる配送追跡ページの作成、タイミングやオペレーションをカスタマイズできる返品・交換サービスの実現が可能です。2024年8月時点で、世界で1,400を超える企業に導入されています」
商品を購入する一歩手前の顧客に対して、広告やSNS上で情報を配信し、アプローチを図る企業は少なくない。こうした施策は、目先の売上創出には有効だが、白石氏は「購入後体験の向上が後回しとなっている。購入前後で体験が分断されると、新規顧客が定着しない」と指摘。それを裏付ける同社の独自調査の結果を共有した。
「配送に不安を抱く顧客のうち、45%はそのECサイトから商品を購入しないとわかっています。『いつまでに届いてほしい』と希望している顧客は、商品の配送予定日が明確でないと不安を感じるのです」
その証拠に、70%の顧客が商品の配送通知メールを開封しているという。白石氏は「商材によって、開封率が80~90%にのぼるケースもある」と補足する。
「同様に、配送会社の追跡ページリンクや配送完了メールも開封率が高いです。購入直後は、顧客が商品の到着をワクワクしながら待っています。期待値が高まっているタイミングで、アプローチしない手はありません」
加えて、同調査では返品時に不便さを感じた顧客の33%が、リピート購入しないと判明した。反対に、容易に送り返せるなど返品対応がスムーズだった場合、90%の顧客が「同じECサイトで買い物したい」と回答している。
「元々、返品はネガティブな体験です。その上で嫌な思いをすると、顧客は2度と戻ってこないでしょう。返品対応一つとっても、提供する体験によってその後のロイヤリティが大きく異なります」
三越伊勢丹が実践 追跡ページから別商品の購入を促す方法
では、どうすれば購入後体験を向上し、顧客の定着につなげられるのか。白石氏は、二つの事例をもとに具体的な施策を解説した。
一つ目が、株式会社三越伊勢丹だ。同社はNarvarのソリューションのうち、「Narvar Track(追跡ページ)」を導入している。これにより、配送状況のわかりやすさの追求に加えて、別商品の購入促進やLTV向上に向けた施策を実行しているという。
三越伊勢丹のECサイトは、Narvarのソリューションを導入する以前、購入画面内から配送状況を確認すると配送会社が提供する追跡ページに遷移する仕様だったが、現在は独自の追跡ページが設けられている。白石氏は「三越伊勢丹の世界観が表現されたデザインにできるのも、メリットの一つ」と語る。
同事例におけるポイントが、配送状況を確認するため追跡ページを閲覧した顧客に、新たな商品との出会いを提供できる点だ。三越伊勢丹では、追跡ページの上部に最新のセール情報を表示しているほか、ライブコマースのような動画コンテンツも掲載。また、「晴雨兼用傘」など季節に合わせたおすすめ商品への導線も設け、新たな商品への興味を引き出すなど、売上増につながる工夫を施している。
その結果、三越伊勢丹では追跡ページ経由で商品詳細ページを訪問する顧客の数が、自然流入の約2倍となった。同様に、購入頻度と購入単価もそれぞれ1.2倍に増えている。
従来、配送会社の追跡ページ以降は、顧客のトラフィックを取得・分析するのが困難だったが、自社で追跡ページを用意すれば顧客行動の分析が可能となる。これにより、購入後の関心を踏まえたコンテンツの出し分けやレコメンドなど、マーケティング施策を深められるのは大きな利点だといえよう。
「三越伊勢丹は、自社のお客様に買い物を楽しんでもらうため、実店舗において『予期せぬ出会いの提供』を非常に重視しているそうです。たとえば、実店舗の5階にあるアパレルブランドで商品を購入した後、1階の入り口まで移動する最中に、様々なブランドが目に留まりませんか。ときには、元々買うつもりがなかった商品を購入する場合もあるでしょう。当社は、こうした実店舗と同じような体験を、オンライン上でも提供できるよう支援しています」
返品が増えても利益は上がる アシックスジャパンの会員特典
もう一つの事例として白石氏が紹介したのが、「Narvar Return(返品)」を導入しているアシックスジャパン株式会社だ。
経営目標の一つに会員プログラム「OneASICS」の登録者数増加を挙げている同社は、同会員プログラムの特典として「30日間返品可能」かつ「返品送料無料」のサービスを提供している。購入した靴が実際に自分のサイズに合うのか、フィット感はどうかなどを顧客が気軽に試せる仕組みだ。白石氏は「同社の返品対応はシンプルでわかりやすい」と説明する。
「注文画面から『返品する』ボタンを選択すると、返品可能な商品のみがカラーで表示されます。抽選の商品など、返品不可のものはグレーアウトされるため、手元にある商品の返品可否が一目瞭然です。顧客は返品したい商品を選んで、返品理由や返送方法を回答するだけで、申請が完了します」
同サービスを使った返品は、二次元コードを利用するため、手書きの配送伝票が不要となっている。また、配送会社への持ち込み以外に、コンビニエンスストアなどに設置されている商品発送ボックス「Smari」など様々な返送方法を用意し、返品のハードルを下げている点も特徴だ
「従来の返品は、わざわざ専用フォームに情報を記入するか、場合によっては平日の営業時間中にカスタマーサービスに電話して、企業側に返品の可否を問い合わせる必要がありました。当社のソリューションを活用すれば、24時間365日、顧客が都合の良いタイミングで返品を申請でき、3~4クリックで受付が完了します」
加えて、白石氏は「顧客体験の向上のみならず、返品対応にかかる人件費の削減にも寄与する」と続ける。
「アシックスジャパンでは、返品機能の導入前、返品数の増加による赤字を懸念していましたが、導入テストを重ねた結果、売上が伸びているとわかりました。その上、対応に必要なコストが下がり、当初の想定より利益が上がっています」
二つの事例で紹介された施策のほかにも、Narvarのソリューションは自社に合った活用ができる。たとえば、配送予定日を明確に提示できない場合は「3~5日の間にお届け」と幅をもたせた表示が可能だ。配送予定日の表示方法によって、売上にどの程度の影響が出るのかA/Bテストをするのも一つの手だろう。白石氏はセッションの最後に、こうした購入後体験の改善を検討している企業に向けて次のようなメッセージを送った。
「当社のソリューションでは、閲覧している顧客の属性に合わせた追跡ページのコンテンツの出し分け、レコメンドもできます。加えて、返品対応時に顧客が購入した商品の色違いやサイズ違いを提案するなど、次のアクションにまでつなげられるのが大きな強みです。日本でサービスの提供を開始して約2年ですが、既に65以上の国内ブランドで導入が進んでいます。ソリューションの内容をより詳しく知りたい方は、ぜひ当社にお声掛けください」