実店舗に学ぶ ECが「出前」=指名買いを超えるには
このような公式は、今さら説明しても釈迦に説法ですので割愛します。しかし、この基本の上に、努力と向上の余地はあるのです。お気づきのとおり、本コラムでは、「接客」「転換(コンバージョン)率」の項目が中心になります。そして、そこには長年、「実店舗の背中を追ってきたEC」という面があります。改めて、実店舗をネタに考えてみましょう。
飲食店の提供方法は、その場に着席して食事をする形態と、自宅などにデリバリーしてもらう形態があります。後者は、実は注文手段が(電話からインターネットに)変わっただけで、ECの原型であるといっても過言ではありません。
店内も配達も同じ人が営んでいるビジネスの「業態」が違うだけです。ただ、その違いは大きな違いです。同じ人が担っているにもかかわらず、全く違う接客をするからです。
レストランに来るお客様の多くは和洋中のような、かなり曖昧なものを目的にお店を選びます。「海老と彩り野菜のペペロンチーノ ガーリックのうまみ仕立て」と決めてイタリアンに来店する人はほとんどいません。少なからず「迷い」があるわけです。
接客としては、今日のオススメ黒板を持ってきたり、お客様の「さっぱりしたものがいい」といった「ぼんやり」リクエストに答えて、「コンバージョン」を促す場面が普通にあります。もちろん、お飲み物も伺うでしょう。この「普通」が、実店舗に比べたECの分の悪さです。
一方の出前は、明確な「目的買い」です。「担担麺と炒飯と餃子二人前」に、付け入る隙はありません。ビールも配達しません。ECの原始型だけあって、アップセルやクロスセルができません。その裏には、調理や配膳といった、リアルタイムでこなさなければいけない仕事が山積している事情がありますから。逆に、電話口で「ちょっと待って。考えるから」と言われたら、穏便な人でも受話器を叩きつけたくなります。残念ながら、十分な接客、転じて客単価を上げることも優先できません。
CVR(ニアイコール)100%の飲食店でさえ、十分な接客が望ましいことは言うまでもありません。実は、ジョッキやお皿の空こうとしている時が「もう1つの来店」です。着席後時間を経過して現れる「もう1つの来店」でのCVRは来店直後のそれより確実に低下しますが、気にしません。なぜなら、1日の客単価とLTVで実りがあるからです。ECは「出前」=目的買いを超えられるでしょうか。
可能です。そこをどう超えていくかは、接客、調理、配膳・配達の何か、あるいはすべてを充実するほかありません。充実は「人手」で解決できます。「人手」は雇用だけでなく、アウトソーシング(外部委託)や「仮想人手」(システム)に担わせることもできます。