商品のシール貼りだけで2日作業
「マンションの1室で起きた悲劇の事件から2年...出荷オペレーションを自動化するまでの物語」がテーマのセッションに、株式会社SEAM 代表取締役 CEO 石根友里恵氏、株式会社ロジレスCo-Founder/代表取締役CEO 足立直之氏が登壇。低アルコールクラフトカクテル「koyoi」などを販売するSEAMの石根氏が実際に体験した、物流の失敗談が赤裸々に語られた。
SEAMは元々、和風のピクルスを販売する「和もん」から食品D2C事業をスタートした。当初、商品を製造している工場がある静岡県でマンションの1室を借り、パートを雇って配送作業を行っていた。
石根氏は、「サイト作りや営業活動で頭がいっぱいで、さらに注文数も読めず、物流環境の構築にまで手が回っていなかった」と振り返った。実際に、和もんの注文数が大きく伸びたとき、5日連続で夜通し配送作業を行った経験があるという。
「商品のシール貼りから作業を始めたのですが、1日くらいで終わるだろうと思っていました。しかし、シール貼りだけで2日かかったのです。そこからお客様ごとに商品を梱包するのに、さらに3日かかりましたね。夜はパートの方がいないため、1人で作業を行っていました」(石根氏)
注文数が増えた要因はクラウドファンディングを行ったこと。何件発送しなければならないのかは見えていたが、「自分の手で1日に何件の発送ができるのかがわからなかった」と石根氏は話す。
「注文数だけではなく、配送にかかる想定時間まで読むことを学びました」(石根氏)
「注文はデジタル上で行われるので無限に受けられますが、物流は人の手で行う作業が多いためリソースが有限です。eコマースだと配送に関するレビューも多いので、しっかり体制を整えていないと配送が遅れて顧客満足度が下がってしまいます」(足立氏)
このタイミングで石根氏は、EC自動出荷システム「LOGILESS(ロジレス)」を導入。手作業ではなく、システム上で在庫管理するなど、自動化を進めていった。
予想を50倍上回る注文に配送が追い付かない
当初は自ら伝票を打ち込むなど手動で配送作業を行っていた石根氏だったが、自動化によって配送ミスも減少した。しかし、さらに体制を見直すタイミングが訪れる。
2022年11月に、石根氏とSEAMのブランドであるkoyoiは、全国放送のドキュメンタリー番組に取り上げられた。そこに、クリスマスシーズンというタイミングが重なり、koyoiの注文が殺到。石根氏の予想の50倍もの注文が入り、配送が追い付かなくなったという。
「お客様から『商品が届いていない』と問い合わせをもらい倉庫に確認すると、大量の配送作業に追われている状態でした。倉庫側と相談してリソースを追加し、なんとかクリスマスの数日前にはすべての商品を配送しました。問い合わせをいただいたお客様には、1人ひとりに返信して事情を説明したことで、キャンセルはほとんどありませんでした」(石根氏)
以来、石根氏は新商品を発売する度に倉庫の担当者と密にミーティングし、注文が大量に入った場合の対応方法などを決めている。
「eコマースは、注文数が急に増える波を何度か経験しながら売上が伸びていく傾向があります。倉庫と相談して、どこまで無理のない範囲で作業を依頼するかを事前に決めておいたほうが良いです」(足立氏)
「当社の場合、倉庫の担当者とは毎日メッセージや電話をしてコミュニケーションをとっています。そして月に1回、棚卸と今月の振り返り、来月はどう改善するかを必ず話し合い、PDCAを回しています」(石根氏)
商品開発やPR活動に注力し、物流がおろそかになってしまうケースは少なくない。足立氏は「倉庫との関係はないがしろにされがちだが、担当者に電話したらすぐに相談できる関係性を作るべき」と強調する。
石根氏の経験した失敗は、どんなEC事業者にも起こり得ることだ。この機会に、自社の物流環境を見直してみてはどうだろうか。