DX施策は一般的に大規模な取り組みであることが多く、中小企業ではまねしづらいものも含まれています。とはいえ、DXは必ずしもそのような施策だけを指すものではなく、堅実なデジタル活用を進め成果を挙げることも可能です。
この記事ではその一例として、自社ECで堅実なデジタル施策を続けるMARK STYER株式会社の取り組みについて解説します。
MARK STYLER株式会社の企業情報・事業内容の概要
まずは、MARK STYLER株式会社の基本的な企業情報について、目を通しておきましょう。
MARK STYLER株式会社の企業情報
以下は、MARK STYLER株式会社の基本情報を簡単にまとめたものです。
社名 | MARK STYLER株式会社 |
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本社所在地 | 東京都渋谷区広尾5-8-14 |
設立年月 | 2005年11月 |
代表者名 | 代表取締役社長 秋山正則 |
株式公開 | 未上場 |
資本金 | 1億円 |
おもなグループ会社 | 摩酷时装(上海)有限公司 |
MARK STYLER株式会社の事業内容
MARK STYLER株式会社は、おもにオリジナルブランドの婦人服や服飾雑貨の企画開発、および販売を手がけているアパレル企業です。直営店での販売だけでなく、フランチャイズショップやセレクトショップにも卸売を行っており、日本全国で同社の商品が販売されています。
また、実店舗販売のみならず自社ECサイトの「RUNWAY channel」や、他社ECサイトでの販売なども実施しており、オンラインでの取り扱いにも注力している企業です。
MARK STYLER株式会社が抱えるおもなブランド
MARK STYLER株式会社はレディース向けのブランドに特化していますが、多様なブランドを同時に展開・運営している点が最大の特徴といえるでしょう。
都会的な女性らしさを追求する「MERCURYDUO (マーキュリーデュオ)」や、個性と刺激を日常に与える「Ungrid (アングリッド)」、モードでありながらどこか親しみのある「EMODA(エモダ)」など、ブランドごとの差別化が丁寧に行われています。
現在はおよそ15のファッションブランドを取り扱っており、自社ECサイトや直営店、全国のセレクトショップで販売されています。
MARK STYLER株式会社が実践するデジタル施策について
DXの必要性はアパレル業界でも注目され始めていますが、必ずしも大規模な取り組みである必要はありません。資本金が1億円を超え、多くのブランドを扱うMARK STYLER株式会社でも、大がかりなものではなく、確実に成果が得られる業務のデジタル化を推進しています。
新規会員登録率を改善したUX向上施策
MARK STYLER株式会社は2015年頃より、新規会員登録率の改善を目的とし、物流機能の強化を進めてきました。2010年代後半からアパレルECは本格的にトレンドとなりつつあり、同時期に同社では、店舗向けの商品配送とEC向けの商品配送を別個に扱い、EC物流に特化した専門部署を開設しました。
また、当初は外部のシステム会社と連携してEC業務を進めていましたが、現在は完全に自社で内製化し、システムの改善や維持管理能力の向上、コスト削減に努めています。
UX改善の施策として特に効果的だったのが、Amazonが提供する決済システム「Amazon Pay」の導入です。これまで同社で取り組んできた新規会員獲得施策は、広告を使った潜在顧客へのアプローチでした。
そのうえで、ECサイトそのものの使い勝手を向上させ、消費者にとってなじみ深いブランドの決済サービスを採用することにより、購入を促そうという狙いです。
Amazonブランドの決済サービスを自社ECに導入することについては社内から反対の声があったものの、2020年に導入を決め、結果としては成功を収めました。
Amazon Payの最大のメリットは、Amazonアカウントがあれば会員でなくとも数クリックで購入を完了できる点です。Amazonアカウントの住所や決済情報をそのまま使うことができるので、新たに会員登録手続きを行なったり、決済情報を入力したりする必要がありません。
アパレルEC事業者は長年カゴ落ちの問題に悩まされてきましたが、その一因として、情報入力が面倒で潜在顧客が離脱してしまう背景がありました。 Amazon Payはこのような事態を回避するうえで非常に大きな役割を果たしているのです。
Amazon Pay導入後の2020年繁忙期には、同社主要サイトの新規会員登録率が、前年同月比で約20%増加したほか、収入の安定している世代のクレジットカード所有者の利用も増加するなど、客単価そのものの改善も進んでいるとのです。
返品率低減と満足度向上をかなえた後払い決済システムの導入
MARK STYLER株式会社が決済分野で実現したもう一つの改善策が、後払い決済システムの導入です。同社ではAmazon Payとは別に、ヤマト運輸が提供する後払い決済システムを実装し、顧客からの要望であった決済手段の拡充に応えました。
自社の複数ECサイトにてこのサービスを導入した結果、ブランドごとの差はあるものの、平均で売上の15〜20%が後払い決済で行われるようになりました。売上面でも、後払い決済導入前と比較すると5%ほど伸びており、顧客ニーズに応えることの重要性だけでなく、決済方法の拡充が売上の改善にも役立つということを体現した事例といえるでしょう。
また、後払い決済導入は顧客の短期的な決済負担軽減にもつながり、予約商品受取拒否などの返品率低減も実現しました。さらに、携帯キャリア決済をヤマト運輸のサービスに統合させ、売上管理や経理業務などの効率化にも成功しました。
MARK STYLER株式会社の最近の動き
続いて、MARK STYLER株式会社の気になる動向について、ピックアップしながら解説します。
中国大手ECサイト 「天猫(Tmall)」に出店
MARK STYLER株式会社は2016年より、中国最大級の大手ECサイト「天猫(Tmall)」に出店を開始しています。アリババグループが運営する同サイトが現地に与える影響は大きく、中国全土を対象とした商品展開が事実上進むこととなりました。
Tmallはアリババが運営していることもあり中国での信頼性が高いため、MARK STYLER株式会社が積み上げてきたブランド力や信頼を失う心配はないでしょう。また、Tmallで獲得した顧客が日本の店舗に来店することを踏まえた、潜在的なインバウンド需要の創出にも貢献する狙いがあります。
Web動画広告運用でRUNWAY channelが実践した工夫
MARK STYLER株式会社が運営する総合ECサイトのRUNWAY channelでは、2017年に設立5周年を記念した大規模なキャンペーンを実施しました。その際に用いられたのが、Web動画広告です。
同キャンペーンのターゲットである20代前半の女性にとって、最も影響力が高いと考えられたのが動画広告で、注目度の高い媒体を早い段階から運用していました。
動画広告の運用にあたっては、まずRUNWAY channelそのものの認知拡大を目指したコンテンツ制作を通じてブランド認知を高め、ユーザーに魅力的な商品を見つけてもらい、購入へつなげるという動線です。
トレンドワードを取り入れた動画広告は好評を博し、サイトやサービスへの関心を高める効果を得られました。また、新規顧客数は従来比約1.2倍に増加し、売上も15%程度増加したとのことです。
MARK STYLER株式会社の気になるトピックス
そのほか、MARK STYLER株式会社の気になるトピックスを以下にまとめています。
2017年12月8日:「店舗で試着してネットで買う」に対応、初の体験型セレクトショップ出店
マークスタイラー(MARK STYLER)が12月14日、公式ウェブストア「RUNWAY channel」と連動したショールーミングストア「ランウェイチャンネルラボ シブヤ(RUNWAY channel Lab. SHIBUYA)」を渋谷にプレオープンする。
2018年9月20日:スタートトゥデイグループのBtoB事業会社「アラタナ」と戦略的パートナーシップを締結
スタートトゥデイグループで、BtoB事業(アパレルブランドのECチャネル支援)を行う株式会社アラタナは、ファッション通販サイト「RUNWAY channel」を運営するMARK STYLER株式会社と戦略的パートナーシップを組むことを合意した。
2021年4月30日:藤田ニコルの新ブランド「カルナムール」を独占で販売
藤田ニコルがディレクションする新ブランド「カルナムール(CALNAMUR)」が、2021年秋冬シーズンにデビューする。「アンスリード(UN3D.)」などを手掛けるアパレル企業マークスタイラー(MARK STYLER)が独占で販売。
2023年4月1日:「見て・触れて・楽しめる!」 新感覚WEBマガジン『bliss mag.by EATME』を展開
MARK STYLER株式会社(代表取締役社長:秋山 正則、本社:東京都渋谷区)が運営するファッションブランド「EATME」は「見て・触れて・楽しめる!」 新感覚WEBマガジン『bliss mag.by EATME』 Vol.8 Part3~6に、NMB48の山本望叶さんと新澤菜央さんを起用し、2023年4月1日(土)に全編を公開します。このWEBマガジンは公式通販サイト「RUNWAY channel」でご覧いただけます。
まとめ
この記事では、MARK STYLER株式会社が自社ECサイトの改善において、どのような施策に取り組んだのかを解説しました。
同社では、おもに決済関連の改善を進め、顧客のニーズに合わせて利便性を向上させることで売上を伸ばしています。また、新規顧客の獲得においては動画広告を効果的に運用し、会員数増加や売上の増加を実現しました。
いずれの施策も一度は聞いたことがある、スタンダードな手法ではあるものの、正しく運用すれば、確かな成果が得られるローリスクハイリターンな取り組みといえるでしょう。