アパレル業界10のビジネスモデルを深掘り
今回は、読者へお勧めの書籍として、『図解 アパレルゲームチェンジャー 流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル』(齊藤孝浩 著、日本経済新聞出版)を紹介したい。著者である齊藤氏は、大手総合商社のアパレル部でアパレル海外生産管理業務を担当。その後、カジュアルアパレルチェーンに勤務し、バイヤーや取締役を務めた経験を持つ。現在は、ファッション流通コンサルタントとして活躍する人物だ。
本書の特徴は、なんといっても各ブランド・企業のビジネスモデルを、「PL(損益計算書)」と「BS(貸借対照表)」から探っている点。斎藤氏は、本書内でこう語っている。
無理をせず、頑張り過ぎず、独自の資産を活用した「しくみ」で儲けることを考えている企業がある。言い換えれば、PLではなく貸借対照表(BS)で考えている点が、勝ち続けている流通業に共通している(P.4)
PLとBSを見れば他社との違いがわかる
たとえば、「ZARA」を展開するインディテックス。同社は2022年度に、過去最高益を更新している。その成長要因として考えられるのが、「値下げリスク」と「売れ残りリスク」の回避だ。
大量生産・大量廃棄は、アパレル業界の大きな課題といえるだろう。ZARAでは、「見込み生産」ではなく、「需要連動生産」を重視。まずは、販売約3週間分の在庫を確保し、販売開始後、顧客の反応によって商品を作り足しているのだという。
商品は、人件費の安いアジア諸国ではなく、多少原価が高くなっても本社のあるスペインの近隣国で、小ロットで生産。生産リードタイムの短縮にも工夫が見られる。
同社の2022年2月期のPLを見てみると、粗利率57.1%・営業利益率15.4%。斎藤氏は本書で、同社の粗利率が高い理由は商品を安く調達しているからではなく、値下げを抑えることで実現したものとしている(P.22)。
さらに斎藤氏は、同社とファーストリテイリングのBSを比較。インディテックスの有形固定資産の割合が高いことに言及している。これは同社が、内製化したサプライチェーン施設にも投資していることを示している。
PLはもちろんのこと、BSにはその企業の戦い方が表れる。今後、企業研究の一つとして参考にしてみてはいかがだろうか。
他にも本書では、「SHEIN」や「ZOZO」、「メルカリ」などのビジネスモデルを、PLとBSの両面から斎藤氏が考察する。各ブランド・企業のチャプターは、それぞれ30ページほど。移動時間など、隙間時間のインプットにもお勧めだ。