女性をメインターゲットに定期便を届けてきた株式会社フェリシモは、ECへのデジタルシフトはもちろんのこと、独自の企業戦略によって、他社にはないユニークな強みを獲得しています。市場に極端に迎合することなく、顧客と価値の創出を実現した背景には、どのような取り組みがあるのでしょうか。
この記事では、株式会社フェリシモが取り組む企業文化の醸成や、独自のマーケティング戦略、デジタル施策について解説します。
株式会社フェリシモの企業情報・事業内容の概要
まずは、株式会社フェリシモの基本的な事業内容について確認しましょう。
株式会社フェリシモの企業情報
以下の表は、株式会社フェリシモの企業情報をまとめたものです。
社名 | 株式会社フェリシモ |
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本社所在地 | 兵庫県神戸市中央区新港町7番1号 |
設立年月 | 1965年5月 |
代表者名 | 代表取締役社長 矢崎和彦 |
株式公開 | 東証スタンダード市場上場 |
資本金 | 18億6,800万円 |
おもなグループ会社 |
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株式会社フェリシモの事業内容
株式会社フェリシモのおもな事業は、月に1回オリジナル商品などを顧客に届ける、定期便事業です。提供する商品は、フェリシモが独自に企画したファッション製品やレッスンキットなど、多岐にわたります。
また、定期便事業以外に同社は新規事業開発にも取り組んでいます。「ともにしあわせになるしあわせ」に共感するビジネスパートナーが商品を出品・出稿できるプラットフォーム事業や、ECや物流をサポートする事業がその例です。
近年は海外向け販売にも注力しており、ビジネスの多様化が進んでいます。
株式会社フェリシモの沿革
以下の表は、株式会社フェリシモの沿革をまとめたものです。
年月 | 沿革 |
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1965年5月 | 株式会社フェリシモの前身である株式会社ハイセンス設立 |
1978年3月 | 『HI-SENSE COLLECTION』(3号より『はいせんす絵本』に改称)カタログ創刊 |
1989年12月 | 商号を株式会社フェリシモに変更 |
1997年7月 | インターネットサービス開始 |
2007年2月 | 東京証券取引所市場第一部に指定 |
2010年 | 部活制度を開始 |
2021年1月 | 神戸市中央区新港町にStageFelissimoを建築し、本社移転 |
株式会社フェリシモの前身である株式会社ハイセンスは1965年に創業しました。1978年に創刊したカタログで大きな成功を収め、本格的にカタログビジネスを進めていきます。1997年には通信販売の新しい形としても注目されたインターネットにも参入し、先進的なビジネスを展開していきました。
2010年には、週に半日だけ社員が自分の好きなテーマの仕事に取り組む「部活」制度を開始し、同社の強力なキャラクターの創出による差別化を進めてきました。
さらに2021年には、神戸に新社屋を建築して本社を移転させるなど、令和の時代にも通用する企業としてさらなる成長が期待されます。
株式会社フェリシモの成長を支えてきた文化と独自戦略
インターネットの普及により、一時は通販事業者が窮地に立たされることもありましたが、株式会社フェリシモは独自の文化的戦略で強力な個性を発揮しています。
独創を育むフェリシモの企業文化
株式会社フェリシモを象徴する企業文化ともいえるのが、市場調査はせず一人ひとりの情熱を起点にする「パッション・ドリブン」です。前出の部活制度のように、社内に「猫部」や「おてらぶ」など、社員個人の趣味を全面に押し出す活動を推進し、クリエイティブなアイデアの創出に努めています。
部活動では社員個人の「好き」やニーズにスポットを当て「こんな商品があればいいのに」という思いを商品企画に落とし込んでいる点が特徴です。
たとえば猫好きが集まる「猫部」では、部活動を通じて生まれた猫好き向けのグッズを展開しました。そのほか、お寺好きが集う「おてらぶ」では、お寺の取り組みをサポートしたり、お寺文化の良さを伝えるグッズを開発・販売したりしています。
事業として本格的な活動に発展させることで、社会貢献やクリエイティブな商品企画のような大きな目標の達成につなげているのが特徴です。
フェリシモが採用する「クラスター&トライブ戦略」
さらにフェリシモ株式会社では、マーケティング施策の一環として「クラスター&トライブ戦略」を採用しています。この戦略は、同社の掲げる「ともにしあわせになるしあわせ」というコアバリューに基づき、ニッチながらも確実に存在するファンのニーズに応え、商品やサービスを提供する戦略です。
同社ではニッチなニーズを確実に拾い上げるために、高度なパーソナライズ施策を採用しています。購買データや行動データ、嗜好データを収集し、AIやRPAを使って分析することで、客観性と信憑性のある分析結果を導き出し、共感が得られる商品開発へと落とし込む仕組みです。
このように、社員のクリエイティビティとデータサイエンスをフル活用し、顧客のニーズへ感覚的・客観的に訴求できる点は、同社の最大の強みといえるでしょう。マーケターの負担を解消できるのはもちろんですが、業務のデジタル化により属人化が解消されるため、安定した事業継続が期待できる点も注目です。
株式会社フェリシモの近年の動向
続いて、株式会社フェリシモの近年の動向について、確認しておきましょう。同社ではEC関連のデジタルシフトが速やかに進んでおり、すでに成果が表れているケースも存在します。
EC業務を自動化して3000時間の工数削減を実現、フェリシモが導入したRPAの効果
株式会社フェリシモでは、RPA(ロボットによる業務自動化)を推進したことで、EC業務の大幅な効率化に成功しています。
ECサイトにおける在庫管理やカタログの印刷原稿チェックなど、時間のかかる業務を一斉に自動化することで、年間約3,000時間の工数削減を実現しました。AIを使って高度な業務も無人で行えるようになったことで、正確かつスピーディに情報収集や受注予測を行い、発注ロス率の削減も進んでいます。
ECサイトのデータ連携ならびにデータ管理効率化に向けたツールを導入
株式会社フェリシモは、システム導入において積極的に柔軟性が高く効率的な外部ツールの活用を推進しています。
従来のシステム導入においては、自社でゼロからシステムを開発するフルスクラッチが一般的でした。フルスクラッチは専門性の高いカスタマイズが可能な反面、開発時だけでなくシステムの移行や維持管理にも高いコストがかかります。そのうえ、近年の急速な技術革新に対応できないといった問題を抱えがちです。
そこで同社では、ECサイトのデータ連携やデータ管理効率化に向けたツールを自社ではなく他社のツールでまかなうことにより、速やかな最新技術へのキャッチアップを実現しました。
その結果、システム導入に伴う費用負担を大幅に削減し、今後のアップグレードにも対応しやすい環境を整備できたとのです。
サブスクリプション支援事業「EIZOKU」をスタート
株式会社フェリシモは、同社が50年以上培ってきた定期販売のノウハウを活かした、サブスクリプション支援事業「EIZOKU」をスタートしています。
EIZOKUは、サブスクリプション型ダイレクトマーケティング事業に関するコンサルテーション、およびオペレーションを支援する事業です。顧客との「継続的関係性」を重視したマーケティング活動の知見を活かし、戦略立案やシステム開発、物流機能などに関する発展をサポートします。
株式会社フェリシモの気になるトピックス
そのほか、株式会社フェリシモの近年の活動をまとめて紹介します。
2023年3月29日:フェリシモ、ウェブサイトをリニューアル バーコード決済対応、定期便申込締切日の確認を容易に
フェリシモは、フェリシモウェブサイトのリニューアルを実施。定期便ショッピングバッグ、お届け状況、定期便の申込状況確認や、色・柄違いのアイテム表示、入荷・再販お知らせ設定、スマートフォンアプリを使ったバーコード決済を可能にするなど利便性向上を実現する機能が新たに実装されている。
2022年12月23日:神戸港を臨む新しいスタイルのレストラン「Sincro」が2023年1月18日にオープン。ウェブ予約を12月13日より開始
フェリシモは、「神戸開港150年記念プロジェクト 新港突堤西地区 再開発事業」として建設した「Stage Felissimo[ステージフェリシモ]」内に、新しいスタイルのレストラン「Sincro[シンクロ]」を2023年1月18日にオープン。
2022年12月13日:ユネスコ世界遺産プログラムのパートナーシップに、フェリシモが選出される
フェリシモは世界文化・自然遺産の保護をユネスコとのパートナーシップに合意し、世界遺産条約採択50周年記念「The Next 50」のホームページに、"世界遺産・地域社会・創造性プロジェクト"を支えるパートナーとして掲載されました。
2021年4月8日:フェリシモ期末決算は増収増益、純利益は3.5倍に。生活雑貨が好調(2021)
(株)フェリシモが7日発表した2021年2月期(20年3月~21年2月)連結決算は、売上高が前期比前期比16.3%増の332億6000万円、営業利益が同394.1%増の15億400万円、純利益は同252.0%増の12億8500万円となった。
2021年2月21日:フェリシモ、服・服飾雑貨のリユースプロジェクト「FELICYCLE」スタート リユースと寄付が一体に
フェリシモは、衣服や服飾雑貨のリユースプロジェクト「FELICYCLE(フェリサイクル)」をスタートした。
2021年1月14日:フェリシモ子会社、ツールで在庫を適正化、客単価向上に効果、カテゴリー拡大も視野
フェリシモでは昨年3月、「haco!(ハコ)」事業を子会社であるcd.に事業を承継した。
まとめ
今回は、株式会社フェリシモが実践するビジネスモデルや、同社のクリエイティビティの源泉ともいえる企業文化などについて解説しました。
通販事業の画一化が進み、差別化に苦しむ企業も多いなか、フェリシモでは部活動などを通じてユニークな価値創造を推進したり、データサイエンスの力で有力なマーケティング施策を実行したりして、顧客満足度を高めています。
デジタル技術を導入して業務を効率化することはもちろん、社員の個性が発揮しやすい環境を構築することで、会社にさらなるビジネスチャンスをもたらしていることが、同社の最大の武器といえるでしょう。