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2024年8月27日(火)10:00~19:15

季刊ECzine vol.23特集「Social merges with OMO~垣根なきコマースを実現する発想とテクノロジー~」

自由度と人間らしさがファンを生む データ活用で増やす個の選択肢 業界変革と体験向上を目指すCRISP

 世の中にないものは自社開発で形に。飲食業界のバリューをテクノロジーの力で増幅させる。 ※本記事は、2022年12月25日刊行の『季刊ECzine vol.23』に掲載したものです。

 日本国内に19店舗(2022年10月時点)のカスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を構える株式会社CRISP。同社は、2017年よりモバイルオーダー、完全キャッシュレス店舗の運営を開始するなど、業界内でいち早くテクノロジーを活用した顧客体験の創出に取り組んでいる。挑戦を重ね、現在は従業員体験の向上にも着目する同社がオンラインとオフラインを融合した施策展開に至ったきっかけは、どのようなものだったのだろうか。同社で代表取締役CEOを務める宮野浩史さんに、話を聞いた。

株式会社CRISP 代表取締役CEO 宮野浩史さん

バリューを届けるために摩擦や無駄をなくす

 15歳で渡米し、約8年間カリフォルニアに住んでいた宮野さんは、18歳で天津甘栗の露店販売商として人生初の起業を経験。帰国後はタリーズコーヒージャパン株式会社で飲食店運営の経験を積み、新たにフリホーレス株式会社を設立した。そして、各社での学びとアメリカ在住時に得たアイディアを基に2014年に満を持してオープンしたのが、1号店のCRISP SALAD WORKS 麻布十番店だ。

「僕が在住していた頃のアメリカでは、コーヒー店と同程度の規模でサラダ専門店が存在していました。手軽に野菜を摂取でき、おいしくてお腹も満たされる店舗は日本でも受け入れられるに違いない。これがCRISP SALAD WORKSのアイディアの原点です。

 また、アメリカで甘栗を売っていた経験もヒントになりました。日本や中国では当たり前のように販売されている甘栗も、アメリカ人には『珍しいもの』として受け入れられ、在米の日本人や中国人には『懐かしい味』として親しまれていたのです。売る場所が変わるだけで喜んでもらえる。アメリカでは当たり前のように存在するものを日本に持ち込めば、同じように親しんでもらえるはずだと考えました」

 宮野さんの予想は的中し、1号店はたちまち行列店となった。一見すると幸先のいいスタートに思えるが、宮野さんは当時のことを「あまり嬉しくなかった」と振り返る。需要が高まり、店舗が混雑すると待ち時間が増え、顧客にバリューを提供することがどうしても難しくなってしまう。売上増と顧客体験向上を両立できない飲食店のビジネス構造にもジレンマを感じていたと言う。

「たとえば、大手飲食チェーンが提供する400円の牛丼と近所の個人店が提供する1,000円の牛丼だと、皆さんはどちらに価値を感じるでしょうか。前者が安価なのは、原価を下げるために多くのリソースを投下し、業務効率化を図るなど企業努力の賜物によるものです。しかし、『安かろう悪かろう』ととらえられることも少なくありません。

 商品の品質は同程度のものでも、事業規模が大きくなるにつれ、バリューをお客様に伝えることが難しくなり、良質でないという誤解が生じてしまう。その原因は、フリクション(摩擦)や無駄の多さにあると考えました。これらをテクノロジーの力で解消し、バリューを届けるために店舗運営や接客のリソースを有効活用したい。そう考え、アプリを使ったオーダーの効率化に踏み切りました」

 しかし、当時はまだ飲食業界にDXが浸透しておらず、「情報収集しても日本国内で飲食店向けのテクノロジー支援を手掛ける企業が見つからなかった」と語る宮野さん。そこでエンジニアを採用し、自社開発を決断したそうだ。構想から3年ほどかけて2017年にモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」をリリース。その後、店舗用のキャッシュレスセルフレジ「CRISP KIOSK」も開発した。

「僕らは『モバイルオーダーをやりたい』『キャッシュレス化を推進したい』と手段ありきで動いたのではなく、飲食店として『お客様に喜んでもらいたい』『また来店してほしい』という目的からテクノロジーをどう活用すべきか考えています」

 現在、CRISP APPを用いた注文は全体の約35%、ランチタイムには50%を超えているとのこと。オーダーから受け渡しまでの効率を高めるだけでなく、同アプリからの注文データはきちんと社内に蓄積され、顧客理解や体験向上に向けた検討材料として活用されている。

「今は、世の中においしいものがあふれる時代です。差別化を図るには総合的な体験を高める必要があり、そのためにはお客様を理解しなくてはなりません。飲食店に限らず、アパレルなどでは昔から常連のお客様の情報をノートにまとめるなどして情報共有をしていました。これを効率的に、かつ無駄なく実現すべく僕らはデジタルを使います。接客で急速に距離を縮められるのが苦手なお客様でも、オンライン上であれば教えてくれる可能性もありますから」

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この記事の著者

松岡 亜希(マツオカ アキ)

フリーランスのライター&エディター。出版社勤務を経て独立。雑誌、書籍、Webサイト、企業広報などさまざまな分野で活動中。● http://pubapart.com/

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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