香りに救われた 自身の経験から新規事業展開すべくロート製薬へ
「ロート製薬でフレグランス?」――BÉLAIR LABというブランドを立ち上げ、さまざまな場所で顧客と触れ合うたびにこの言葉をよく耳にすると星さんは語る。「製薬」という単語が社名に出てくることや、私たちの日々の生活で目にする商品の印象が強いため、同社に対して医薬品やアイケア、スキンケア商品を販売する企業であるととらえている人も多いだろう。しかし同社は、実は食事業を展開したり未病の改善に目を向けたりと、人々が「薬に頼らない世界」を目指す企業であり、星さんはその点に共感して新規事業に取り組むべく、2018年に入社したと言う。
「私自身、人生のさまざまなタイミングで『香りに救われたな』と感じており、ポテンシャルがありながらも、日本ではまだあまり活用されていないことを不思議に思っていました。アロマセラピーに興味や関心を持つ方はその効能を理解されているかもしれませんが、生活の中に香りがあることの重要性に気づいていない方、香りを使うことでメンタルヘルスを良い状態に保つことができると理解されていない方には、なかなか発見を与えるきっかけがないのも事実です。そこで嗜好品とは異なる角度からそれらを提案すべく、世界のトップ調香師による専門的な調香と、香りの研究を行うラボとしてBÉLAIR LABを立ち上げました」
星さんは「薬と香りは、古くから同じものとして扱われていた歴史がある」と続ける。ロート製薬創業の地・奈良県にある正倉院には、宝物としてさまざまな薬やそれにまつわる巻物が奉納されており、そのようなルーツを踏まえながら「ロート製薬で香りの研究をするのが最適であり、おもしろいことができるに違いない」と感じたそうだ。
そんな星さんが香りに興味を持ったのは、出身地である福島県・会津地方の山に生える木から精油を作る人たちとの出会いにあったと言う。
「その木は、木であるにもかかわらず花のような良い香りがしたのです。そこから日本のさまざまな土地の木や葉の香りを嗅いでみましたが、日本に多く輸入されている西洋のフレグランスとは異なる『和の香り』とも言えるもので非常に興味を持ちました。最初はこうした精油を使って身近な人にハンドマッサージをするなど、独学でセラピーのようなことをしていたのですが、『新鮮な香りだけど癒やされる』といった声をもらい、日本独自の香りをもっと追求できるのではないかと考えたのです。そこから動き始め、調香師の方と関係構築をしたり、自身が当時電機メーカーに勤めていたこともあり、『香りとデバイスをセットで販売できないか』と考えたりして、事業としてのBÉLAIR LABの構想が膨らんでいきました」