コロナ禍で進む小売のエンタメ化とメディア化
Fireworkは、企業・ブランドのECサイト・ウェブサイトに縦型のショート動画やライブコマースを導入できるSaaS型の動画ソリューションである。アメリカ・サンフランシスコに本社を構えるLoop Now Technologiesが提供するプロダクトで、世界各国のメディアやEC企業の間で活用が進んでいる。日本での本格展開は2021年4月にスタートし、まだ1年足らずだが、NTTドコモや光文社が刊行している女性ファッション誌『CLASSY.』の公式サイトなど、幅広い業種・用途で導入されている。
まず今回のセッションのキーワードとして、逸見氏は動画コマースを軸とした「小売のエンタメ化(Shoppertainment)」と「リテールメディア」を挙げた。アメリカでは、すでにスマホファーストな見せかたができる縦型のショート動画を起点に、購買体験を高めて顧客エンゲージメントやコンバージョンを強化したり、自社ECサイトをメディア化することで広告収益を獲得したりといった、新しい小売の姿が見られ始めている。こうした先進的な事例から日本の小売の今後を予測し、アクションを起こすことは非常に重要だと言える。
具体的な事例の紹介に入る前に、逸見氏と瀧澤氏からアメリカのEC概況が説明された。アメリカの2020年のEC化率は、Insider Intelligenceの調査によると14%となっており、日本の8.08%(経済産業省調べ)と比べると大幅に高い数値を記録している。現在サンフランシスコにいる瀧澤氏は、「コロナ禍でEC化の勢いはさらに加速しており、今後もEC化率・売上は右肩上がりで伸びることが予測される」と語った。
中でも注目すべきは、グロッサリー(食品)カテゴリにおけるEC化率の伸びだ。コロナ禍で「Instacart」などの買い物代行アプリ需要が大幅に伸びたほか、従来は会員向けクーポンの配布が中心となっていたスーパーマーケットチェーンの公式アプリも、メイン機能をECとする方向にシフトしていると言う。
加えてアメリカで急成長しているのが、今回のテーマにも掲げられている「リテールメディア」だ。ECサイトや実店舗など、ものを販売する場が広告出稿の価値を有するメディアとして注目されている状況は、Amazonの広告収益拡大からもうかがえる。これに追随する形で、アメリカ小売大手のWalmartやTargetも広告商品開発を進め、リテールメディア化に取り組んでいると瀧澤氏は説明する。
これを受け、逸見氏は「人口が伸び悩む日本でも、商品売上の拡大以外で収益が見込めるリテールメディア化が重要になってくる」と指摘。成功を左右するポイントとして、「企業だけでなく顧客にとっても価値のあるメディアにしていくこと」を挙げた。
「広告に振り切ってしまうと、顧客は難色を示します。今回のテーマのようにショッピングが『楽しいもの』『エンタメ化したもの』である前提で、そこに広告も存在する。こうした場にしていかなくてはなりません」(逸見氏)
「そこで重要になるのが、これからご紹介する“Shoppertainment(ショッパーテインメント)”というキーワードです」(瀧澤氏)
ショート動画はオンオフの売場をつなぎ、買い物を楽しくする
アメリカの現状を共有したところで、両氏はAlbertsons Companyを例に「小売のエンタメ化」と「リテールメディア」を深く探っていく。同社は「Albertsons」や「Safeway」などのブランドを展開し、全米10位の事業規模を誇る小売企業だ。店舗数は2,289、売上高は7兆8,000億円に上り、アプリ提供やEC展開のほか、サブスクリプションサービスや無人配送などにも着手。デジタル投資を積極的に進めている企業と言える。
同社は小売から「Shoppertainment提供企業」へと進化すべく、自社の価値を整理した。逸見氏は、「Khan Retailing Success Matrix(カーン・リテール・サクセス・マトリクス)」と呼ばれる四象限の図を見せながら、説明を続ける。
「Superior Competitive Advantage(優れた競争優位性)」と「Retail Proposition(小売命題)」の2軸をかけ合わせて生まれた、「Brand(製品ブランド)」「Low Price(低価格)」「Experiential(顧客体験)」「Frictionless(低摩擦)」という4つの項目。施策を整理する上で、今もっとも求められているのは顧客体験だ。Albertsons Companyはこのほかに製品ブランド、低摩擦も重視しており、「これらをすべてカバーできるソリューションとしてFireworkが採択された」と逸見氏は解説する。
AlbertsonsやSafewayのECサイト・アプリでは、商品を使ったレシピ動画を中心とした縦型のショート動画が多数アップロードされている。アプリではフルスクリーンで動画視聴できるのもポイントだ。各動画から該当商品の商品詳細ページに遷移できるほか、動画を見ながらサイトの回遊、商品購入もできるなど、メディアと購買がスムーズに連携した体験を提供している。店頭でも商品ごとに二次元コードを表示し、それを読み込むことで各商品のクッキング動画が閲覧できる体験を提供する予定だ。
「オンラインとオフラインを行き来するひとつのトリガーとして、動画やライブ配信が活用できると考えております」(瀧澤氏)
逸見氏は、「店頭のサイネージと比べても、商品ごとの動画にアクセスできる二次元コードは利便性が高い」と語った上でこう続ける。
「動画はストーリーでイメージができ、実際にその料理を作るかは別としても買い物を楽しいものにしてくれます。商品情報を伝えるところから体験にシフトする要素として役立てることができるでしょう」(逸見氏)
Fireworkは、こうした動画展開を行う企業向けにコンテンツ制作を支える仕組みも提供している。動画制作を容易にできるツール提供のほか、継続的なコンテンツ制作を叶えるためのオペレーションや体制構築をサポート。今後は、テキストと画像を基にAIでスライドショーを自動生成する機能も提供予定だ。
同社が重視するのは、あくまで10~20秒程度のショート動画である。作り込んだ動画をひとつだけ制作・配信するのではなく、多種多様な商品をさまざまな角度からたくさんの動画を使って紹介することで、顧客に視聴と商品選びの楽しさ・体験を与えることができる。
「今の時代の動画制作は、ブランドのメッセージを伝えるクリエイティブ性高いものを作りたいのか、顧客に商品を知ってもらうための動画を作りたいのか、社内できちんと目的を分ける必要があると考えています。Fireworkでは、こうした作り分けや戦略策定についてもご支援が可能です」(逸見氏)
ショート動画を通して顧客の一次情報を取得し、CRMを実現できる点もこうした施策の重要なポイントと言える。Fireworkでは動画を起点に顧客接点を増やせるよう、ライブチャット、投票・アンケート機能などを有している。このように顧客参加型で楽しめる要素を盛り込んだ小売のエンタメ化を実現すれば、企業と顧客のエンゲージメントの深化が実現できる。すると、「もうひとつのキーワードであるリテールメディアの可能性も広がる」と逸見氏は語った。
「広告」ではなく「情報」を届ける リテールメディアが持つ価値とは
最後に両氏は、リテールメディアの現状、特徴と価値について説明を行った。前出したSafewayのアプリでも、オリジナル動画2~3点の間に広告が差し込まれている。SNS広告に近しいフォーマットの広告商品を、小売企業が自ら展開しているのだ。
「アメリカでは、購入意欲の高い顧客はリテールのメディア上に多いというデータもすでに発表されています。さまざまな媒体で従来のようなリターゲティングを行うよりも、すでにEC上にいる顧客に対して最適な商品を届けることが大きな価値となっていくのではないか。そう感じています」(瀧澤氏)
日本でも、実店舗にチラシやポップ、サイネージを設置してメーカーからリベートを受け取るといった形で「店舗のメディア化」は行われてきた。しかし、店舗単位での取り組みは管理・運用の手間やコストが大きい。デジタルであれば配信の管理がしやすく、広告効果の計測や可視化も容易となる。
加えて、デジタルは顧客と1to1でつながりやすい点もメリットだ。自社で収集した会員情報、購買履歴や趣味嗜好などの情報を管理し、それらに基づいた最適な情報配信ができれば、顧客にとっても得るものが大きい。
「収益を得ること前提で広告を貼り、売場をメディア化するのではなく、メディアとしてのおもしろさ、買い物の楽しさを提供した上で収集したファーストパーティデータを使い、カスタマイズされた広告を配信する。こうすることで、広告でも顧客にメリットある情報として理解していただくことができるはずです。このストーリー作りを間違えてしまうと顧客が離反してしまうため、注意は必要です」(逸見氏)
ここで逸見氏は、かつて自身がAmazonの広告販売を行っていた経験を振り返った。トップページやバナーに書籍の広告を掲載すると認知度が上がり、Amazonだけでなく書店での売上も上昇したと言う。
「オンライン上のメディアに出稿することで接点が増え、実店舗と異なる顧客にもリーチすることができます。だから、Amazonに広告を出してAmazon以外でも売れるということが起きるのでしょう。これは10年以上前の話ですが、今まさに同様のストーリーが多くの企業や商品で起きていると実感しています」(逸見氏)
リテールメディアに取り組む際には、「企業と顧客の信頼関係が必要になる」と逸見氏は強調する。ショート動画を活用して自社ECサイトをエンタメ化し、顧客がウェブやアプリ経由で買い物をする習慣を作り上げる。そして取得した情報を基に、正しいレコメンドやCRMを実現する。こうしたコントロールをしっかりと行った上で、さらなるステップとして小売のエンタメ化、リテールメディア展開を考えていくべきだと逸見氏は続ける。
「顧客と関係が築けていれば、自社で販売する商品以外の情報をリテールメディア上で届けても問題ありません。たとえば百貨店であれば、売場には陳列できない自動車の広告を出すといった具合です。顧客の需要に合った動画配信であれば、それは『広告』ではなく『情報』となります。ここまで突き抜けると、小売業も再び活気づいていくでしょう」(逸見氏)
「Fireworkにも、最近はEC企業から『リテンションを高めたい』『買わなくてもいいから、毎日サイトに来てもらえるようにしたい』といったようなご相談が増えています。逆に、メディア企業はEC販売に興味を持っており、双方が融合しつつあることを感じています。動画はそのどちらにもフィットさせることが可能です」(瀧澤氏)
自社メディア・EC起点で顧客体験を向上 2022年はより動画が重要に
スマートフォンでの動画視聴が当たり前になり、ショッピングの形も変わりつつある現在、SNSプラットフォームも「動画×コマース」に注力した機能を続々とリリースしている。企業はこうした場を活用し、コンテンツ展開しているケースが多いが、それでは自社で顧客情報の取得ができず、露出や拡散状況などのコントロールも困難だ。
Fireworkが目指す世界は、情報発信元である自社メディアやECサイトに顧客や情報を集め、そこを起点にSNSへのコンテンツ投稿やメール配信、リテールメディアへの広告出稿を行う流れを作ることだと言う。自社運営する場であれば、会員情報を集めながら、CVRやAOV(Average Order Value:平均注文金額)などのデータも計測できる。これらを実現するためにも、「SNSと変わらない顧客体験を提供する、自社メディア・ECサイトのアップグレードをサポートしていきたい」と瀧澤氏は語った。
ショート動画を軸に据えたコミュニケーション戦略は、小売業だけでなくD2Cブランドやメーカー、メディア、代理店などさまざまなジャンルで活用できる。コロナ禍によるオンライン消費の伸びと、スマートフォンでのコンテンツ消費の拡大、5Gなど通信環境の進化を背景に、2022年はますます動画が重要なキーワードとなっていくことは間違いない。Fireworkではこうした背景を踏まえ、「スマートフォンにフィットした縦型動画配信の環境だけでなく、目的を整理した上での動画制作のサポートや、配信後の計測、エンゲージメントの強化、CRMの構築など、顧客と継続的な関係を作るためのソリューションを提供する」と意気込んだ上で、このように語りセッションを締めくくった。
「日本市場もこれから大きな変化を見せるはずです。皆様から質問などをいただきながら、一緒に小売業を進化させていきたいと考えています」(逸見氏)
「自社メディアやECサイトの価値を高める点と、スマートフォン活用に当社はフォーカスしています。ぜひ各社の動画活用、DX推進をお手伝いできればと思っています」(瀧澤氏)
10,000人を集めた! Fireworkライブコマース成功事例集
いまだ大きな成功事例が聞こえてこない日本国内のライブコマース。Fireworkカスタマーの成功事例は、大きなヒントになるはずです。eBook「10,000人を集めた! Fireworkライブコマース成功事例集」では、グローバルブランド、D2C、大手リテイラーの3つのライブコマースの成功事例をまとめています