矢野経済研究所は国内スポーツアパレル市場を調査し、競技カテゴリー別の市場規模や、参入メーカーや流通の動向、将来展望を明らかにした。
市場概況
2020年のスポーツアパレル国内市場規模はメーカー出荷金額ベースで、前年比86.7%の4,868億7,000万円を見込む。新型コロナウイルスの感染拡大により、3月上旬ごろより学校部活動の活動休止、各種スポーツスクールや公共体育館の営業休止など、国民のスポーツの場やプレー機会が失われたことでスポーツウエアの需要は急速に縮小。そのため、本来であれば各カテゴリーで大きな盛り上がりを見せる春先の新学期需要も極めて小さいものとなるなど、小売店の販売は全国的に落ち込んだ。
販売不振に陥った小売店からは、スポーツ用品メーカーに対して商品の発注キャンセルや納品の後ずらしに関する依頼・相談が続出。事業存続の危機に瀕する小売店も増えるなか、将来的な販売先の減少を懸念したメーカーもそうした依頼に応じたため、出荷金額が前年を大きく下回る見込みである。このように、コロナ禍による需要減退が大きく影響し、スポーツアパレルの国内出荷金額は対象とする全カテゴリーで前年割れと、極めて厳しい結果が見込まれる。
注目トピック
2020年はアウトドアウエアの出荷金額が最大となる見込
2020年は、トップの座を維持してきたトレーニングウエアに代わり、アウトドアウエアの出荷金額がカテゴリー別で最大となる見込みである。
アウトドアウエアは、近年、普段着として着用するライフスタイル需要の拡大により、高成長が続いてきた。登山やトレッキングなど、アウトドア環境で求められる高い機能性を有したウエアは都市生活向けに使用しても快適で、スポーツ量販店やファッションセレクトショップなどでの展開が強化されている。特に認知度が高い「ザ・ノース・フェイス(TNF)」や「パタゴニア」といった有力ブランドは、カジュアルファッションシーンでの人気も高く、ブランドを代表するアイコニックな定番のアパレルは品薄状態が続く。こうしたブランドのアイテムはアウトドア専門店やスポーツ量販店だけでなく、カジュアルセレクトショップにも広がりを見せており、消費者との接点の増加がさらにブランド認知を高めるという好循環が生まれてきた。
こうした背景から拡大を続けてきたアウトドアウエアであるが、ほかカテゴリーと同様、2020年は新型コロナウイルスの影響を避けられず、マイナス成長の見込みである。ただ、それでもアウトドアブランドに対する関心は依然として高い。また、コロナ禍において「3密」を避けようと都心を離れてキャンプに出掛ける消費者の需要にも支えられた。各種スポーツシーンの場が失われて需要縮小が著しいトレーニングウエアと比較すると、アウドドアウエアは前年からの落ち込み幅を抑えられ、カテゴリー別で最大の出荷規模となる見込みである。
将来展望
2021年のスポーツアパレル国内市場規模はメーカー出荷⾦額ベースで、前年⽐111.1%の5,411億円を予測する。新型コロナウイルス感染症の影響が2020年春先ほどにまで拡大しないことが前提となるが、2020年の水準を大きく上回る見通しである。ただ、特に春夏は、各小売業態ともに大量の旧品処分を優先するシーズンとなる。2020年は特に春夏物の店頭販売が大不振となったことで、業態を問わず在庫が積みあがっている。小売店はセールを増やし、メーカーも直営ECや直営アウトレットで大幅割引をするなど、可能な限り在庫を消化しようとしているものの、いずれの業態ともに2020年秋時点における春夏物の在庫は例年以上であることから、多くの商品が2021年に持ち越される模様で、2021年春先の小売店頭においては、特価となった旧品が相当数並ぶことになると予想される。
また、近年はスポーツ用品メーカーとしても旧品との違いを打ち出せる新たなアイテムの提案が進んでおらず、過去モデルと類似の新作投入が多くなっている。似たような新品と旧品が店頭に並んだ場合、低価格の旧品を購入する消費者が多い。こうした傾向も踏まえ、20
21年の春夏シーズンは持ち越された旧品処分を最優先にして、新たに提案する品番数や品番ごとの投入数量を減らすというメーカーも多い。こうした要因から、2021年のスポーツアパレル国内出荷金額は2020年を上回るものの、「コロナ前」の2019年の水準にまでは戻らないものと予測する。
調査概要
- 調査期間:2020年9月〜11月
- 調査対象:スポーツ関連企業(メーカー/サプライヤー・卸売業・小売業)
- 調査方法:同社専門研究員による直接面接、電話・e-mailによるヒアリング、郵送アンケート調査併用