富士経済は、通販・ECの国内市場(物販)調査を実施。その結果を「通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2020」にまとめた。
1.通販形態別市場
2020年見込 | 2019年比 | 2021年予測 | 2019年比 | |
---|---|---|---|---|
全体 | 12兆4,196億円 | 106.6% | 13兆955億円 | 112.3% |
EC | 10兆7,144億円 | 108.3% | 11兆4,190億円 | 115.4% |
カタログ通販 | 1兆589億円 | 95.2% | 1兆276億円 | 92.4% |
テレビ通販 | 5,594億円 | 100.5% | 5,659億円 | 101.7% |
ECは、通販形態市場全体の8割以上を占め、2019年と比較して拡大傾向を見せている。モールの顧客誘引が強まっているほか、カタログ通販やテレビ通販、ラジオ通販といった形態を主力としながらECで需要を刈り取るマルチチャネル施策を推進する企業の増加、流通企業でも実店舗とオンライン店舗間での相互送客による顧客囲い込みが進むなど、今後もEC市場は拡大し、2021年には11兆4,190億円を予測している。
カタログ通販は、家電製品・パソコンが堅調であるが、総合通販企業を中心とするカタログ統廃合やECへの誘導強化が進む中で、主力であるアパレルの低調により、今後も市場は縮小が続くと分析。 テレビ通販は、ユーザーがテレビ通販番組で商品を認知し、ECで発注するケースが増加しており、市場は横ばいから微増で推移している。上位企業が消費者とのタッチポイント増加による取り込みを強化しているほか、通販専門企業を中心にインフォマーシャルの投下や取扱商品を増やす動きが見られるなど、市場の底上げが進んでいる。
2.商品カテゴリー別市場(各カテゴリーは全体の内数)
2020年見込 | 2019年比 | 2021年予測 | 2019年比 | |
---|---|---|---|---|
全体 | 12兆4,196億円 | 106.6% | 13兆955億円 | 112.3% |
食品・産直品 | 1兆8,712億円 | 109.7% | 1兆9,550億円 | 114.6% |
生活雑貨 | 1兆2,270億円 | 112.5% | 1兆3,080億円 | 119.9% |
家電製品・パソコン | 2兆1,266億円 | 109.8% | 2兆3,259億円 | 120.1% |
書籍・ソフト | 1兆8,166億円 | 109.1% | 1兆9,641億円 | 118.0% |
各商品カテゴリーとも市場が拡大。これまではアパレルや家電製品・パソコン、書籍・ソフトが拡大傾向にあったが、近年は家電製品・パソコンや書籍・ソフトに加え、ネットスーパーの普及により食品・産直品と、配送サービスの拡充やまとめ買い需要の獲得により生活雑貨が大きく拡大している。2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による“巣ごもり消費”の増加を受けて、この傾向がさらに加速している。
食品・産直品
時短調理ニーズによりミールキットが広がり、さらなる“時短”を追求した商品や日頃調理を行わない男性層をターゲットとした商品が増加している。一方で、デリバリーサービスの多様化が進んでおり、大手飲食店チェーンを中心に多種多様な飲食店が出店。とくに、多忙な単身世帯や共働き世帯が多い主要都市の都心部エリアではデリバリーサービス対応店舗の増加やエリア拡充が食品・産直品通販の脅威となりつつある。
2020年は、ネットスーパーをはじめとする通販の利用が急速に増加している。一時的な物流の麻痺により商品確保が困難となったケースや、配送システムがパンク状態となるケースもみられたが、市場は大幅な拡大が予想される。
生活雑貨
大手ECサイトを中心に送料無料化や当日配送対応も見られ、配送・物流コストの増加や価格競争による収益性の低下が課題となっている。近年は収益確保を目的にPB商品や大手メーカーとの共同開発商品の投入が増えている。
2020年は、実店舗での購入からネットスーパーをはじめとする通販の利用が増加しており、特に、マスクや消毒用アルコールなどの需要が急増し、市場が拡大している。一方、キッチン用品などで高価格な商品は、今後、消費者の消費意欲の減退により需要が低下するとみられる。
3.決済方式別市場:2019年全体市場11兆6,561億円の内訳
クレジットカード決済 | 8兆4,559億円 |
---|---|
代金引換 | 1兆4,803億円 |
コンビニ決済 | 9,675億円 |
振込 | 3,963億円 |
電子マネー決済 | 1,505億円 |
自動引落 | 820億円 |
スマホ決済 | 360億円 |
その他 | 876億円 |
クレジットカード決済は、モールをはじめとしたほとんどのECサイトで導入されている。クレジットカード情報を入力したECサイトでは次回注文以降に情報入力が不要となる利便性の面で優れており、また、上位企業では自社/グループ企業で発行するクレジットカードでの決済時のポイント付与率を高める施策などで利用につなげていることから、全体市場の7割強を占める規模となっている。近年は再配達の抑制や顧客利便性の向上を目的とした宅配ボックス/置き配や宅配ロッカーなど、受け取り方法が多様化していることも追い風になっており、今後もクレジットカード決済の利用が増えると予想される。
クレジットカード決済に次ぐ市場規模の代金引換は、クレジットカードのセキュリティに不安を感じるシニア層などによる利用が主であるが、配送料に代引き手数料が上乗せされる点や在宅で受け取る手間から若年層の利用が減っている点などにより市場が縮小している。コンビニ決済もセキュリティに対する心配が不要である点や充実したチェーン店網によりどこでも受け取りが可能といった利便性の高さもあり、市場拡大が続いている。
スマホ決済は、2018年10月に「PayPay」などのサービスがスタートし、2019年には携帯キャリア決済を導入していたECサイトがスマホ決済に移行するケースが見られ、市場は大幅に拡大した。また、10月から経済産業省によるキャッシュレス・ポイント還元制度が実施されたことや、ヤフーが新たな仮想ショッピングモール「PayPay モール」を開始して大規模なプロモーションにより実績を伸ばしたことも市場拡大に寄与している。
注目市場 ネットスーパー
2020年見込 | 2019年比 | 2021年予測 | 2019年比 |
---|---|---|---|
2,625億円 | 111.2% | 2,820億円 | 119.5% |
GMS/SMをはじめとした流通企業による、店頭の食品・産直品などを自社物流網により最短で注文当日に配送する店舗発送型のサービスをメインに、補助的にセンター発送を行うサービスも対象とする。
市場は生鮮食品などを、ネットを通じて手軽に注文できることが評価され拡大してきた。展開する大手流通企業は顧客の囲い込みができることから注力している。近年はスマートフォンやタブレット端末が普及していることに加え、共働き世帯の増加などライフスタイルの変化が進んでいることも市場拡大の追い風になっている。一方で、収益面などから中堅GMS/SMを中心に市場撤退の動きが見られるなど、上位集約傾向が強まっている。
2018年は、「SEIYUドットコム」(西友)と「楽天マート」(楽天)を統合した「楽天西友ネットスーパー」が8月からスタートし、“楽天エコシステム(経済圏)”入りを果たして楽天会員を中心とした需要を取り込み急伸したことが市場を押し上げた。2019年は、「楽天西友ネットスーパー」が大幅なプラスとなり、イオンリテールが展開する「おうちでイオン イオンネットスーパー」も順調に実績を伸ばしたことから市場が拡大した。2020年は外出自粛要請を受けて上位サービスを中心に需要が急増している。供給力を上回る需要に対して一時受注の見合わせが散見されたが、市場は大幅に拡大するとみられる。
需要が急速に増加していることから、今後はこれらの継続利用に向けた施策の強化が図られるとみられる。また、地方在住の高齢者を中心とした“買い物難民”に対し、自治体と連携してアプローチすることができれば需要の更なる囲い込みが期待される。
本調査は、2020年2月~5月、富士経済専門調査員による参入企業および関連企業・団体などへのヒアリングおよび関連文献調査、社内データベースを併用して実施した。調査対象、カテゴリ分類、品目についての詳細は「通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2020」等参照のこと。