BtoB・BtoC双方に広がるEC強化 ビジュアルマーケティングの重要性とは
Instagramとの連携や動画制作を支援するツール「visumo」を提供する株式会社visumoは、ソフトクリエイトホールディングスのグループ会社だ。
visumoは、ブランド・商品訴求を強めるビジュアルデータを一元管理する「ビジュアルマーケティングプラットフォーム」として、大きく4つの機能を提供する。柱となるのがInstagramとの連携機能で、投稿された写真や動画の自社ECサイト活用を実現している。ほかにもYouTubeやIGTVなどの動画データを独自にストリーミングして動画コマースに活用できる機能や、インフルエンサーとなるアンバサダーやスタッフがメディア投稿を行う専用ツールとしての機能、シンプルな動画を容易に作成できる機能も提供し、ビジュアルデータの一元管理に貢献している。
visumoは、リリースから約4年で導入社数を300社以上に伸ばしている。アパレル、美容、インテリア・雑貨などを扱うBtoCの事業者のみならず、BtoB事業を展開するメーカーや小売店など、業種は多岐にわたっている。井上氏は、「さまざまな事業者とお話する中で、動画活用に課題感を持たれているという声を数多く耳にする」と語った上で、ビジュアルマーケティングの優位性について、データを交えながら解説を進めた。
まず井上氏は、脳に伝わる情報の約90%が視覚的情報であり、テキスト情報よりも写真や動画などのビジュアル情報のほうが約6万倍も処理速度が早いと言われていることを紹介。実際に「かわいい子犬」を示すテキストと画像を比べて見せながら、画像のほうがよりイメージが湧きやすく、記憶にも残りやすいことを強調した。
また、昨今ビジュアルがますます重視される背景には、ほかの理由も存在する。ひとつは、表現領域がパソコンよりも狭いスマートフォンが普及したことだ。スマートフォンでは、テキストの表示量が少なく、必要な情報を効率的に伝えるには、ウェブデザインもよりシンプルな構成にしなくてはならない。つまり、画像や動画などの素材を活用し、訴求を行う必要性が生じているのだ。
井上氏は「加えて、インターネット利用者の集中力の低下も要因に挙げられる」と続ける。隙間時間にインターネットを利用する、という生活様式が定着するにつれ、直感的に情報を得ることができるビジュアルは、より重要なものとなる。画像解析などテクノロジーの進化により、ユーザーが求めるビジュアルとの出会いが増えている点もポイントだ。
Googleのデータによると、インターネットでものを購入するユーザーの50%が画像情報を役立てていると言う。キーワード検索のみならず、Google ショッピングやGoogle 画像検索から情報を探すユーザーも増えている。つまり、従来のリスティング広告に留まらない広告運用が必須となっているのだ。
さらには、「ググる(Googleで検索する)」ではなく「タグる(タグから検索する)」という行動が広がっていることもポイントと言える。ググるだけではSEO対策を行っているウェブサイトにしかアクセスすることができず、鮮度の高い最新情報を得ることは難しい。Instagramなど各種SNSでタグ検索をしたほうが、圧倒的にリアルタイム性の高い情報に触れることができるのが現状だ。
これらの要因から、ビジュアル活用の重要性は増しているが「決してテキスト情報が不要になるわけではない」と井上氏は付け加える。ビジュアルはアテンションを取るために有効だが、ユーザーが購買を検討する中ではスペックやレビュー、ショッピングガイドなどのテキスト情報も欠かせない。重要なのは、カスタマージャーニー内での使い分けだ。
「購入する前段階でイメージを想起させる、モチベーションを上げるタイミングにおいてビジュアルの多様化を進めることが非常に重要になっています」(井上氏)
動画コンテンツ活用はSEO対策にも効果を発揮する
ビジュアルマーケティングを展開する上では、コンテンツの量産が不可欠となる。その方法のひとつが、Instagramに掲載しているような「映える写真」を自社ECサイトにも活用することだ。「単に写真を並べてアテンションを獲得するだけでなく、商品詳細ページなどのコンテンツと紐づけることで、ECサイトのトラフィック増加や回遊率、CVRの向上につなげることができる」と井上氏は説明する。
「印象的だと思った写真をきっかけに、お客様が回遊を始める傾向がデータとして現れています。映えるコンテンツを常設化することが、サイトの回遊価値向上につながると感じています」(井上氏)
映える写真に加えて、さらなるアテンションを獲得するために必要なのが、当セッションの主題である動画活用だ。
2020年に始まったコロナ禍を契機に、動画コマースに乗り出した事業者は多い。しかし、緊急事態宣言の発令・延長や度重なる感染者数のリバウンドなど、状況の変化に振り回され、「PDCAをうまく回すことができていない、ノウハウを確立できていない事業者が数多くいるのが現状」だと井上氏は語る。
その一方で、動画コンテンツは多様化が進み、各社独自の表現手段を用いて、成果を挙げる事業者も出ている。
「動画コンテンツ活用においては、SNSマーケティングの一環でコンテンツを多用し、ユーザーのアテンションを獲得する戦略が鉄板です」(井上氏)
MMD研究所が発表する「2019年版:スマートフォン利用者実態調査」によると、若年層の1日のスマートフォン利用時間は、3~4時間。そのうちの約50%は、SNSと動画アプリに滞在しているとされている。まずはこうした接点に露出してアテンションを取り、オウンドのウェブサイトや自社ECサイトへと誘導する流れを生むことが重要だ。
また、SNSの動画を自社ECサイトに展開することで、SNSではリーチできない顧客層にも情報訴求ができ、機会損失をなくすほか、モール店舗との差別化を図ることも可能となる。加えて、訴求力アップやSEO効果といった副産物が多いのも、動画コンテンツの特徴だ。ウェブサイトの滞在時間も、GoogleのSEO評価の指標のひとつと考えられているが、動画コンテンツがあれば、再生回数の増加とともに必然的にこれを伸ばすことができる。
「動画コンテンツを作成するだけでなく、きちんとオウンドのウェブサイトや自社ECサイトに掲載し、見てもらうことが大切です。YouTubeのURLを貼るだけでは外部へ遷移してしまうため、自社ECサイト内で見せる工夫は欠かせません、こうした中で、当社のソリューションもうまく活用していただけると思っています」(井上氏)
ここで井上氏は、参考としてプラットフォームごとの特徴を整理した表を提示し、「各SNSの特性を踏まえながら、さまざまなチャネルで展開していくことも大切」と語った。
ライブコマース活用は自社の顧客に合った方法で推進を
続いて井上氏は、相談が増加しているライブコマースについて、考えかたが異なる事業者を例に挙げながら解説を進めた。
費用対効果を重視する事業者Aと顧客接点として活用する事業者B
ライブ配信はかかわるスタッフの数も多く、事前準備も必要となる。しかし、限られた日時に配信を行う以上、リアルタイムで視聴できるユーザーは限られており、視聴者数増加を狙ったゴールデンタイムの配信を実施する際には、スタッフに残業代を支払う必要性が生じる。費用対効果を考え、適度な実施に留めたいと考えるのが事業者Aだ。
一方で、リアルタイムの視聴者数は少なくとも良いと考えているが頻度高くライブ配信を行いたいと考える事業者Bも存在する。ライブ配信を視聴するユーザーは、そもそもロイヤリティが高い優良顧客と言える。コロナ禍でもこうした顧客とタッチポイントを持ち、楽しんでもらえればライブ配信をする意味は大いにある、と同社は考えていると言う。
SNSでの配信でOKな事業者Cと、オウンドでやりたい事業者D
なお、配信を行うプラットフォームについても事業者ごとに考えが分かれる点だ。事業者Cは、オウンドで実施するには体制構築に時間とコストがかかるため、InstagramやYouTube、Zoomなど既存のプラットフォーム・ツールを活用し、安価に実施したいと考える。
「ただし、事業者Cはアーカイブを自社サイトに掲載することで、コンテンツを資産としても活用していました。ここは大きなポイントと言えるでしょう」(井上氏)
対して、ブランドイメージ向上や自社ECサイトへの来訪を促すために、オリジナルコンテンツのひとつとして取り入れたいと考えるのが事業者Dだ。自社ECサイト内でライブ配信を行えば、お気に入り登録や購入動線にもスムーズにつなげることができる。将来的には会員限定の仕組みを導入し、購買機能とライブ配信機能をつなげることも構想していると言う。
「こうした施策の展開方法は、各社の顧客層や客単価などによっても変わるものです。今回ご紹介した例は極端ではありますが、ぜひ今後の参考にしていただければと思います」(井上氏)
Instagramのライブ配信で活用できる 多彩な機能を知ろう
ここで井上氏は、Instagramでライブ配信を行う際の便利な機能を紹介した。
このほかにも、ストーリーズで配信日時を告知して認知・集客ができる機能やアンケートの事前収集機能、不適切なコメントを非表示にするなどのコメントコントロール機能も存在している。ライブ配信後は、動画データをダウンロードして利活用することも可能だ。さらには、最大4人でライブ配信ができる「Live Room」という機能も先日リリースされている。
「Instagramでは、ライブコマースに最適な機能が次々とリリースされています。使わないのは損です」(井上氏)
Instagramのライブ配信は、「Instagram内のSEO対策という視点でもメリットがある」と井上氏は続ける。Instagramのフィードで最上位表示を狙うことは、システム上困難であるが、ライブ配信を行うと強制的にストーリーズの最前部に「LIVE」のマークとともにアイコンを表出させることができる。
「認知を取るためにライブ配信を頻繁に行うという考えかたもありでしょう」(井上氏)
また、Instagramのアルゴリズムという観点からも、ライブ配信実施には効果があると言う。フォロワーとのエンゲージメントを評価する指標として、「DM」「コメント」「リポスト」「メンション」「いいね」のみならず、「ライブでの接触」も加わる今、自社アカウントの強化という側面からもInstagram内でのライブ配信は重要となる。
化粧品・アパレルなど多岐にわたるvisumo活用事例を紹介
最後のトピックとして、井上氏はvisumoを活用したビジュアルマーケティングの事例紹介を行った。
化粧品を扱うコーセーでは、ブランドチームが作成したインスタ上のオフィシャルコンテンツを自社ECサイトにも展開。組織という枠組みを越え、デジタルアセットを有効活用していると言う。
「事業者においては、コンテンツを作るチームとウェブで売るチームが別個に存在しているケースがほとんどでしょう。コーセー様は、これを横串にする取り組みを実施しています。まさにDXのひとつと言えますが、ツールを活用しながらチャネルを横断して自社の資産を活用する。こうした事例が着実に増えています」(井上氏)
サントリーグループのコネクトが運営するハーブ専門店「enherb」では、ユーザーの投稿と実店舗公式アカウントのコンテンツをひとつにまとめて自社サイトに掲載しているほか。スタッフがアップした商品紹介動画もコンテンツ化している。
「visumoを使えば、接客動画を見ながらお買い物ができるようなコンテンツも容易に作成することが可能です。同社の取り組みは、オンラインとオフラインのセクショナリズムをなくすものと言えるでしょう。時代の流れを踏まえ、ぜひ部をまたいだデジタルアセット活用を目指していただきたいと考えています」(井上氏)
バロックジャパンリミテッドが運営する自社ECサイト「SHEL'TTER(シェルター)」では、インフルエンサーのスタッフがInstagramで行ったライブ配信のアーカイブを同サイト内に掲載し、動画に触れたユーザーのCVR向上という成果を獲得している。同社はYouTubeでも「SHE'LTTER TV」というチャンネルを立ち上げ、ライブ配信とは異なるコンセプトで動画コンテンツを展開。コロナ禍において、試行錯誤しながらもスピード感を持って自前で動画制作を行ってきたことが今につながっていると言う。
「動画はかっこよく作らなければならない、プロに任せなくてはいけないと考える方もいらっしゃいますが、それではお金も時間もあっという間になくなってしまいます。スマートフォンひとつで動画撮影ができる現代だからこそ、自分たちでやるというチャレンジをしてみてはいかがでしょうか」(井上氏)
アパレルブランド「HOLLYWOOD RANCH MARKET」などを展開する聖林公司では、Zoomを使ったオンライン接客の取り組みを始めている。
「1to1の動画活用も、ロイヤルカスタマーとのエンゲージメントをより高めていくという視点では大切です」(井上氏)
なお、BtoCのみならず、BtoB領域においても動画活用は進んでいる。インテリア雑貨を扱うダルトンは、小売店などに商材を卸すための自社ECサイト内で、商品紹介や使いかたの解説動画を掲載。受注会や予約会を思うように開催できない情勢下でも、商品の魅力を伝えることに成功している。
2021年、先行き見えぬ状況が続く中で、さまざまな試行錯誤を行うことが依然として求められている。その中で動画の可能性はまだまだ探る余地があると言えるだろう。「撮影や編集のノウハウを溜めながらも、事業者としてデジタルアセットを有効活用し、コマースにつなげていくことが重要になる」と井上氏は強調した上でこのように語り、セッションを締めくくった。
「visumoを活用すれば、動画コンテンツをオウンドで活用し、スムーズな顧客体験の中で動画コマースを推進することができます。ユニークな新機能もリリースしていますので、ご興味があればぜひお声がけください」(井上氏)