前回の記事では、原価を抑制するはずの大ロット発注が売れ残りによる値引販売と商品評価減(評価損)を誘発し、利益とキャッシュフローにマイナスになることを解説しました。第5回にてお伝えする内容は次の通りです。
- 2024年から後期高齢者はより増加 医療・介護費用急増による小売への変化
- 現役世代の可処分所得と消費支出額減少 今後もペース拡大は確実
- 縮小市場で勝ち残るには粗利第一への転換は必須
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、消費全体が落ち込む中でも、ECの売上は前年同期を上回り続けています。しかし、国内の小売市場全体としては、すでに2018年時点で頭打ちの状態でした。消費人口の減少によりパイが増えない環境下でも、事業を成長させる方策を考えていきましょう。
医療・介護支出増が小売のビジネスに与えるインパクト
少しスケールが大きな話になりますが、皆さんは日本の人口動態について考えたことはありますか? 言うまでもなく、日本は高齢化が世界一進んだ国であり、合計特殊出生率も低いですよね。
このことが小売業界に与える影響が、実は甚大なのです。2030年の日本の人口は、出生数や死亡率の高低に応じて1億1,652万~1億2,017万人と推計されますが、もっとも少ない1億1,652万人の場合、2015年の1億2,709万人と比較して、九州全体の人口に匹敵する1,057万人減となります(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」より)。
しかも、2030年には全人口の3分の1が65歳以上の高齢者になり、個人消費を主に生み出す生産年齢人口(現役世代)は全体の58.5%にまで減ってしまいます。こうした結果を見ると、俗に言う「2030年問題」が小売業とも密接にかかわることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
こうお伝えすると「2030年までの10年間で対応すれば良い」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは危険です。なぜなら、その前の2024~25年が転機の年となるからです。2024年には、1947年から1949年にかけて生まれた団塊の世代(第1次ベビーブーム世代)が、全員75歳以上の後期高齢者になります。これにより、医療や介護などの社会保障費用(社会保障給付費)が急増することがすでに見込まれています。
内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が発表している「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」によると、2018年の医療・介護給付費は、計49.9兆円でした。これが2025年には27%増加した計63.3兆円となり、2040年には92.9兆円にまで膨れ上がると予測されています。
2019年の小売市場全体の規模が145兆円(経済産業省調べ)であったことと比べると、医療・介護という市場がいかに大きいマーケットか想像できるかと思います。そして、こうした費用は私たちが支払う社会保険料と公費(税金)によって賄われています。
政府は現役世代の負担増は限定的と試算していますが、それは2014~2015年頃の好景気並みの経済成長が続いた場合の仮定です。新型コロナウイルス感染症の影響もあり経済成長が止まった今、増税や社会保険料引き上げなど、現役世代の負担が重くなることは避けられないでしょう。すると、個人消費に回せる可処分所得が減ってしまうことは明らかです。