女優・松雪泰子さんのCMでおなじみの、マルイが製造販売する「ラクチンきれいシューズ」。販売開始から6年で累計320万足を突破。ヒットの背景には、靴業界の常識ではありえなかった「手頃な価格」「おしゃれ」「履き心地」「サイズ」の4つを兼ね備えた商品を作り上げたこと、そして販売当初からオムニチャネルで売っていくことを想定して商品を作っていたという、理由があった。
顧客の声を聞き、商品開発
難しいからこそ、実現できたら喜ばれる
本インタビューに答えてくれたのは、マルイのオムニチャネル推進課課長である木村真帆さん。マルイのプライベートブランド婦人靴「ラクチンきれいシューズ」が大ヒットする以前から、同社の靴のマーケティングにかかわってきた。
2010年1月にデビューした同ブランド。「お客さまと一緒に作りました」のキャッチフレーズどおり、顧客の声をもとに開発した商品だが、その発想は2007年にオープンした、実店舗「有楽町マルイ」に遡ると言う。
「それまでマルイは、トレンドを好む若い女性のお客様が多かったのですが、有楽町マルイは30〜40代の女性にもご利用いただきたいと考えました。そこでその年代の方たちのニーズをきちんと把握しようと、何回もお客様座談会を開き、フロアごとのコンセプト、商品の品揃え、接客サービスなどあらゆることを、実際にお声を聞いて店を作りました。ここから会社全体でお客様と一緒に作る『共創』の取り組みが始まりました」
マルイでは、独自のクレジットカード「エポスカード」を発行し、ECのデータベースも整備されている。商品開発のため頻繁に企画される座談会では、こうしたデータなどを活用することで、さまざまな層の消費者を招待することができると言う。
マルイはすでに、スーツ、バッグ、靴などのプライベートブランドを展開していたが、とくにニーズが高かったのが靴だったため、ラクチンきれいシューズの商品開発が始まった。
「お客様の声を聞くと、9割が『履き心地』に悩んでいることがわかりました。ファストファッション全盛期でもあったので、『手頃な価格』『おしゃれ』『履き心地』の3つを兼ね備えた商品ができれば、喜んでいただけるのではないかと考えたのです」
しかし、そんな理想的な靴は安々とは実現できなかった。
「お客様に3つのコンセプトを伝えると、『そういうものをずっと探していますが、実際にはそんな靴、ないと思いますけど!』といった声が返ってきました。靴業界の方からは『履き心地よりデザインや価格を優先したほうが売れる』と言われました。それでも、お客様から『そんな靴があったら毎シーズンでも欲しい!』という声をいただき、実現できたら喜んでいただけるはずだと、当時の開発メンバーは確信を持って進めていくことになりました」
商品開発メンバーは、本商品開発のためにバイヤーだけでなくシューズ事業以外の担当など、多様なメンバーが集められ、進んでいった。
「これからもっとネットでの販売に力を入れていかなければと考えていた時期でもあり、商品開発時から、お客様が店でもネットでもお買い物いただけることを想定していました」
マルイでは、オムニチャネルの基盤となる「店舗とECの在庫連携」「会員IDの統合」は2009年に済ませ、リアルとネットの相互送客を行ってきた。2017年1月時点で、「ECがあるとネットにお客様をとられる」といった発想をする販売員はゼロに近い、と木村さんは言う。