どの瞬間が「カゴ落ち」なのか:定義とデータの精度
まず、費用対効果を語る前に、カゴ落ちと呼ばれる事象について、簡単に定義しておきたい。ECサイトにおいて、ユーザーがショッピングカートや資料請求などの画面に到達したにも関わらず、商品の送付先や決済方法の入力を途中で止めて、オーダーを完了させずにサイトから離脱する事象を、本稿では「カゴ落ち」と呼ぶ。
また、ショッピングカートなどのオーダー画面に到達したユニークユーザー数を母数にして、オーダーを完了させずに離脱した率を「カゴ落ち率」と呼ぶ。
ただし、「カゴ落ち」および「カゴ落ち率」について厳密に定義するとなると、未確定要素を多分に含むこととなる。
まず、ユニークユーザー数の定義について、曖昧さが残っている。
一般的に、複数のセッションを経た後にオーダーを完了させるユーザーの割合は大きく、1回のセッションでも複数回のセッションでも、同一のユーザーであれば1ユーザーとカウントする必要があるが、A~Cのような場合もある。
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A.”同一セッション”については、どこまでのセッションスパンを同一セッションとみなすのか?
→これをどのように定義するかにより、母数となるユニークユーザー数が異なってくる。 -
B.どの時点でオーダーを断念したと判断するのか?
→セキュアな環境のユーザーは、リロードや一定時間経過後のポート変更などにより別セッション、場合によっては別ユーザーとカウントされる可能性もある。 -
C.カゴ落ちを計測するデータの締切時点をまたいでの連続セッション後に、オーダーした場合は?
→実際には同一セッション内にオーダーに至っているのにもかかわらず、データの集計締切時点ではオーダーに至っていないので、離脱とカウントされることとなる。同時に、ユニークユーザー数はダブルカウントされることとなる。
また、以下のようなパターンも考えられる。
- D.オーダー画面に到達後に、電話やメール、ファックスなどのサブルートでオーダーした場合は?
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E.オーダー画面に到達していない時点でサブルートでオーダーした場合は?
→たとえば上記Dの場合、カゴ落ち率100%でも受注自体は存在するという事象にもなりえる。 - F.ファーストコンタクトとオーダー時のデバイスが異なり、データ上は同一人物と判定できないケースは?
これらA~Fの取り扱いについては、議論の余地があるので本文とは別に十分考察したいと思うが、以下、ごく簡単に意見を述べておきたい。
Fを除けば、カゴ落ちデータの精度を大きく左右するのは、一般的にはAの事象である。同一セッションの定義=サイトへのファーストコンタクトからオーダーを決心するまでのリードタイムについては、業種やショップのコンセプトなどによりさまざまであるので、本来は各サイトオーナーの経験則によってその期間を設定すべきであると考える。
また、経験則から導き出された期間は「将来も再現性が高い、十分な裏付けがあるもの」として位置づけしてよいと考えたい。商品やサービスが高額となりオーダーに至る検討期間が長いECサイトなどであれば、数か月、数年といったスパンを経たセッションでも、同一セッションと見なすべきケースもあり得ると思われる。
以上のことを考慮した場合、カゴ落ちデータを計測する「環境」、つまりクッキーなどの期間設定やログインしたユーザーとゲストユーザーの比率などにより、データの精度がかなり異なってくると思われる。したがって、サイトごとのカゴ落ち率などを比較する場合には、それぞれの「計測環境」を確認し、データの精度を考慮する必要がある。
なお、あくまで理想論であり実際の運用には至らないが、仮に無期限のクッキーなどが利用でき、かつ、ユーザーが同一のデバイスを使用し続ける環境というものがあるのであれば、オーダーに至ったユーザーのサイトへのファーストコンタクトからオーダーまでの期間について、最長 平均 などの分布図を作成して、どこまでの範囲を「同一セッション」と呼ぶことが可能かを定義すればカゴ落ちのデータ精度がより高まることになる。
Fについては、すべてのユーザーがログインした状態であるならば、異なるデバイスでも同一ユーザーの識別が可能である。理想論ではあるが、運用を理想論の環境に近づけることにより精度が高まることは事実なので、断念せずに工夫を続けることを推奨したい。
次に、カゴ落ち率の改善が、なぜ集客増につながるのかを示したい。