再生数や一時的な売上を追いかけてはいけない理由
まず立ち返りたいのは、動画の目的は「見てもらうこと」ではなく「ブランドとつながってもらうこと」だという点です。
もちろん再生回数や売上も指標にはなりますが、それだけを追ってしまうと、表面的なコンテンツの量産に陥りがちです。
たとえば、ある化粧品メーカー「ファイヤー化粧株式会社」では、TikTokを活用して人気のあるインフルエンサーによる商品紹介動画を大量に配信し、キャンペーン初日には再生回数が100万回を超えるヒットを記録しました。
ところが、結果的に売上は想定を大きく下回り、翌月には返品率も上昇。フォロワー数も増えず、キャンペーン終了後のブランドアカウントはほとんど無反応な状態に陥ってしまいました。
原因を分析したところ、「動画がバズる」ことを優先したあまり、自社ブランドの価値や世界観を伝える内容になっておらず、一過性の話題作りにとどまっていたことがわかりました。つまり、視聴者は“面白いから見た”だけで、“そのブランドが好きだから買った”わけではなかったのです。
同社のしくじりの背景には、「数字を伸ばす」ことが目的化し、本来伝えるべきブランドの想いや体験が置き去りになっていた点が挙げられます。
本質的な動画コマース実現に必要な3つの視点
では、動画コマースでは何を目指すべきなのでしょうか? 動画の目的は、単に「見てもらうこと」でも「一時的に売上を上げること」でもありません。企業が動画コマースに取り組むうえで、本質的に目指すべきは次の3つです。
【顧客のLTV(生涯価値)の向上】
購入して終わりではなく、リピートやアップセルにつながる「関係性」を築く
【「このブランドが好き」と言ってくれるファンの獲得】
価格やキャンペーンではなく、「共感」や「世界観」で選ばれるブランドを目指す
【自社らしいブランド体験の確立】
どこかで見たようなコンテンツではなく、商品や価値観が自然と伝わる体験を設計する
この3つの視点から逸脱した動画を作って発信してしまうと、「作ったのに成果が出ない」ループから抜け出せません。
では、実際に現場ではどのような失敗が起きているのでしょうか。この記事では、典型的な2つのしくじりパターンをご紹介します。
失敗事例①:「作っただけ」で満足してしまう
あるブランドでは、Instagramのリールに動画を週5本投稿する運用体制を整えました。SNS担当者も専任で配置。一見すると良い運用体制に見えます。
ところが、数か月後も再生数は平均1,000回前後。フォロワーの伸びもほぼ横ばい。よくよく分析してみると、以下のような課題が見えてきました。
・動画の冒頭が長く、離脱が多発
・ターゲット設定が曖昧
・動線が設計されておらず、視聴後の行動が起きない
つまり、動画コマースに必要なあらゆる仕組みが抜け落ちていたのです。このケースで学ぶべきことは、動画を“作る”ことではなく、“誰に、何を、どう届けて、どう動いてもらうか”という設計を考えるべきということです。