新商品を生み出し続けるビジネスの限界
アパレル市場の停滞・縮小が危惧されている。『2040年アパレルの未来 「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』(東洋経済新報社/福田稔 著)では、インフレの影響により、消費者の財布の紐が堅くなっていることが要因の一つだとされている。また、アパレル企業は消費者によるさらなる買い控えを恐れ、値上げに消極的な傾向があるという。
ここ数年のマクロ環境変化を経て、先進国のアパレル市場は完全に成熟市場となり、一部では衰退期に入ったと見てよいでしょう。(P.40)
その一方で、大きな成長を見せているのが二次流通市場だ。日本でも、フリマサービスである「メルカリ」は約10年で広く浸透した。「新品が売れない代わりに中古品が売れる(P.55)」現象が、国内外を問わず起こっている。
本書は、こうしたアパレル市場の環境変化を詳しく解説し、国内のアパレル企業が進むべき道筋を示している。
脱・ファストファッションを目指すEUに追いつけるか
福田氏は本書のP.84-P.85で、2022年3月に発表された「持続可能な循環型社会に向けたEUテキスタイル戦略」の概要に触れている。本戦略により、EUの市場で流通する繊維製品は、2030年までに「高耐久性、リサイクル可能、再生繊維による製品が大半を占める」「有害物質を含まない」「社会的権利や環境を尊重した生産プロセスにより製造」の3条件を満たす必要があると決まった。
日本のアパレル企業も、先を行く海外事例の背中を追うことになるだろう。しかし、特に中小企業にとって環境対応への負担は小さくない。
本書の第3章で提示される「2040年に向けて予想される大きな『8つの事業環境変化』(P.107)」では、「大手によるシェア拡大と中堅企業の淘汰が進行する(P.108)」と説明されている。福田氏はその理由の一つを、こう説明する。
カーボンニュートラルをはじめとするサステナビリティ対応を成し遂げるためには、多くの人的リソースとマネーを投じなくてはなりません。(中略)
実際グローバルSPAの大手では、それらを担う組織に数十人単位の人員を割いています。
また、グリーントランスフォーメーションに必要なスタートアップ・技術への投資や、販売後のリセール・リペアプログラムの立ち上げなど、多くのマネーも必要となります。
現実問題として、このような投資を行える企業は一部に限られます。(P.110)
福田氏は自身が挙げる8つの事業環境変化を「機会」と捉え、必要なイノベーションを領域別に提案する。併せて紹介される国内外の事例からは、自社が着手すべき施策のヒントが得られるはずだ。