体験管理(XM)で新カテゴリーを切り開くQualtrics
Qualtrics(クアルトリクス)の「X4: The Experience Management Summit 2023」は、2023年3月7日から9日、時折雪の降る米国ユタ州・ソルトレークシティで開催されました。
Qualtricsは、研究目的のサーベイから「体験管理(eXperience Management:XM)」という新しい分野を生み出した注目のベンダーです。2019年、80億ドルという値段をつけてSAPにより買収されますが、2021年にIPO。その後、SAPは保有株式をすべて売却しています。巨額を手にした創業者一家で現在、会長を務めるRyan Smith氏は、地元のバスケットボールチームUtah Jazzのオーナーになりました。ユタ州ではちょっとした有名人です。
今年のX4のテーマは「Make Business More Human(ビジネスをもっと人間らしく)」。全世界から1万人が参加し、XMをどのように活用するのかなどをテーマに、100以上のセミナーが開催されました。
体験は顧客だけでなく従業員も含まれます。同社の基盤となるプロファイルデータ「エクスペリエンスID」(XiD)は110億件も作成されているそうです。2019年は12億件だったというので、3年で9倍となっています。
同社のCEO Zig Serafin氏は、基調講演で生産性ツールのように、あらゆる社員が業務の一環としてXMを使う将来を描きます。イベントでの最大の発表は「Qualtrics XM for Frontlines」。顧客と接する顧客サービス担当が、人工知能(AI)や機械学習を使って最適なタイミングで最適な行動をとるのを支援するというサービスです。
基調講演で印象深かったのは、デルタ航空のCEO Ed Bastian氏。話の中で、顧客体験の1つとして提供する機内Wi-Fiに触れました。最近、米国系航空会社は機内Wi-Fiに力を入れています。ユナイテッド航空はメッセージを無料にしていますが、デルタ航空の場合は10億ドル以上を投資して機内Wi-Fiを整備し、国内線のWi-Fi無償化に踏み切りました。
重要なのはここからです。せっかく無償化してもWi-Fiが遅い場合は、逆に体験はマイナスになります。十分な速度であることは重要だったと振り返ります。この話を聞きながら、随分前に別の航空会社の機内Wi-Fiを使った時、速度が遅く制限時間ばかりを気にしていたことを思い出しました。確かに、ネットワークのイライラは体験を大きく損ないます。
デルタ航空はWi-Fiサービスを通じて同社のマイレージプログラムへの加入を促すわけですが、効果は出ているようです。現時点で無償化は米国内のフライトにとどまりますが、国際線に拡大する計画もあるようです。
さすが体験の会社をうたうだけあり、X4はイベント体験を大事にしています。それを支えるのが「Dream Team」と呼ばれるメンバー。イベントのアプリからDream Teamにリクエストを送ると、あらゆる要望に対応してくれます。本年は期間中に、スタバのコーヒーを配達したり、「誕生日の顧客がいる」というリクエストを受けて誕生日ケーキを届けたりといったことをしたそうです。
実は、私にとってもQualtricsのX4は、ちょっとした思い入れのあるイベントです。ちょうど2020年の年初、3月にソルトレークで開催されるX4への参加が決定し、フライトやホテルを手配したタイミングで、世界中が一気にコロナ禍に。それもあり、今回のイベントは4年前を思い出しながら参加しました。改めて、世界中からこうやって集まれるようになったことを喜び、機会に感謝をしたいと思います。