飲食店が通販を始めるには食品に応じた許可が必要
飲食店を始める際に取得した飲食店営業許可は、食品衛生法に基づいている。飲食店営業許可は、基本的に店内での飲食や提供から短時間で消費されることが前提で、ネットを含む通販には別の営業許可が必要なものがある。知らずに違反してしまうと、懲罰の対象となるので注意しよう。
食品関連の営業許可にはさまざまなものがあるが、その中から取り扱う食品に応じて取得する。飲食店の通販では、製造や販売に関するものの営業許可が必要になることが多いだろう。取得しなければならない営業許可は全国でおおむね一緒だが、都道府県によって必要な許可が異なるため、管轄の保健所への確認が不可欠だ。
通販に必要な許可一覧
営業許可が必要なものは、食品衛生法で以下のように定められている。東京都の場合を見てみよう。
分類 | 業種 |
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調理業 |
|
飲食店の基本になるのが、飲食店営業許可だ。この営業許可で認められているのは、食品を調理または設備を設けて顧客に飲食させることだ。2の自動販売機については、飲食店営業として扱われていた調理機能つきの自動販売機を独立させた格好だ。ただし、通販ではないため詳細は割愛する。
分類 | 業種 | 対象例 |
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製造業 | 1. 菓子製造業 | ケーキ、あめ、せんべい、ガム、パンなど |
2.アイスクリーム類製造業 | アイスクリーム、アイスシャーベット、アイスキャンディーなど | |
3.乳製品製造業 | クリーム、バター、チーズ、練乳、粉乳、発酵乳等の乳製品および乳を主原料とする食品 | |
4.清涼飲料水製造業 | クリーム、バター、チーズ、練乳、粉乳、発酵乳等の乳製品および乳を主原料とする食品 | |
5.食肉製品製造業 | ハム、ソーセージ、ベーコンなど | |
6.水産製品製造業(新設) | 魚介類や水産動物、またはその卵を主原料とする食品、およびそれらを使用したそうざい | |
7.氷雪製造業 | 氷 | |
8.液卵製造業(新設) | 鶏卵から卵殻を取り除いたもの | |
9.食用油脂製造業 | 動物性・植物性の食用油脂 | |
10.みそまたはしょうゆ製造業 | みそ、しょうゆ | |
11.酒類製造業 | 酒 | |
12.豆腐製造業 | 豆腐 | |
13.納豆製造業 | 納豆 | |
14.麺類製造業 | 麺類(生・ゆで・乾燥) | |
15.そうざい製造業 | 煮物、焼き物、揚げ物、蒸し物、酢の物、あえ物など | |
16.複合型そうざい製造業(新設) | そうざい製造業と併せて食肉処理、菓子製造、水産製品製造(魚肉練り製品製造を除く)、麺類製造ができる | |
17.冷凍食品製造業(新設) | そうざい製造業の範囲での冷凍食品 | |
18.複合型冷凍食品製造業(新設) | 冷凍食品製造業と併せて、菓子製造、水産製品製造(魚肉練り製品を除く)、麺類製造の範囲での冷凍食品 | |
19.漬物製造業(新設) | 漬物または漬物を主原料とする食品 | |
20.密封包装食品製造業 | レトルトパウチ食品、缶詰、瓶詰など | |
21.食品の小分け業(新設) | 食品の小分けおよび包装 | |
22.添加物製造業 | 食品衛生法が定める添加物 |
2021年6月1日から、改正食品衛生法が施行され、許可の統合や新設が行われた。ここで掲載している対象例は一例のため、詳しくは厚生労働省のサイトまたは管轄の保健所に確認が必要だ。
分類 | 業種 | 対象例 |
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処理業 | 1. 集乳業 | 生牛乳または生山羊乳を集荷・保存 |
2. 乳処理業 | 牛乳、殺菌山羊乳、脱脂乳、加工乳の処理または製造 | |
3. 特別牛乳搾取処理業 | 特別牛乳の搾取および処理 | |
4. 食肉処理業 | 獣畜をと殺もしくは解体、または解体された鳥類の肉・内臓等の分割・細切り | |
5.食品の放射線照射業 | 放射線照射(ばれいしょのみ) |
分類 | 業種 | 対象例 |
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販売業 | 1. 食肉販売業 | 獣鳥の生肉(骨・臓器を含む) |
2. 魚介類販売業 | 店舗での鮮魚介類(鯨肉を含む)販売 | |
3. 魚介類競り売り営業 | せりの形態による魚介類の販売 |
処理業と販売業では、改正食品衛生法による大きな変化はない。なお、特別牛乳とは、加熱処理していない無殺菌または低温殺菌の牛乳を指す。
許可取得に必要な準備とその流れ
通販に必要な営業許可を取得するための準備とその流れを見ていこう。
保健所の許可を取得する
飲食店が通販を始める際の営業許可も、保健所の所長名で発行される。管轄の保健所に相談するところから始めよう。申請から許可には通常、約2週間かかるため、その期間を見込んで計画することをおすすめする。大まかな流れは、以下のとおりだ。
- 通販で販売する商品を考え試作する
- 梱包や配送方法を決める
- 保健所に相談し、改善事項があれば対応
- 保健所に許可申請を提出する
- 許可証が発行される
食品表示のラベルを作成する
通販で販売する食品には、食品表示法による食品表示が義務づけられている。食品表示(食品ラベル)に記載しなければならない情報は、販売する商品によって異なる。違反すると懲罰の対象となるため、忘れずに準備しよう。
対象 | 表示事項 |
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農産物・畜産物・水産物 |
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玄米および精米 |
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加工食品 |
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加工食品の中でも、特定の原材料やそれを含む添加物を使用している場合には、アレルゲンを表示する必要がある。
強みを活かして販売力を強化しよう
コロナ禍の影響で、店舗での売上が思ったように上がらないという飲食店は少なからずあるだろう。その一方でEC需要は引き続き好調を示している。矢野経済研究所の調査によると、2021年度の国内食品通販市場規模は、小売金額ベースで前年度比2.9%増の4兆4434億円だったとしている。(「食品通販市場に関する調査を実施(2022年)」(矢野経済研究所)市場の約4割を占めるのがショッピングサイトだ。
顧客のニーズに変化が表れていると分析。新型コロナウイルスが日本で大きな影響を見せ始めた2020年の春先のような、生活必需品を買い込むような買い方ではなく、より上質なグルメやスイーツなどへとニーズがシフトし、生活を楽しむ傾向が見られるという。それに加えて、食品ギフトの需要も増加。飲食店にとっては、通販市場が経営の追い風になっている現状だといえるだろう。
来店客中心の飲食店経営は、売上の変動が激しくなるという一面を否定できない。店舗でよく売れる商品を通販用にアレンジする、顧客からの要望に応じて商品を開発するなど、自社の強みや特徴を活かす方向で考えてみてはいかがだろうか。通販が売上を支えるもうひとつの柱になれば、きっと心強いはずだ。