1976年、原宿にわずか6.5坪の店舗として始まったビームス。常に若者のファッションをリードし、流行の最先端を走り続けてきた同社は、今では国内に約150店舗を構え、台湾や香港など海外進出も果たしている。
同社がECを開始したのは2005年。当初はモールに出品する形で物流も 外部委託していたものの、顧客の姿が見られないという課題や、自社の得意とする上質な接客サービスの力を活かせないことなどから、自社でECサイトを構築、さらには物流業務までを賄うことを決断する。スタート時からECチームを牽引している、開発事業本部 EC統括部 副部長の矢嶋正明さんに、同社のECと配送の連携についてお話を伺った。
順調な売上を見せたEC事業 しかし抱えていた複雑なジレンマ
企業がECを行う際、その形態はさまざまである。それは事業規模によることが多く、当初は大手モールに出店、次にECサイトを内製し倉庫や物流を外部委託、最終的にはそのすべてを自社で完結させるという流れだ。
セレクトショップとして40年以上の歴史を誇り、絶大な人気と信頼を誇るビームスも、その流れを汲んできた事業者の1つである。同社は2004年、東京都江東区に「BEAMS WARE STATION」などを完成させているが、これはセンターから店舗に商品を配送する物流拠点として作られたもの。約13年を経た現在もビームスの物流の心臓部だが、当初はECに最適化されて作られたものではなかった。
ビームスがBtoCのEC事業に乗り出したのは、翌年の2005年。スタートトゥデイが運営するZOZOTOWNに新規出店したのを機に、同社とフルフィルメントの形で提携した。
「これはどんなECモールに言えることですが、ECをご利用くださるお客様は、すべて『そのモールのお客様』です。売上がどんどん伸びていくのは嬉しいことですが、実際にどのような方が購入してくださっているのかは、統計的なデータでしか 把握できませんでした。お客様によりよいサービスを提供したいという思いが高まるにつれ、販路がECモールだけに限られることに行き詰まりを感じ始めていました。やはり、自社ECサイトを構築し、正しくお客様のことを知るべきだという思いが募ってきたのです」(矢嶋さん、以下同)
矢嶋さんは、インターネットでのECが一般化する前から店舗スタッフとして活躍していた人物。20代の頃には銀座の店舗で高級スーツを扱うなど、「接客」や「コミュニケーション」に関する経験が豊富で、これらを重要視している。当時から顧客との関係性、いわゆるLTVを意識していたという矢嶋さんは、ECでもそれを最大化させていくことが有益だと感じていたのだ。
自社ECサイトの必要性を痛烈に感じた矢嶋さんは、その実現のためほぼ1人で企画・提案を行い、会社と掛け合った。そして2009年3月、ついに開始に至ったのである。ただし、当時は在庫確保の問題からZOZOTOWNと一元化しての自社EC運営であった。完全に自社ECの内製化が実現したのは、2016年5月で7年かかった。
2016年9月、商品・イベント情報等のニュースを発信する「BEAMSオフィシャルサイト」と、直営のEC サイト「BEAMS Online Shop」を統合。販促&販売のシームレスな連動だけでなく、全国の販売スタッフが独自の視点で商品を紹介するブログなど、独自のコンテンツも注目を集めている。
そして、ビームスのEC事業における姿勢は、ECのBtoC物流業務をも自社で行うようになった現在も変わることがない。同社では、システム、カスタマーサポート、物流センター、およびEC担当者と撮影班といった各チームの関係者が最低でも月に2回集まり、毎回2~3時間に及ぶミーティングを行っているという。