総合マーケティングビジネスの富士経済は、人手不足やEC利用増加にともなう多品種、多頻度、小口配送への対応が課題となっており、省人化や効率化を目的とした自動化ニーズに対応する次世代物流システム・ビジネスの市場を調査。その結果を「次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望 2020」にまとめた。
同調査では、次世代物流システムとしてロボティクス・オートメーション10品目、ロジスティクス・ファシリティ9品目、ラストワンマイル4品目、IoT8品目、AI4品目、また、次世代物流ビジネスとしてRaaSや通販フルフィルメントサービスなど4品目の市場を調査・分析し、将来を展望した。調査結果の概要は、次のとおり。
物流業界では、人手不足やEC利用増加に伴う多品種、多頻度、小口配送への対応が課題となっており、省人化や効率化を目的に自動化ニーズが高まっている。AMR(協働型ピッキング支援ロボット)やソーティングロボットシステム、AI再配達回避ソリューション市場の立ち上がりやラストワンマイルを解決するうえで鍵となる無人宅配・配送ロボットの実証実験が開始されるなど市場は活性化。2020年の市場は新型コロナウイルス感染症の影響により縮小する品目もみられるが、前年比1.2%増が見込まれる。今後も人手不足や巣ごもり需要によるEC利用増加が市場拡大を後押しするとみられる。
ロボティクス・オートメーションでは、ピッキングやデパレタイズなど自動化が困難であった工程にロボットの導入が進んでいる。2020年はAMR(協働型ピッキング支援ロボット)の市場が立ち上がり、作業者の負担削減を目的に注目されている。また、多品種少量生産や季節波動に対応するため、フレキシブルなレイアウト対応ニーズが高まり、ガイドレスAGVやAGF(無人フォークリフト)が伸長しているほか、EC利用増加による物流センターでのローラーコンベア採用拡大にともない、モーターローラーの需要が増加している。
ロジスティクス・ファシリティは、ECの利用増加にともない市場が拡大。立体自動倉庫システムの規模が大きく、市場をけん引している。2019年にソーティングロボットシステムの市場が立ち上がり、多品種、高頻度配送への対応として、レイアウトの自由度や機動性を実現する製品として需要が高まっている。また、作業者の負担を軽減する倉庫ロボットシステム(棚搬送AGV)が注目されており、今後高い伸びが期待される。
ラストワンマイルは、分譲マンションを中心とした集合住宅向けの宅配ボックスが市場をけん引している。物流向けドローンや無人宅配・配送ロボットは、法律の整備や参入企業の増加により伸びるとみられる。
IoTは現状、ハンディターミナルやWMS・TMSを中心に市場が形成されている。物流向けIoTプラットフォームを筆頭に、工場、倉庫、輸配送、販売までのサプライチェーン全体をカバーするシステムやソリューションの普及により需要のすそ野が広がっている。物流現場の見える化や業務効率化のニーズが高まっており、今後導入が加速するとみられる。
AIは、省人化を目的に導入が進んでいる。ECの利用増加にともない多品種少量の在庫管理やさまざまなサイズの配送物が増加しており、AIを活用し商品サイズなどを認識するニーズが高まっていることからAI画像認識活用物流システムの需要が増加している。業務標準化や新技術開発、省人化ニーズを追い風に、今後市場は急拡大するとみられる。
RaaS(Robot as a Service)、通販フルフィルメントサービス、倉庫シェアリング、トラックシェアリングを対象とする。
トラックシェアリングや倉庫シェアリングへの参入企業が増加しているほか、2019年にはサブスクリプション型のサービスであるRaaSの市場が立ち上がるなど市場は活性化している。2020年はRaaSや通販フルフィルメントサービス、倉庫シェアリングは伸長したものの、新型コロナウイルス感染症の影響によりトラックシェアリングが落ち込み、市場は前年比2.5%減が見込まれる。当面は国内販売が中心となるものの、今後はシェアリングビジネスの海外展開も始まるとみられ、市場成長が期待される。
注目市場
AGV(Automated Guided Vehicle)は、主に製造現場において部品や半製品、完成品の搬送に利用される自律走行型の無人搬送車。
2019年は、米中貿易摩擦の影響により海外販売が伸び悩み、市場はほぼ横ばいとなった。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響により設備投資が抑制され、市場は縮小するものの、2020年後半から省人化や非接触などをキーワードに引き合いは増加している。新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、物流やサービス産業など製造業以外でも注目されていることから、今後も市場拡大が期待される。
物流倉庫内のピッキング工程において、人と協働しながら作業支援を行う自律型のロボットを対象とする。
2020年に市場が本格的に立ち上がっている。ECの物流倉庫は商品の入れ替わりやオーダーが随時変更となるため、すべて自動化することは難しく、人と協働し、柔軟性が高く、レイアウトの変更などにも対応できるAMRへの注目が高まっている。現在、導入実績は少ないものの、今後実績を積み重ねることで市場は拡大するとみられる。
架台を設置し、小型のAGVを走行させ商品を搬送し、短期間に大量の仕分け作業を実現するロボットシステムを対象とする。
2019年に市場が立ち上がった。物量に合わせてAGVの台数や架台設置面積を変化させることが可能で、従来の固定型のソーターにはない高い柔軟性と機動性からアパレル業界や通販業界などで導入が進んでいる。2020年の市場は前年比5.3倍が見込まれる。これまでにない新しい設備に対して導入が好調であることから、今後も市場拡大が期待される。
物流現場における在庫管理や入出庫管理を行うソフトウェアであるWMS(Warehouse Management System)と、輸配送車の配車計画や運行管理、貨物の追跡を行うソフトウェアであるTMS(Transportation Management System)を対象とする。
WMS・TMSは、物流業務の効率化ニーズの高まりや、ECの利用増加にともなう倉庫内作業や業務の複雑化、ベテラン作業員の不足などを背景に導入が進んでいる。2018年は物流業や製造業など国内景気が上向いたことで、市場は大幅に拡大した。2019年以降、伸びは鈍化しているものの、WMS・TMSに対するニーズは依然として高い。導入が容易なクラウドタイプのWMSにより、ユーザーのすそ野が広がっている点も、市場拡大を後押ししている。今後はデータ活用の高度化、基幹システムやマテハン機器との連携、さらなる機能拡充により、市場拡大が期待される。
トラックドライバー待機時間や入出荷作業負荷の増大、荷待ちトラックによる渋滞を解消するために、トラックの予約・受付や車両誘導、車両入退管理などを行うソフトウェアを対象とする。
バース管理システムは、近年社会問題となっているトラックドライバーの長時間労働や待機時間の問題、労働環境の改善を背景に需要が増加している。市場形成から間もないため認知度が低く、現状では限定的な導入にとどまるものの、今後は政府の施策も後押しすることで、市場拡大が期待される。特に、物流業界における労働環境の改善などに取り組むホワイト物流推進運動にて同システムが推奨されていることや、2024年の改正労働基準法の適用に向けて、採用が進むとみられ、参入企業各社は提案活動の強化やアライアンスによるサービスの高度化に向けて取り組んでいる。
物流向けと対象物流施設内のピッキングの補助やソーティングを行うロボットをハードウェア以外のソフトウェアや保守・メンテナンス、コンサルティングなどをパッケージにして、提供するサービスを対象とする。
省人化や生産効率の向上を目的に、低コストで手軽に導入可能なことから需要が増加している。2019年に市場は立ち上がったばかりであるが、人手不足を背景とした自動化ニーズやECの利用増加を追い風に市場は拡大するとみられる。
調査概要
- 調査方法:富士経済専門調査員による参入企業および関連企業・団体などへのヒアリングおよび関連文献調査、社内データベースを併用
- 調査期間:2020年9月~11月
- 調査対象: