光より速く!ふたつのデータのチューニングで最適な検索結果を実現
出張さんは、大学在学中にコンピュータサイエンスを学び、データ分析に興味を持ったことから、位置情報のデータを取り扱う企業に就職。ウェブの世界に携わるうち、検索エンジンへの関心が高まっていった。
「ウェブの検索は、1秒でもお待たせするとお客様が離れてしまう難しいものですが、少しのチューニングで大きく改善できるのが特徴です。そういう、自分の実力が露骨に反映される世界に飛び込んでみたいと思い、サイト内検索ソリューションの老舗であるZETAに入社しました。1秒の違いが大きいと言いましたが、1秒は意外と長く、光なら地球を7周半する時間です。私たちは、光より速い世界で勝負しているのだという意識で取り組んでいます」
検索結果の表示速度を上げるには、ウェブだけでなくインフラやOSなど、幅広いプログラミングの知識が必要になると言う。いかに検索結果を表示する速度を上げられるか、ZETAの開発者たちは大学の研究室のように日々取り組んでいるそうだ。出張さんは、こうした技術的な知見と意欲、そしてクライアント企業とのコミュニケーション能力を買われ、技術部門の執行役員と、エンタープライズ事業部の副部長に抜擢。ますますの活躍が期待されている。
そんな出張さんに話題のAIも取り入れているのか尋ねると、出張さんのような専門家から見ると、現在のAIの盛り上がりは「ふんわりしていて答えにくい」とのことだ。
「AIを広い意味で捉えれば、当社では10年以上前から活用しています。日本語は単語として分割するのが難しい言語なので、その分割にAIを使うんです。今話題になっているのは、碁のように従来活用していなかった分野で成果を上げたからで、広い意味でのAI自体はそれほど目新しいものではありません。当社でも、商品検索の精度を上げるのはもちろん、『レビューエンジン』など新サービスにも積極的に取り入れていく予定です」
EC事業者にかかわるところでは、事業者側のデータの持ちかたも検索結果の速度を左右する。前回のZETA代表取締役社長 山崎徳之さんのインタビューでも、同社のソリューションを導入する際に、プロジェクトの6~7割の時間を「データ構造の決定」に割いているとの話があった。基幹システムへの介入など組織を超えたデータ整備が必要になるほか、どのような検索結果を表示するかで、ユーザーの買いたい気持ちを左右するからだ。
「検索のために使うデータと、検索の時に返すデータ、ふたつのデータのチューニングが必要です。商品マスターなどの情報をいただき、先述のふたつのデータを作ります。クライアント企業は自社で管理しやすいようにデータをお持ちで、それがそのまま商品検索に最適な形のデータではないからです。わかりやすく区別するために、SKUとFKUという使い分けをしています。SKUは、在庫を管理するためのStock Keeping Unitの略ですよね。FKUのFは、Face、実際に見える部分という意味で使っています。ユーザーに見せる、検索結果を表示するのに最適な持ちかたでデータを管理するのがFKUです。
検索結果の見せかたについては、クライアントからイメージをいただきますが、それとは異なるものをご提案することもあります。クライアントは商品についてのスペシャリストではありますが、検索に対するスペシャリストは我々だという自負を持って仕事をしており、よりよい検索結果をご提案したいからです。同業他社の事例を聞かれる場合もありますが、たとえば同じファッションで、『シャツ』の検索結果を考えても、最適な表示は企業様ごとに異なります。クライアントごと、最適な商品検索が実現できればと考えながら、打ち合わせに臨んでいます」
スマートフォンが変えた、最適なECの商品検索
表示速度の改善、EC事業者ごと異なる検索結果の見せかたなど、ZETAの探究は続くが、目下、出張さんが取り組んでいる課題は、スマートフォン対策だ。
「もっともっと、スマートフォンに特化していかなくてはと考えています。自身の行動を振り返っても、パソコンで検索する場合とスマートフォンで検索する場合では、まったく目的が異なりますよね。そして、パソコンを中心に作られたサイトの検索結果は、スマートフォンでは非常に見にくい。たとえば、パソコンで『シャツ』を検索した場合、出てきた検索結果をすべてクリックしてページを開いておき、じっくり比較しながら見るという行動をとることが多いのではと思います。一方、スマートフォンはその作業がしにくいので、上から順番に見ていくしかなく、数アイテム見たところで離脱してしまうのではないでしょうか。
パソコンでもスマートフォンでも、求めている商品が上部に出てくるのに越したことはありませんが、スマートフォンのほうがよりそのニーズが高い。スマートフォンは、アクションが少なければ少ないほど購買につながりやすいので、そこを意識して商品検索を作っていかなくてはと考えています。とくに力を入れるべきなのは『キーワード検索』です。スマートフォンでキーワード検索するユーザーは、ピンポイントでその商品を求めているので、正確にたどり着けるようにする必要があるからです」
そう述べながらも出張さんは、そのキーワード検索の手間すら省かせたいとの野望を持っている。
「よく検索されているキーワードを出すサジェスト機能はもちろん、ユーザーが見ている商品の傾向などから、そのユーザーが次に検索するワードが予測できると思います。たとえば、Facebookの検索の入力欄にカーソルを置くと、前回検索したユーザーが出てきますよね。それは、Facebookで行う検索は、ユーザーを探していることが多いからです。こういったことをECサイトでも実現したいと考えています。表示すべきは、キーワードでなく、実際の商品かもしれない。こういったことができると、スマートフォンでの商品検索がひと味違ってくると思います」
手間を省く究極系なら、購買履歴データ等をもとにしたパーソナライズはどうだろうと発想するが。
「あまりパーソナライズしすぎても、分断されてしまうというか……。ECサイトでの私たちの行動って、ごく一部ですよね。たとえば、街を歩いていて偶然に口紅の広告を見かけ、『いいな』と思ってネットで調べ、ECサイトで買ったという行動があるでしょう。その行動についてECサイト側でわかるのは、そのユーザーが『口紅』と検索してたどり着いたということだけであり、街を歩いていて偶然広告を見たといったことはわからないわけです。こうした一部の行動だけをベースにしてパーソナライズするというのは、無理があるのではと考えています」
人はどのようにスマートフォンで検索し、購入までの行動を行うのか。新しいデバイス、カルチャーだけに、これが正解というものはない。そういった不確定要素が多い環境の中で、スマートフォンでの検索結果のあるべき姿を、出張さんはどのように見つけていくのだろうか。
「自分の体験や想像もありますが、実際にECサイトにおいて、ユーザーを特定せず全体の傾向として、スマートフォンとパソコンでどのように使われかたが異なるのかの調査も行っています。それにより、スマートフォンのECでは『絞り込み』があまり行われない傾向にあることがわかってきました。たとえば、家電のECサイトをPCで見ると、『エアコン』『空気清浄機』といった商品カテゴリが左側に並んでいますよね。スマートフォンサイトでは、こうしたカテゴリをボタン等で設置しているサイトもあるのですが、調査結果を見ると、あまり使われていません。
実際に自分が、冷蔵庫が欲しいと思ったときにスマートフォンをどのように使うか考えると、家電ECサイトのトップから、カテゴリで絞り込んでいくという行動ではなく、『冷蔵庫』というキーワードで検索するなと思います。このような例からも、これまでのパソコンサイトでの商品検索が、スマートフォンでは使われにくいため、スマートフォンに特化した商品検索にしていかなければならないと思います。今後も、スマートフォンならではの商品検索の傾向を探していきたいと考えています」
商品検索もオムニ化へ 位置・在庫情報をリアルタイムに正確に
スマートフォンとも関連してくるが、もうひとつ、出張さんが注目しているのはオムニチャネルだ。
「今後、実店舗を持つ企業様はオムニチャネルの方向へ流れざるを得ないと考えています。自社で流通を持っているからこそ、別の店舗から在庫を引っ張ってきたり、『近くのお店に取りに来てくだされば、こんなものもありますよ』と、宅配コストを下げ、来店を促す施策も打てるようになる。結果的に、会社全体の売上アップにつながるはずです」
そうなると、位置情報や実店舗も含めた在庫のリアルタイム連携など、商品検索に求められるハードルも上がってくる。
「当社の商品検索ソリューションの強みは、柔軟性です。クライアント企業からできる限りすべての、最新のデータをお預かりし、企業とユーザー双方にとって、最適な検索結果を表示できるように取り組んでいます。オムニチャネルな商品検索には、ユーザーと店舗の位置情報と、ECだけでなく実店舗のリアルタイムな在庫情報が必要です。両方あってはじめて、『今、あなたが求めている商品はここで購入できます』という結果を表示することができる。今後、オムニチャネル化が進んでいくと、その瞬間、ユーザーが求めている商品の情報を正確に提示できなければ、ユーザーは離れていくでしょう。当社はこれまで、検索結果の表示速度の精度を高めてきましたが、今後はそれに加え、位置情報と在庫情報のリアルタイムで、かつ、正確な情報をお届けできるよう努めていきます」
前職で位置情報関連の仕事をしていた出張さんの活躍が、ますます期待されるわけだ。
「5年以上前からOnline to Offlineと言われ、『Foursquare』や『Ingress』、そして『Pokémon GO』といったアプリやゲームが登場、そして在庫を持った企業がたどり着いたのがオムニチャネル、という流れだと考えています。オムニチャネルに取り組むと、一時的にECサイト単体での売上は下がるでしょうが、先進的なクライアントからは『ECと実店舗を別々に考えている時代ではない』というお声を聞きます。当社のソリューションの導入企業様では、たとえばコメ兵様はすべてのお取り組みの大前提にオムニチャネルがありますし、2017年11月にオープンしたファッションECモール『 &mall(アンドモール)』様も、当初から実店舗との在庫連携が決まっていました。今、引き合いをいただいている企業様からも、『オムニチャネルを進めていきたい』とお声がけいただいています」
カスタマイズによる柔軟性が強みのサイト内検索・EC商品検索エンジン『ZETA SEARCH』。2018年は、2017年5月にリリースしたレビューエンジン『ZETA VOICE』との連携が加速するとのこと。
「企業が『この商品はこんなにいいんです!!』と訴えても響きませんが、ほかのユーザーのレビューで絶賛されていれば響くものです。商品検索の結果にレビューも表示されたら、さらに説得力が増しますよね。当社が提供するソリューションは、ユーザーとクライアント企業の距離を縮めるための道具であり、目指しているのは消費行動をもっと良くしていくこと。その視点で、今後もそれぞれのソリューションの精度を高め、かつ連動も促進していきたいと考えています」(了)
今回記事に登場したZETAのソリューションはこちら!
ユーザーの欲しいに応えて「接客」するサイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」