EC75,000店舗を支援するGMOインターネットグループ
MakeShopとカラーミーショップはともに、サービス開始10年を超える老舗のネットショップ作成・運営サービスだ。MakeShopは個人から大塚家具や富士フイルムなどの大企業まで、広く使われている。2015年度の年間総流通額は1,384億円で、モールではない独自ドメインのネットショップ運営サービスの中では、4年連続1位をキープしている。
一方、カラーミーショップは、「月額900円から使える低価格」を売りに、柔軟なデザイン機能や、個人に優しいさまざまな機能により、多くの個人・中小企業に支持され、国内の有料ネットショップ運営サービスの中では最大の約59,000店舗に利用されている。
企業にも多く活用されているMakeShopと、オリジナル性の高い店舗が目立つカラーミーショップと各サービスに特色はあるものの、同社グループは2サービスを合わせて約75,000店舗を抱え、楽天市場の店舗数を遥かに凌ぐ。
今回は、MakeShopを運営するGMOメイクショップ 代表取締役社長 向畑憲良さんと、カラーミーショップを運営するGMOペパボ 取締役 兼 EC事業部長 星隼人さん、モデレーターのECzine編集長 倭田須美恵の3名で、『今考えるべきネットショップ5つの生存戦略』と題し、中小規模のEC事業者が今後、やるべきこと・やらなくてもいいことを語った。
スマホ主流になっても集客はSEOとメルマガで
ひとつ目のトピックは「スマホ対応」と「アプリ」だ。MakeShopでは、トラフィックの6割がスマホからのアクセスとなっているが、スマホでのコンバージョンはPCの3分の1であり、顧客単価も低いという。しかし、今後の可能性や伸び率を考え、スマホ対応はマストで行うべきと向畑さんは言う。
スマホの強みはなんといってもアクセスの簡単さ。そのスマホにおいては、いかに他店舗よりもアクセスを集めるかという「集客」が重要な課題である。
「スマホ主流になった今も、集客のメインはPCと同じくSEOとメールマガジン。結局、検索経由の売上は大きいし、家電なら『価格.com』対策がもっとも効果があるということもPCと変わらない。メールマガジンに関しては、スマホになって、メールを読まない人が増えたという意見もあるが、メールマガジンツールを導入した店舗は100%売上が上がっている。本当に売ろうとしている店舗は、今でも積極的にメールマガジンを打っている」(向畑)
「地方の特産品や、唯一無二のオリジナリティのある商品は、検索キーワードがニッチなのでSEOだけでは成り立たない。SNSやメールマガジン、サイト全体の世界観を統一し、ファンを囲い込むことが重要」(星)
囲い込みという点においては、プッシュ通知があり、起動も便利なアプリは有利と言える。しかし、中小規模のEC事業者にとっては、開発コストやアプリをダウンロードさせるための労力は解決しがたい問題だ。アプリ開発に挑む前に、ウェブサイトの改善や、メールマガジンやSNSなど既存のツールを使い、スマホでの集客と囲い込みに注力するべきというのが、両者の共通する意見だった。
速配恐れるに足らず!優秀な日本の配送サービスを活用せよ
2つ目のトピックは「物流」。Amazonをはじめ、速配を売りにした大手EC事業者が目立つ中、中小規模のEC事業者が生き残るために行うべきことは何なのか。
「日本の配送会社は素晴らしく、東京で当日の夕方に渡しても、本州のほとんどの場所に、翌日の午前中に届く。つまり本来は、どの店舗も『翌日お届け』サービスを行うことができるはずだ」(向畑)
ただし、やはり中小規模のEC事業者にとって、24時間いつでも配送対応をするのは難しい。それならばやりたいのは、「当日出荷受付時間」をサイト上に明記すること。オペレーションを考え、当日中に配送会社に渡すための時間を逆算すれば、どのサイトでも「翌日お届け」の表示をすることは可能なはず。しかし、その対応をしているネットショップは意外と少ない。
「オリジナル商品は、メールでのやり取りや、サイトでの心配りによって、届くまでを楽しみに待ってもらえる世界観を演出することも大切。たとえば、埼玉県深谷市内ならネギが30分で届きますよといった、地域限定で速配を演出するのも面白いかもしれない。モールではない独自店舗にとって一番大切なのは、お店のオリジナリティ。大手にはかなわない速さを独自性でカバーすることにより、物流での弱点を、そのお店の魅力に変えることができるのではないか」(星)
「本当に急いでいる人には電話窓口を設定することもできる。オリジナル商品にとって、実際にニーズがあるのは、速配よりもきちんとお届け日時を設定できることだったりもする。そういった細かな配慮で、大手EC事業者の速配に対抗することは十分できるのではないか」(向畑)
最近では、受け取り側が配送日時を設定できるサービスを開始する配送会社もある。日本の優秀な配送会社を味方に、中小規模のEC事業者が生き抜く術はまだ多くありそうだ。
エンタメ商材・保税区出店。海外販売を成功させる中小ECとは
3つ目のトピックは「越境EC」。インバウンド観光客による爆買いやアリババが運営する「天猫(Tmall)」などが話題になる中、海外のIPからのアクセスの増加を目の当たりにし、漠然と海外対応しなくてはいけないと焦る、中小規模のEC事業者も多いのではないか。
しかし、言語・決済・物流など多くの壁がある越境ECは、多くの中小EC事業者にとってはまだまだハードルが高い。
「エンタメなど、海外に強いジャンルは積極的に行うべきだとは思う。ただ、もし、自分たちのサイトを越境EC対応させることが難しいと感じているのであれば、まずは海外向けのモールに出店してみるというのもひとつの手かもしれない」(星)
「エンタメ、ホビー、アパレルジャンルでは海外でも売れている。中国の保税区に商品を送り、越境ではなく中国の国内配送にして、配送費や時間を短縮し成功しているネットショップもある。そういうジャンルのネットショップはもちろん頑張るべきだと思う。ただ、それ以外のジャンルで越境ECがうまくいっている事例は、正直まだ少ない。無理に行うよりは、国内の販売に集中するほうが良いと思う」(向畑)
ネットショップ戦国時代にSNSを使わないのは言語道断
4つ目のトピック「SNS」に関しては、両者とも導入を強く勧める。無料ECサービスの盛り上がりも追い風になり、ネットショップの数は飽和状態だ。その中で、SEOだけでアクセスを獲得し、そこからファンを作ることは難しい。そういった中での集客にSNSは欠かせない。
「ネットショップを作ったら、すぐにTwitter、Facebook、InstagramといったSNSを作るべき。投稿は、1日1回でも少ない。朝昼晩と投稿して、ファンを獲得してほしい。会員登録、メールマガジン、購入はその次のステップ。まずは、顧客との接点を増やすためにSNSを地道に運営することが大切」(星)
しかし、TwitterやFacebookは広く活用されるようになってからすでに数年経っている。サービスの黎明期に比べ、無料でフォロワーやいいね!数を増やすことは難しくなっている。TwitterやFacebook内で広告出稿をすることに対しては、どう考えるのか。
「フォロワーやいいね!数を増やす目的であれば、基本的にSNS広告はやらなくていい。アパレル・雑貨・アクセサリーといったSNS広告に親和性の高い商材は別だが、ほとんどの商材はターゲティングが難しく、うまくいかないことが多いと思う。実際、リスティング広告のほうが効果を出している」(向畑)
「ニッチな商材で属性を絞って広告を配信できるのはSNS広告の良いところ。ただ闇雲に打ってはいけない。動画広告も注目されているが、ほとんどの店舗は作る時間がない。まずは地道なSNS活動をあきらめずに行うことが大切」(星)
運用コストは積極的に自動化し、独自の集客に時間を使う
最後のトピックは、「AI・ウェブ接客・MA~テクノロジーとツール」。海外のネットショップでは、ユーザーの属性にあわせたクーポンが表示されたりと、積極的に新技術が使われている。新しい取り組みを行う外部サービスと、次々に連携をしているMakeShopとカラーミーショップだが、両者とも、闇雲に新しい技術を取り入れればいいわけではないと語る。
「複雑なシステムを使って売上を上げるよりも、注文管理や日々の運用を自動化することにこそ新しい技術を使うべき。少人数で運営する中小規模のEC事業者は、運用・管理にかかる人的コストの削減を積極的に行い、空いた時間で、SNSなど集客に力を入れては」(向畑)
テクノロジーやツールの活用により、受注管理やルーティーン業務の時間を短縮。空いた時間で、SNSやメールマガジン、サイト構成の改善に力を入れることにより、ファンを作り、独自の価値を生み出していくことが、中小規模のEC事業者にとって大切なことなのだ。結びもこの独自性の大切さに言及し、本トークセッションは終了した。
「ネットショップを作ることはどんどん簡単になるが、売れることは難しくなるだろう。同じ八百屋でも、つい、威勢の良い声を張り上げている八百屋に入ってしまうように、いかにウェブ上でSNSなどを介し、ユーザーとコミュニケーションを取れるか。そこで、いかにネットショップの色を出していくかということが、これからのEC事業者にとってもっとも大切なことだ」(星)
「今は、資本力がないと大手EC事業者に匹敵する規模に成長させることは難しいかもしれない。しかし、月商数百万円のネットショップはいくらでも残っていける。これからネットショップに求められるのは独自性。電話受付をする、当日配送する、仲良くなったら値引きしてくれるといった、色のあるネットショップにはファンがつく。そういったネットショップは、規模はそれほど大きくなくとも、残り続けると思う」(向畑)