米国時間の2025年10月7日、オラクルのAIクラウドERP「Oracle NetSuite(以下、NetSuite)」のグローバルイベント「SuiteWorld 2025」が開幕した。NetSuiteは中小企業でも比較的導入が進んでいることから、SuiteWorld 2025にはD2Cブランドなども登壇し、3日間にわたって最新機能や活用事例を共有する。初日の7日には、NetSuiteと連携しているShopifyが参加し、EC事業を拡大するための戦略にも話が及んだ。なお、詳しいセッションの内容は、後日レポートとして公開する。

AIエージェント搭載「NetSuite Next」発表 対話からインサイトを引き出す
オープニング基調講演では、NetSuite創業者のEvan Goldberg氏が、新たに「NetSuite Next」を発表した。NetSuite Nextには、対話型AIエージェントが搭載されている。同氏は「近代的なAIによって流動的な体験を提供する」と語った。

その中核となるのが「Ask Oracle」と呼ばれる自然言語アシスタントだ。NetSuite全体のデータセットを、検索・ナビゲート・分析・操作できる。具体的には、管理画面上で「今月の売上は?」などと尋ねると、Ask Oracleが社内のデータに基づいて回答する。必要に応じてグラフを作成することも可能となっている。

また、コンテキスト(背景)に合わせた回答を出せる点が、Ask Oracleの特徴の一つだという。質問している人の立場によって、回答の出し分けが可能となっている。ユーザーが回答にフィードバックすることで、継続的にAsk Oracleの精度を向上できるとのこと。
今回の発表において注目すべきなのは、ChatGPTの「Instant Checkout」との連携だ。2025年9月末にOpenAIが発表したばかりの同機能。顧客がChatGPTで会話する中で、興味を持った商品やサービスをそのまま購入できる。現時点で米国向けの機能だが、日本でも提供される可能性は十分に考えられるだろう。
たとえば、Ask Oracleに「この商品をChatGPTで販売できるか」と問いかけることで、NetSuiteで管理されている商品・価格・支払い方法・フルフィルメントなどの情報がChatGPTに連携される。これは、AIエージェント・企業・顧客間の連携を可能にするオープンプロトコル「ACP(Agentic Commerce Protocol)」によって実現される仕組み。
なお、NetSuite Nextの主な機能は次のとおり。まずは、1年以内に北米向けに提供が開始される予定となっている。
- AI Canvas:NetSuiteに組み込まれたコラボレーション・ワークスペースであり、ユーザーやチームが、データをアクションにつなげられる可視的な空間。問題の分析、アイデア出し、エージェント型ワークフローの実行が可能となっている
- ナラティブ・サマリーとインサイト:各種レコード・フォームやレポートなどで、自動的に生成される説明機能。相関関係や傾向をプロアクティブに提示する
- エージェント型ワークフロー:支払提案、ベンダー選定、照合、サプライチェーン運用など、複雑なタスクをAI主導で自動化する。主要な意思決定をユーザーの承認に委ねたり、AIに自律的に任せたりと、選択できるようになる
- ドキュメント・ナレッジ統合:請求書や契約書、領収書、PDF、規定集、トレーニング・ガイド、顧客の声、発注書といった多様な情報源から、大規模言語モデルが情報を抽出・検証する。手作業を減らし、NetSuiteの知識処理やワークフロー自動化の精度・効率を高める
データがすべて──『スパイダーマン』俳優のビールブランドが登壇
オープニング基調講演には、映画『スパイダーマン』に出演していたTom Holland氏が共同創設者の一人である「BERO Brewing」から、John Herman氏が登壇した。
BERO Brewingは、プレミアムノンアルコールビールを販売している。John Herman氏は「私自身ワインが大好きだが、中にはアルコールが飲めない人もいる。彼らが受け入れられるブランドが必要だ」と、立ち上げの背景を共有した。
「単なる飲料ブランドではなく、ライフスタイルブランドを作りたいと思っています。現時点で事業は順調に成長しており、イギリス中で販売されています。多くの代理店とも協業しています」(Herman氏)


立ち上げから間もない同ブランドだが、早い段階でERP「NetSuite」を導入した。Herman氏は「マーケティングが重要であり、高い水準でビジネスを行う上で必要だった。リソース不足などの要因で、これまでスタートアップが挑戦できなかった施策が、NetSuiteの導入によって実現できる」と説明する。
NetSuiteでは、顧客情報や在庫数、財務など、事業運営に欠かせない多様なデータの蓄積と管理が可能となる。Herman氏は「データがすべて」と繰り返した。在庫や取引、キャッシュフローを可視化することで、事業を最適化できるという。多くの取引先や販売拠点を有しており、さらに新たに倉庫を追加したBERO Brewingにとって、重要なデータ基盤となっている。