前回のあらすじ
第1回では、ソーシャルコマースの市場規模予測と、TikTok Shop(以下、TTS)の概要について記述しました。特に、TTSと従来のECとの違いについて、「検索」と「発見」という購買体験や、チャネルとしての価値という観点から解説しました。加えて、TTSのローンチから一定期間が経過したアメリカや東南アジアの海外動向を分析し、日本市場ではどのような影響がみられそうかについてもまとめました。
「検索」から「発見」へEC購買が変化する
従来のEC市場では、Amazonや楽天を中心に、ユーザーが目的の商品や商品カテゴリーを検索して購入する「検索型購買」が主流でした。しかし、TTSの登場により、消費行動に「ディスカバリー(発見)型購買」という新たな選択肢が加わりました。
TikTokのレコメンドシステムは、ユーザーの興味関心やアプリ内での行動履歴に基づいておすすめのコンテンツを提示するため、意図せず新しい商品に出会い、衝動的に購入するという購買体験が生まれやすくなっています。この「ディスカバリー(発見)型購買」は、ウィンドウショッピングに近い体験をデジタル上で再現しています。
企業はByteDance社が開発したこの精緻なレコメンドシステムを活用し、消費者にとって「刺さりやすい」商品を自然に動画に載せて提示することが可能です。ユーザーの「おすすめ」フィードに自社コンテンツが表示される機会を増やすことで、より多くの潜在顧客に商品を「ディスカバリー(発見)」してもらえる可能性が高まります。
このように、2025年6月30日に日本市場でもローンチされたTTSをきっかけとして、消費者のライフスタイルや購買体験が変化するでしょう。特に、若年層を中心に「偶然の出会い」を楽しむ購買スタイルが定着することで、TTSはソーシャルコマースの牽引役としての地位を確立していくと考えられます。
TikTok Shop発ブランドが登場する可能性も
TTSの特徴である「ディスカバリー(発見)型購買行動」は、特にスタートアップブランドにとって大きなチャンスとなります。従来、検索型ECや実店舗では、消費者からの認知度が高い、もしくは資金力のあるメジャーブランドが有利だったのに対し、TTSでは、ディスカバリー要素を活用して流行を生み出す新興ブランドが台頭する可能性があります。
海外でもフィットネス向け高タンパクスイーツ、ヘアエクステンション、ヘアケア、ビタミンサプリなどTTSを起点に流行したブランド・商品が多数存在します。これらの成功は、TikTokのユーザー属性を加味した親和性のある商品企画に加えて、ライブ配信やショート動画での視覚的訴求、クリエイターとの連携によるコンテンツ発信を通じて実現されています。TikTokのトレンドを捉えた上で、TTSを最大限に活用し、若年層を中心に認知を広げることで、短期間で市場に浸透するブランドが登場するでしょう。
一方で、メジャーブランドにとってもTTSは新規ユーザーや若年層へのアプローチを強化する機会となります。ただし、新興ブランドに市場を奪われるリスクもあるため、メジャーブランドは王者の戦略としてTTSを積極的に展開する必要があります。