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Temuはなぜ安いのか? 販売・調達・流通から激安の仕組みを解説!

 激安で注目されているTemu。価格にばかり関心が向きがちだが、安い理由はなんなのかも知っておきたいところ。そこで今回は、Temuが安さを実現、維持するために構築した仕組みを取り上げたい。販売と調達、流通という3つの側面から激安の仕組みを解説していこう。

激安で世界を相手に勝負するTemu

 Temuといえば激安。億万長者気分でお買い物というキャッチコピーのとおり、最大90%OFFというセールが開かれることも珍しくない。在庫処分や数量限定のセールに加えてタイムセールも日々開催され、「-87%」「残り5点」「まもなく売り切れ・品切れ間近」といったユーザーの買い物心をくすぐる売り文句が画面にズラリと並ぶ。

 ファッションアイテムはもちろんのこと、日用品や家電、美容健康グッズ、ガーデニング、ペット用品、工具、楽器など、品揃えも実に幅広く、大規模なショッピングモールを探索するような買い物の楽しさを提供しているのが特徴の一つといえるだろう。

 Temu内に設けられた100円ショップでは、50円以下で買える小物もあり、ヘアアクセサリーやメイクアイテムを中心にダスターや両面テープ、カードホルダーなどの商品が選び放題となっている。どの商品も、安さを実感できる価格で提供しており、それが2022年9月の創業から世界を相手にTemuが急成長を遂げた理由だと考えられる。

Temuが安い理由

 Temuの大きな魅力である安さ。その安さを実現し、維持するには構造的な仕組みが欠かせない。つまり、Temuのビジネスモデルだ。ここでは、Temuの安さの理由となっているビジネスモデルを、販売と調達、流通という3つの視点から見ていこう。それぞれにどのような施策を取り、それがどのようにTemuの安さにつながっているのかを知ることで、自社ビジネスとの違いや差別化ポイントが見えてくるはずだ。

販売での施策

 まずは、販売での施策から。安さが売りのTemuで、その安さのためにどのような工夫が重ねられているのか見ていこう。

実店舗を持たないオンライン販売

 低価格を維持するには、余分なコストをかけないようにしなければならない。その最たるものが固定費であり、地代家賃や水道光熱費、人件費といった毎月のコストが発生する実店舗だといえる。Temuは、ショールームを含む実店舗を一切持たないオンライン販売で、そうした固定費を削減している。

 ウェブサイトを使ったオンライン販売に限定するメリットはそれだけではない。地理的かつ時間的な制約がないため、24時間365日、世界のどこからでもユーザーはデバイスを通して商品にアクセスが可能となり、加えてデータ収集やアクセス解析もしやすくなる。

 マーケティング面でも、エリアや性別、年代ごとにどのような商品がよく売れているか、何が求められているかの分析が容易になるため、気候や文化などの違いを考慮し、エリアごとに品揃えやセール品を変更するといった対応も効率的に可能だ。これらが、Webサイトに特化した販売促進を模索することだけにリソースを集中できるという強みにつながっている。

キャンペーンやクーポン、セールなどの驚きの割引率

 Temuの安さはキャンペーンやクーポン、セールといった割引率の高さにもある。セールでは最大70~90%OFFがもはや当たり前のようになっている上、セールをせずに売れているベストセラー品でも50~80%台の割引率が多い。

 また、Temuはクーポンにも趣向を凝らしている。アプリダウンロードや新規ユーザー限定のクーポンはもちろんのこと、メルマガ登録やインフルエンサーによるクーポン配布、アプリを起動するとランダムに発生するルーレットで当たるクーポンもあり、安く買わせるための仕掛けがふんだんに盛り込まれている点も特徴だ。

 クーポンには使用期限や最低購入価格が設けられていることが多いものの、「そんなに安く買えるなら」と結果的に購買意欲を刺激することに成功しているから、このような成果につながっているのだろう。そのほかにも、無料ギフトの配布キャンペーンや、人気商品が格安で買えるキャンペーンなどが存在している。

 その一方で、一部のユーザーからは、広告がしつこいと評価されていたり、あまりの安さに粗悪品を掴まされるのではないかと感じられていたりするのも事実だ。

安さ優先のクオリティとノーブランド品

 商品の安さを実現するには、値段に応じたクオリティーで折り合いをつけなければならない。Temuで取り扱っている商品は、基本的にノーブランド品だ。ハイブランドや高級品ではなく、日常生活に欠かせない消耗品が、取扱商品の中心になっている。

 Temu社は自社工場を持たず、中国国内メーカーやパートナー企業に製造を委託することで、原材料費や人件費といった製造コストを低く抑えている。これも、安さを維持できているポイントだ。1990年代ごろから「世界の工場」とまで呼ばれた中国内の生産工場の設備や実績、ノウハウを活用している格好だ。

 商品のクオリティについては、Temuが独自に品質基準を設けているというが、商品の品質問題が頻発しているのも事実だ。関連する課題として模倣品がある。また、商品には当たり外れがあるといわれ、レビューで確認できる部分を超えた品質問題があることも頭の片隅に置いておこう。

良心的な送料

 Temuの安さの理由のひとつに、送料の安さがある。中国からの発送は国際配送となるため、仮に日本国内の配送業者を利用した場合、荷物の大きさや日本国内のどのエリアに発送するかによって料金は異なるものの、送料だけで数千円から数万円がかかるのが一般的だ。

 一方、Temuで設定している送料は基本的に無料となっている。無料といっても、最低購入金額が設定されていて、新規ユーザーの場合は1,400円、2回目以降は2,100円以上の購入が必要となるほか、購入先によっては、3,500円以上となる場合もあると記されている。

 しかし、合計数千円の買い物で国際配送の送料が無料となるのであれば、Temuで買い物をするユーザーにとって、Temuが提示する送料はお得感が高く、良心的な設定だといえる。加えて配送が当初の予定より遅れた場合は配送遅延補償もあり、Temuの買い物に使える600円分のクレジットが付与されるという手厚さだ。ただし、手厚さは裏を返すと遅配が日常的である可能性もあるため、大事なプレゼントなど期日までに必ず手元に届いてほしい商品を頼む際には注意が必要かもしれない。

調達での施策

 次に、調達での施策を見ていこう。メーカーではなく、仕入れた商品をユーザーに販売する小売業のTemuが、どのような方法で商品の価格を低く抑えているのか見ていきたい。 

入札システム

 Temuでは、入札システムを導入している。複数社が納入希望価格を提示し、その中でもっとも安い価格を提示した企業に仕入れを許可するというものだ。日本では、入札や相見積もりが商習慣として根づいているため目新しさは感じられないかもしれない。

 注目したいのは、その頻度だ。Temuでは、業者や商品が切り替わるタイミングではなく、1週間に1度というかなり高い頻度で定期的に入札を実施しているといわれている。Temuの加盟店は、決められた期限までの価格提示を求められ、それができないとTemuでの販売が許可されなくなる可能性があるという。

 もし競合他社が自社よりも低い価格で類似する商品をTemuに提示していたら、翌週には自社商品の販売が停止になるというシビアな世界だ。Temuの安さを維持するために、メーカーには低価格維持のための相当なプレッシャーがかかり、努力が求められている。

中間業者を媒介しないメーカーからの直接仕入れ

 入札システムについての説明でも触れたが、Temuがなぜ安いかという理由のひとつには、中間業者を媒介しない中国国内メーカーからの直接仕入れという仕組みがある。

 卸売業者のような中間業者は、消費者であるエンドユーザーに商品を販売するのではなく、メーカーから仕入れて販売会社などに流通させる役割を担う。そういった業者を経由すると、利益確保の関係でどうしても顧客に販売する際の最終的な価格が上がりやすい。

 中間業者を媒介しないメリットには、中間業者への手数料といったコストの削減に加えて、商品の流通が迅速になることや在庫管理の効率化といったものがある。このことが、最終的な商品の低価格維持に加えて、Temuの利益率の向上や市場での競争力強化につながっている。

大量仕入れ

 大量仕入れも、価格の交渉に効果的な手法のひとつだ。いわゆる、ボリュームディスカウントと呼ばれるものである。商品を売る側のメーカーにとっては、大量に販売することで在庫を一掃する機会にもなることから、単価の引き下げや割引に応じるケースが多いとされている。

 メーカーだけでなく仕入れる側にとっても、大量仕入れは安定した供給を意味する。都度、在庫を確保しなければならない労力や価格変動のリスクが低減されるからだ。Temuのように、安さを売りにして世界を相手にオンライン通販で大量販売を行うビジネスであれば、一つの商品を売り切るのはそこまで難しいことではない。また、在庫を大量に確保すれば、セールやキャンペーン品としてイベントを展開しやすくもなるため、双方に利点が大きい仕組みだといえる。

流通での施策

 Temuの安さを解説していく最後の視点は、流通だ。ここでは、Temuが安さを維持するために、流通でどのような施策を取っているのか見ていこう。

中国から世界へ発送

 送料のパートでも触れたが、Temuの安さのための努力は送料にもある。顧客に対しては料金設定を安くしているが、オペレーション面では流通ルートの効率化を行っている。具体的には、中国国内の要所にメーカーから商品が集まってくる倉庫や流通センターを持ち、各国へ向けて航空便で発送されるという流れだ。

 中国から発送された商品は、北南米やヨーロッパ、アフリカ、アジアといった世界の主要エリアにある倉庫や流通センターを経て、各国へと運ばれる。そこからは各国の配送会社が担当し、商品を購入したユーザーの手元に届けられるという仕組みとなっている。

 Temuは、世界各国に点在するユーザーに購入から5~12日で届けるとしているため、このように効率的な配送ネットワークを構築し、素早い商品の発送を実現している。

専用の航空便をチャーター

 なお、Temuは貨物専用の航空機をチャーターしている。1日の流通取引総額は2022年時点で平均150万米ドル(約2億2,500万円)ともいわれており、仮にユーザー単価を2,000円と設定すると、1日に11万件以上もの配送を取り扱っていることになる。

 チャーターしているのは、大型機のボーイング777型フレイターで、同機の総搭載重量は約100トンといわれている。絶え間なく入ってくるオーダーをさばくため、このような貨物専用大型機を連日のように飛ばしているという。中国から日本へのプライベートジェットをチャーターするだけでも1,500万円以上という世界で、どれほどのコストが投じられているのか、想像するだけでもスケールが大きいことがうかがえる。

 それでもTemuで取り扱う商品が激安を維持しているのは、実質的にTemuが送料を負担しているからだ。現在は航空便に頼っているが、今後は陸送や海上輸送のルートを開拓できるのかが、課題だといえる。

世界各地の配送業者とのネットワーク

 Temuの商品は、まず世界の大きなエリアごとにまとめて空輸され、そこから各国へ運ばれた後に、各国の配送会社によってユーザーの手元に届けられると前述した。このように世界各地の配送業者と大規模なネットワークを持つことも、送料の維持に役立っていると考えられる。

 配送業者にとってTemuは、ほぼ間違いなく大口の顧客だ。ユーザーからの人気があり、一定量以上の荷物があるとくれば、優良顧客なのかもしれない。そうなってくると、やはり価格交渉に応じるというのが自然な流れだからだ。

 なお、このように世界に張り巡らされた配送ネットワークは、Temu独自というよりも、PDDホールディングスによる先発の越境ECとして知られている「拼多多(Pinduoduo)」が構築したといわれている。同じグループ内企業のため、既に整備された配送ネットワークを使える点も、商品価格への影響が大きいといえる。

Temuの戦略的な「安さ」

 ここまでTemuがなぜ安いかの理由を、販売と調達、流通という3つの側面から見てきた。Temuの安さが偶然の重なりではなく、明確な意思をもって打ち出されている戦略的なものだとわかるだろう。ここでは、Temuの戦略的な安さの理由についてさらに考えてみたい。

急成長期の認知拡大戦略

 Temuの創業は、2022年9月。たった数年の短い期間に、安さと急成長ぶりで世界にその名を認識させた。創業者である中国人のColin Huang氏が、アメリカのボストンでTemuを立ち上げ、その後の世界展開に向けて北米からスタートしたのは実に戦略的だ。

 Temuが着目したのは、米国で人気の高いアメリカンフットボール。創業から半年後となる2023年2月、プロリーグNFLでのチャンピオンを決める大会である「スーパーボウル」でのことだった。当時、北米で伸び悩んでいたとされるTemuは、試合中に6回もスポットCMを流しただけではなく、開催期間中に無料ギフトを配布して認知を高めた。このときのコストは合計で数千万米ドルにも及ぶともいわれている。

 そのほかにも、2023年にはアメリカでのマーケティング費用に約30億米ドル(約4,500億円)を、Facebookに2億米ドル(約300億円)を投じたとも推測されている。PDDホールディングスは、Temuの業績を公表していないため広告費の詳細は不明だが、アメリカでの認知拡大を狙って莫大な広告やマーケティング費用を投じていることは明らかだ。そして、その効果が出ていると受け止めていいだろう。

安さを維持するためのコスト

 Temuの売りである商品の安さを維持するために、Temu社はコストを惜しんでいない点にも注目したい。送料を実質的にTemuが負担していることには触れたが、実はそれだけではない。

 Temuには、購入者保護プログラムという名の補償システムがある。商品の不達をはじめとして、受け取り時点での破損や出店者の説明とは異なる商品が届いた場合にも、返金に対応している。買ってはみたものの、届いた実物が気に入らないから交換したいという要望にも対応しており、こうした要望に対しては新規注文をして、購入品を返品できるとしている。

 また、入札システムによって同一店舗の同一商品が値下がりした場合、その差額の返金にも応じている点も特徴だ。30日以内といった一定の条件はあるものの、「もっと安く買えるはずだった」といったユーザーの損失感にも対応しており、前述した配送の遅延に対する補償も含めて、ユーザーに対して手厚い保護をしているのは事実だ。

PDDグループを母体とする潤沢な資金

 ここまでの低価格を維持できるのは、Temuの親会社がPDDホールディングスであることも大きい。同社による「拼多多(Pinduoduo)」は、中国で3番手の越境ECで、最大手のアリババ、京東(ジンドン)に次ぐ売上を誇る。この3社は中国3大ECと呼ばれ、中国市場8割以上のシェアを占めるとされているほどだ。

 2024年第2四半期(4~6月)のPDDグループの売上は133.6億米ドル(約2兆40億円)で、前年度同期に対して186%の結果だったことを公開している。グループ全体での純利益は、44億米ドル(約6,600億円)。このような資金力を持った親会社(経営母体)の存在があるからこそ、マーケティングや広告に投じた莫大な費用をはじめとして、国際配送の料金負担や返品、差額の返金などに応じられるのだろう。

安さを維持するための課題

 PDDグループの一員として潤沢な資金力を背景に躍進するTemuだが、解決が望まれている深刻な経営課題もある。具体的には、次のようなものだ。

  • 商品の品質や安全基準
  • アプリやWebの情報セキュリティ
  • 強制労働疑惑
  • 模倣品(盗作)疑惑
  • 成長が鈍化した際のコスト回収

 Temuの商品からは、度々、人体への有害物質や発がん性物質が検出されている。検出されること自体がまず問題なのだが、その濃度と頻度の高さが問題に拍車をかけている格好だ。

 また、情報セキュリティ面での懸念もある。Temuでクレジットカードを利用した数日後に不正利用されたというケースや、アプリが不必要な個人情報まで取得しているという指摘を受けたこともある。

 ウイグル自治区での強制労働疑惑や、多くの模倣品疑惑も絶えない。ウイグル自治区との問題は根深く、Temuが創業したアメリカでは2022年6月から、ウイグルでの強制労働による輸入品ではないと証明されない限り原則輸入禁止とするウイグル強制労働防止法が施行されている。

 一部には、売上や利益率の鈍化を懸念する声もある。2022年9月の創業から破竹の勢いで成長を遂げているTemuに、いつか売上の鈍化が訪れるのは当然だが、気になるのはその影響を受けて商品単価や送料が値上がりするのではないかということだ。

 Temuに限らず、安さを看板に掲げるビジネスには、こういった課題がある種つきものなのかもしれない。しかし、安さを優先するあまり、人体や環境への影響、人権の尊重といったビジネスの前に大切なことをないがしろにしていいということにはならない。

 激安には激安の理由がある。Temuの場合、ポジティブとネガティブという両面がそれぞれ極端かもしれないが、表裏一体であることを知っておこう。

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