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初のインド開催「SAP TechEd 2023」 生成AI開発ニーズを先取り
最初に紹介するのは、SAPの技術者向けイベント「SAP TechEd 2023」です。同社のTechEdは例年、米国・ラスベガスで開催されますが、今回初めてインド・バンガロールでの開催となりました。会期は、2023年11月2日〜11月3日。テーマは「Where ideas get real(アイデアが現実になるところ)」です。
SAPはERPなど業務アプリケーションの大手で、開発者向けにはPaaSの「SAP Business Technology Platform(BTP)」を持ちます。BTPは、開発者に対してSAPのアプリケーションを拡張したり、分析したり、他のアプリケーションと統合したりといった機能を提供する技術プラットフォームです。イベントの主役はこのBTP、そして生成AIとなりました。
SAPは、2023年5月に開催された年次イベント「SAP Spphire」で製品ポートフォリオ全体にAI機能「SAP Business AI」を組み込む戦略を強化すると発表し、同年9月にAIエージェント「Joule」を発表しています。そして、本イベントではBTPに開発者向けの生成AI機能が加わると明かされました。
大きな発表は、BTPに加わったベクトルデータベース機能です。PDF、動画や画像など様々な形式のデータをベクトル形式で保存して、AIのトレーニングに使えるようになりました。これとRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)を組み合わせることで、自社のERPなどに入ってきた最新のデータを活用できるといいます。ChatGPTやGeminiなど、公開情報でトレーニングされた大規模言語モデル(LLM)は、直近の情報や自社固有の情報が含まれていません。RAGを利用することで、その問題を緩和できます。
また、BTPの上に「AI Foundation」としてAI活用のためのレイヤーを設け、Microsoft(OpenAI)、Cohere、Anthropicなど、複数のLLMを利用できるようにする旨も発表しました。なお、SAPの幹部によると、生成AIの盛り上がりを受けて開発ロードマップを変更・前倒ししたとのこと。「夏休みはなかった」と苦笑しながらも、短期間でベクトルデータベース機能などを提供時期とともに発表できたことについて、胸を張っていました。
なお、プロコード開発アプリとしては、JouleがJavaおよびJavaScriptアプリケーションの作成をサポートする「SAP Build Code」が発表されました。2022年11月の「SAP TechEd 2022」で発表されたノーコード/ローコードの「SAP Build」に対する形で、開発者向けのツールも一新されています。これら新機能により「すべての開発者をAI開発者に変える」と、CTOのJuergen Mueller氏は述べていました。
Mueller氏は、CTOに就任した2019年から何度となくイベントのステージに立っていますが、今回はプレゼンテーションのスキルが格段に上がっていることに驚きました。Mueller氏は、今年で42歳になりますが、SAPはCEOも40代前半です。新しい技術の取り込みや適応に柔軟なのは、エグゼクティブが若いことも関係していそうです。
さて、開催地のインドですが、SAPがSAP Labs Indiaを設立したのは1998年、IT企業では比較的早期から進出しています。「SAP BTP」「SAP S/4 HANA」など、ほぼすべての主要製品の開発が行われており、同社の特許の約25%がここで生まれているそうです。今や、AI人材は取り合いの時代。インドはAIをはじめテック人材が豊富なこともあり、バンガロールを含め、5拠点をインドに展開しています。
私にとっては、初めてのインド来訪でしたが、若さと勢いを感じました。