「運ぶ」だけではないトラックドライバーの業務
昨今、「トラックの待機時間」にスポットライトがあたるようになってきた。トラックが工場や倉庫に到着しても、「積み込みの準備ができておらず待たせてしまう」状況は珍しくない。
ドライバーの労働時間の制限が叫ばれる中、商品を運ばず待機するだけの時間が生まれるのは各事業者にとって痛手だろう。ネスレ日本も、過去に同様の課題を抱えていた。
夏場には、同社の人気商品「ネスカフェ」などのペットボトルコーヒーの需要が高まる。繁忙期になると、同社の商品を小売店などに運ぶトラックが長い列を作っていたという。当時のトラックドライバーの待機時間は約2時間におよび、近隣住民への影響も懸念されていた。そんな現場を目にした伊澤氏が、待機時間削減への取り組みを始めたのは2015年だ。
「取り組みを始めた時期には、既に将来的なドライバー不足も目に見えていました。実際に工場へ訪れ、何台ものトラックがずらっと並んでいる光景を目にしたとき、『何とかしなくては』と感じたのです」(伊澤氏)
伊澤氏らはまず、電波を受発信して位置を特定するBeacon(ビーコン)をドライバーに渡すことにした。Beaconによりトラックの位置情報を把握し、工場に到着するトラック数をコントロールする仕組みだ。さらに2022年には、海外拠点で導入している輸送管理システムをネスレ日本でも導入。2時間だった待機時間が、現在では30分にまで削減された。
トラックの待機時間削減だけでなく、ネスレ日本は比較的早い段階から物流改革に着手してきた。その理由は、ネスレが2005年に発表した「共通価値の創造(Creating Shared Value = CSV)」という概念にある。
「CSVでは、当社のバリューチェーンに関わるすべての方々が、経済的にも社会的にも幸せであるために協働することを目指しています。この概念に沿って、物流分野でも事業活動を推進していこう、となりました」(伊澤氏)
ネスレは現在188ヵ国に展開し、1日に10億点以上の商品を販売している。言い換えれば、それだけ社会にプラス・マイナス双方のインパクトを与える存在であり、同社のような企業はより良い影響を社会にもたらす責任があるともいえる。気候変動への取り組みについても、「2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を半減、2050年までに実質排出量ゼロを達成する」という野心的な目標を立てている。